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渦潮

「あの黒い渦潮は何なんだ!?」


 近くで尻餅をついていた男子が海を見て叫んだ。学園から見える海は今までの穏やかな海ではなく、まるで逆鱗に触れたかのような荒れ狂う危険な海域に変貌していた。

 当然、影響は敵だけではなく味方にも大きく響いた。


「長官! 第五艦隊の前方。敵上陸支援艦隊の真下の海域に突然、巨大な渦潮が発生しました!」

「……規模は?」

「ハッ! 観測機によれば過去最大規模。艦艇すら飲み込む巨大な渦潮との事」

「……まずいな」


 山本長官が息を呑んだ理由。それは艦隊の艦首が丁度その渦に向かって進んでいた事。艦隊は第二戦速を維持しつつ敵艦隊に向かって切り込もうとしていた。

 勿論、その敵艦隊とは今にも海の底へ引きこまれそうな上陸支援艦隊の事である。


「反転180度、各艦は最大戦速で現海域を離脱せよ!」

「ハッ!」


 長官の放った伝令は直ぐさま隣にある通信室へと伝えられ通信員がこれを正確に読み取り伝達した。第五艦隊三隻はこれにしたがって全艦が一斉に艦首の向きを変え、離脱を試みた。

 向きを変えるためには少々進まねばならない。だが、進んだ先は今も勢力を強めている巨大な渦潮だ。


「足柄、阿武隈! 着いて来てる!?」


 先頭を行く旗艦妙高は荒れた海域の中、後続に続く二艦との連絡を取っていた。山本長官の伝令が入ったのは壊滅寸前の敵艦隊へ向け砲撃の第二撃を加えようとした時。

 主砲は全て装填済み、何時でも撃てる体勢だった。


 もし、このタイミングで目の前の成長していく渦潮に巻き込まれたらひとたまりもない。


「此方阿武隈、揺れが酷いけど戦闘に支障なし。何時でもいけるわ!」

「此方足柄! 傾斜が酷い! 海水を注水して何とか復元してみせるわ!」

「了解! 足柄、なるべく無理をしないでね!」


 妙高、阿武隈、足柄の順だが戦闘時には妙高、足柄、阿武隈の順だった。だが、足柄は運悪く敵の反撃に合い船体に穴を開けていた。

 そこへ普段よりも多い海水が船内へと入り込み足柄は今も傾斜し続けている。


 この状況が続けば確実に沈む。

 まさに危機的状況であった。


「長官! 足柄が5度の傾斜! 現在、復旧のため左舷に海水を注水中との事!」

「後続の艦隊は?」

「現在、増援として第三艦隊が向かっており、そのほかでは同艦隊所属の駆逐艦三隻がまもなく現場海域を離脱しようとしています」

「三隻を呼び戻せ。第三艦隊は間に合わんだろう……」

「了解!」


 急行する第三艦隊では間に合わないと判断した長官は、付近を航行中であった白雲を旗艦とする水雷戦隊を再び呼び戻した。

 事前に海の異変に気づいていた水雷戦隊は再び、あの荒れた海域へと足を運ぶ事になった。

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