ギルドのポスター
シャールが見せたのはネット小説ではありがちな冒険者ギルドの宣伝ポスターだった。どこかで張られていたのだろうか。ポスターの角に穴が一つずつついていた跡があった。
「今勇者の数が非常に足りないらしいのですよ! それでギルドの近くにあった掲示板にその宣伝ポスターが張ってあったわけで」
「いや、そりゃあ言わなくても分かるけど、勇者の数が足りないてっどう言う事よ?」
「私の情報によれば以前、この辺のダンジョンへ攻めあがった際に多くの勇者様がモンスターの餌食になったとかならなかったとか」
まさかそこら辺の雑魚モンスターに食われたわけじゃあないでしょうね? それとも肉食恐竜的な何かがダンジョンの森に居たのかしら。
「そこでシエスカさんが冒険者に登録して、ガッポガッポ稼げば!」
「却下。私、そもそも運動好きじゃあないし……インドア派だし」
「たまには外へ出ましょうよ! インドア派てっ言うのが何かは分かりませんけど」
ともかく私の前世では生粋の帰宅部。そんな見るからに面倒臭そうな場所に行きません。むしろ行きたくありません。私の帰宅部魂は異世界でも健在なのである。帰宅部万歳。
「それよりもそろそろ午後の授業ね」
「あっ、まだパンが……スープも残っている! 急いで食べないと!」
ガツガツと勢いよく食べ始めた。おいしそうなのは分かるけど、喉に詰まらせたりしないでよ? 一応、向こう側の知識ならまだちょっぴり、ほんの指先程度なら知っているけど。
「ゲホッ、ゲホッ……ゲホッ!」
「ちょっ、思っている傍からッ! ちょっと、大丈夫!?」
私は席を立ってその記憶を頼りに応急処置を施した。それによってなんとか大事にならずに済んだけど、私達二人は仲良く、午後の授業に遅刻したのであった。
「あぁ……宿題が増えたよぉ……」
「でも少しは減らしてもらえたのよ? はぁ、二倍になっていたらどうなっていた事か」
「でもあの時は本当にありがとう」
「まぁ、無事で何よりだわ」
午後の授業は前世で言う数学のような授業。はぁ、宿題が二倍にならずに済んでよかった。
「では次、シャールさん」
「はえッ!? え、えっとぉ……」
「聞いていなかったのですか? ではシエスカさん」
「ひゅい!? わ、私ですか!?」
「シエスカさん、貴女もですか?」
違う違う、ちゃんと聞いていました! でもでも、私、前世でも数学は大の苦手でよくて赤点より上ぐらい。そんな私がこんな問題を解けるわけが無いよ! こんなときに電卓とかがあったら一発なのに……。
「ファ……ファイトです! シエスカさん!」
「アイェェェ!? やっぱり私になるのぉぉ!?」
まずい、まずいまずい。幾ら転生者の私でもそろそろ時間が狭まってきたよ……これはもう、アレしかない。鉛筆に数字を書いてそれをコロコロ転がして最終的に表になった数字を言うアレ! もうこれしかないね!
「サール先生!」
「カ、カエサル先生ではありませんか。どうしたんですか。そんなに慌てて」
「大変です! ケケの森で実技演習中の3年生が突如、大量の魔獣に襲われたらしいのです!」
「そ、それは本当ですか!? カエサル先生!」
私が筆記用具から筆を取ろうとしたそのとき。ドアを思いっきり抉じ開けて確か……2年生のカエサル先生が突然、授業中に介入してきた。先生曰く、森で演習中の3年生が突然、大量の魔獣に襲われたのだと言う。
「モンスターの群れは3年生が何とか食い止めているらしいのですが、それでも数百体以上が学園へ向けて真っ直ぐ突っ込んでくらしいのです」
「本当ですか?」
「本当です!」
「……一先ず、生徒達を安全な場所に避難させましょう。そうしましょう!」
「はい! 僕は急いで他の先生にも伝えておきます!」
「避難先は講堂で!」
カエサル先生が居なくなった後、教室はざわめきだした。入学式のあの場所。講堂てっ言うんだ。
「聞きましたか皆さん。 此処は危険と言う報告が立った今入りました。これより授業を中断して自主的に避難を始めます。皆さん、喋らず押さず走らずに私についてきてください」
避難中、走ったり押したりする生徒は一人も居なかった。列になって避難をするのだから当たり前と言えば当たり前なのかも知れない。でも、さすがに小刻みにではあるが私語は幾つか聞こえた。皆、不安になっているのだろう。
「ねぇ、さっき先生が言っていたケケの森てっ何処ら辺なの?」
「さっきダンジョンがあったてっ言ったと思うけど、そのケケの森てっ言う場所に……」
「そのダンジョンがあるわけ?」
「うん」
「こら、其処! 私語禁止!」
ケケの森か……一応、覚えておこう。