渦潮へ
「全艦、突入せよ!」
司令長官の伝令を受けた駆逐艦白雲は後続に続く朝雲、山雲に突入命令を出した。三隻は速力を最大に上げ警戒態勢を厳にした。
突入開始の報はすぐさま上空を飛ぶ観測機によって長官らに伝わる。
「三隻は間もなく海面荒い渦潮海域へ突入します」
主力部隊救出作戦。
概要:渦潮に巻き込まれた重巡二、軽巡一を曳航によって救出し、最低でも重巡二隻は危険海域からの脱出を図る。
三隻は単縦陣を成して艦列を乱さず目標に向かって一直線で進んで行く。5mはある波を堂々と超えて三隻は主力部隊が待つZ地点へ急いだ。
道中、山本長官の指示によって追加動員された駆逐艦磯波を加え、特務水雷戦隊の数は四隻を数える。
「磯波、しっかり着いて来るのよ!」
「了解しました!」
駆逐艦磯波、艦列に加わる。
「磯波から発光信号! 安全海域にて重巡鳥海を旗艦とする曳航艦隊がただいま現場海域へ到着したようです!」
巨大な渦潮よりずっと離れた後方海域。長官がA地点と定めたその海域に重巡鳥海を旗艦とする第一特務艦隊が派遣された。
編成は軽巡名取、木曽、川内。駆逐艦初月、涼月の六隻。
特務水雷戦隊はこのA地点に向かう事を最終的な目標と定めた。
「白雲から発光信号! 右舷150に巨大な渦潮を見とむ」
「艦列を出来るだけ乱さず波浪に警戒せよ! 山雲に発光信号!」
磯波が艦列に加わって20分後、特務水雷戦隊は巨大な渦潮の中心部へと差しかかろうとしていた。艦隊から見て右側約150kmの地点に渦潮の中心部がある。
そこに飲み込まれたらもう最後。逃れる事は出来ない。
「左舷から巨大な波が接近! 波の高さは7mと思われる!」
「衝撃に備え!」
次の瞬間、白雲は波に飲み込まれ大きく傾斜した。だが、この傾斜は海流の激しさに助けられ直ぐに復旧し再び速度を上げてZ地点を目指した。
後続の各艦も大きく影響したが全艦健在。損傷もなく無事、一番危険とされていたB地点を通過した。
「Z地点まで距離600! 間もなく流れの速い海域に出ます!」
「速力をなるべく落とさないで! 機関出力一杯!」
波の流れに負けぬよう、白雲は自らの速力を上げた。
すると、ほどなくして目の前から見慣れぬ軍艦が横切り、渦潮に飲み込まれて行った。上陸支援艦隊に所属していた英駆逐艦フィアレスだった。
フィアレスは脱出を試みていたが友軍駆逐艦ファイアドレークと衝突。操舵不能となり結局、二隻とも飲み込まれた。
「各艦! 警戒を厳に……!」
命令を出そうとしたその時、白雲を突然激しい衝撃が襲った。




