魔法「ミサイル」
ドアを大きな丸木で抉じ開けた先生達は武装集団の激しい攻撃にさらされた。現代のようにサブマシンガンや猟銃のような殺傷力のある武器ではないものの、当たればそりゃあ痛い。何人かは突入時にリタイヤ。無人機の援護を受けながら保健室へと撤退した。
「数が多い! クソッ! 援軍はまだか!」
「そうよ! 校長先生は……校長先生は何処に居るのよ!」
ある女性教師が校長先生の不在に気がついた。
「そうだよ、あの大魔術師が居ればこんな奴らなんて一瞬で消え去るのに!」
「誰か校長先生を探してこい! 至急だ。誰か探してこい!」
突貫工事で築き上げた頼りないバリケードは敵の攻撃系魔法によって今にも崩壊しそうだ。近くにあった机や椅子を山のように積み上げただけのバリケードでは長く持ちそうにない。
「ちょっと見てくる!」
「私も!」
「頼んだぞ!」
二人の教師が戦線から離脱しすぐさま校長室に向かって走り出した。体育館上空を飛びまわっていた無人攻撃機もこの二人の教師に続き現場から離脱した。ミサイルは全て使用済み。残りは機銃のみとなっている。丁度その頃、ロングちゃんとデータリンクした海上自衛隊のミサイル護衛艦「あしがら」がミサイルの発射態勢に入る。
「来ました! 今、船から通信が入りました」
「なんて言ってきているの?」
「射撃準備良し……と」
「射撃準備のまま待機」
「りょ、了解。伝えときます」
体育館にミサイルをぶちこむのは大前提。だが、本当に敵の司令官は体育館の中に居るのだろうか。何かに引っかかった私は一先ず、上空に居るグレイ・アイとミナミさんの情報を待つ事にした。数分後、ミナミさんが敵の正確な数を教えてくれた。
「敵の数は体育館に20人。校長室に5人よ。後はみんな戦闘不能になった連中ね」
「合計25人か」
一撃で仕留めるのは難しいだろう。
「分かった、ロングちゃん。『あしがら』に打信、ミサイルの発射を許可する」
「は、はい! ミサイルの発射を許可します……?」
情報を受け取った「あしがら」は垂直発射システム、VLSの蓋を開放しミサイルを打ち上げた。「あしがら」が10発、同行する護衛艦「てるづき」からもロングちゃんの繊細な操作によって6発打ち上げられた。「てるづき」はミニイージスとも呼ばれVLSもしっかりと装備されている。
「順調に飛行中です!」
「そのまま10発は体育館の中へ! 6発は校長室に突っ込ませて!」
「分かりました!」
「あしがら」から離れた10発のミサイルは生きているように軌道を変えながら体育館の入り口に差し掛かり、命中した。3発は入り口に引っかかって爆発、残りの7発は中で炸裂した。同時刻、校長室へ向かっていた6発のミサイルは全て窓ガラスに弾着。盛大に窓ガラスを粉砕しそのうち1発が中で爆発。爆風によって校長室に飾ってある装飾品は全てなぎ払われた。
「15発中、11発が命中! 残りの4発も問題なく炸裂しました!」
「ロングちゃん、校長室に向かってミサイルを2発打ち込んでみて!」
「分かりました!」
校長室を担当した護衛官「てるづき」が装填を直ぐに済ませ立て続けに2発を打ち上げた。
「な、何がどうなっている!?」
「こ、こんな所に居られるか! 俺は外に出させてもらうぞ!」
「お、おい! 待てよ!」
爆発後の白い煙が体育館の中に充満し、人質となった女子生徒達は相次いで咳き込み、恐怖に駆られた武装集団の一人が裏口からグラウンドに向けて走り出した。彼の友人と思しき武装集団の男もその後を追って体育館を退出した。
『こちらグレイ・アイ、武装集団と思しき人物二人が体育館から逃げ出した』
グレイ・アイの報告が直接私に届き、私は打ちもらせるわけには行かないと判断し対処を別の護衛艦に任せた。
「ロングちゃん!」
「は、はい!?」
「ちょっと良いかな?」
「な、何ですか?」
私はロングちゃんの傍に近寄ってある護衛艦に指示を出した。
『了解! これより当艦は現場海域に急行する! 取り舵一杯ッ! 艦隊から離脱する!』
『了解! 取り舵一杯ッ!』
一隻の護衛艦がヘリコプター搭載護衛艦「いせ」を中心とする第2護衛大群の陣列から離れ艦首を学園側に向けた。
「な、なんだよ……あの白い煙は……」
「あれも敵の魔法なのか!?」
一方その頃、グラウンドまで走って来た武装集団の二人は上空を飛翔するミサイルを見上げ茫然と立ち尽くしていた。彼らは目の前を音速で通り過ぎていくミサイルを魔法と称した。
「おいお前ら! 何逃げてんだ! 貴様らの行為は逃亡罪に値するぞ!」
二人の脱出に気がついた一人の幹部が魔法陣を展開させながら二人に忠告する。彼らに取って敵前逃亡は許されない行為なのだ。
「あんな煙だらけの所に居られるか! 俺はもう家に帰るぞ!」
「だから待て! 落ち着け!」
「これが落ち着いていられるか!」
ヤケクソになった武装集団の一人は着ていたジャケットスーツを脱ぎだした。恐らくパニックに陥っているのだろう。遠くから見るとただのヤバい奴にしか見えない。
「お、落ち着け!」
「落ち着いていられるかァー!」
ついに顔面マスクを脱ぎ地面へ叩きつけた。彼の友人と思しき武装集団の一人が止めに入るも彼は止めない。
「……何だ? この音は?」
二人を刑に執行しようとした幹部が空から聞こえる奇妙な音に気がついた。
……が、もう遅い。




