まずは下準備。
「見つけ次第、撃沈。これしかない」
何時にも増して山本長官はやる気だ。それほど、米機動部隊に対して怒りの念を覚えているのだろうか。しかし、私には正直あまり関係のない事。ついさっき出て行った機動部隊の件について聞いてみる。
「じゃあ、さっき出て行った部隊はその米機動部隊を叩くために?」
「そうだ。国を守るにはこれしかない」
ほかにも考えれば手はありそうだけど。……あまり深くは考えないでおこう。其処は専門外だ。
「でもでも、相手は70年も前の敵でしょ? 何で今更、この世界にやってきたのさ」
「それについてはこっちでも現在、調査中だ」
「敵の数は?」
「それについても現在、調査中だ」
調査中の一点張り。詳しい事はあまり伝えたくないみたいだ。なら、こっちから見つけ出すまで。鳥海の件もあるし、今回は少し出しゃばってみよう。
「じゃあ何か分かったら情報を少し提供してくれないかな? こっちも丁度、同じ件でもめてるんだけど」
「事が済んだら提供しよう」
それじゃあ遅いような気もするのだけれど。ま、いいか。こっちにも一応、切り札っぽい情報はあるにはある。
「ま、いいわ。ウィーレさん、例の艦隊の現在位置は?」
「えっと……向こう岸、敵国の海岸線沿いをゆっくりと航行中よ」
「分かったわ。鳥海もその方向に?」
「いえ? その鳥海とか言う船なら別方向へ向かってまっしぐら。方向音痴なのかしら」
方向音痴ならそれで良い。余計な手間を掛けずに敵を殲滅できる。問題はその機動部隊の討伐に向かったと思われる帝国海軍の機動部隊だ。
「言っておくが、ミッドウェーの二度手間はするつもりはない。南雲君にはしっかりと敵機動部隊を討つべしっと伝えているからな」
誰? その南雲って人。
「ミッドウェーが何処で、どんな戦いだったかは分からないけどその機動部隊の件は私に任せてもらってもいいかしら?」
情報はこっちが握っている。
「どうやって撃滅する気かね? 相手は30隻を越える大艦隊だぞ?」
「長距離対艦ミサイルで沈めればいいじゃないの。それにこの世界はファンタジーな世界なのよ? ミサイル以外にも魔法で沈めるって手もあるんだから」
「しかし、魔法にも限界はあるだろ?」
「それは科学でも同じでしょ? 正直、此処は魔法に頼った方が無難な気がするんだけど」
少し強気で押せば相手も理解するだろう。ましてや相手は軍艦の事を良く知る連合艦隊司令長官様だ。無駄に艦艇を使って沈めるより、誰も傷つかない魔法で消し去ってしまった方がより効率的。
「ではこうしよう。どっちが先に機動部隊を撃滅できるか……勝負しようじゃないか」
意地でも軍艦で沈めたい気だな。でも、絶対魔法の方が強いんだから。
「いいわよ。こっちは魔法で相手を沈めてみせるわ。こっちが勝ったら後は私に任せる事ね」
「いいだろう。男に二言はない」
言ったわね。では、今から魔法対科学の撃沈勝負を始めるわよ。勿論、私は魔法側。魔法マジ万能。それに私の召喚魔法の適正値は確か6千を越えていたはずよ。
「そうと決まれば準備に移るわよ! ウィーレさん! ついてきてください!」
「えっ? えぇ……?」
「……俺だ。空母機動艦隊に第一次攻撃隊を発艦させろ。至急だ」
部屋を出た私は先ず、ウィーレに再度位置を確認してもらい先に先発した艦艇に攻撃指示を出した。これで壊滅できそうな気もしないではないけど、もっと確実な手が欲しい。そこで、私は閃いた。
「図書室へ行きましょ。私に考えがあるわ」
「図書室?」
ー図書室ー
「ユエちゃーん! 助けてー!」
「えっ!? な、何!? どうしたのシエスカさん!?」
「誰かと思えば……ユエさん、貴女の事だったのね」
「へ?」
彼女の名前はシリス・ユエ。ちょっと変わった名前だけどこれはコンビ名だ。シリスと言うのはこのユエちゃんの兄さんの事。この二人に勝る者を私は見た事がない。……ある一点に関して。
「シリスはどちらへ?」
「兄さんなら今外出中ですが」
「それは色んな意味で困るよー!」
「……どうしたんですか、シエスカさん……」
実は、かくかくじかじかで……。
「なるほど、そう言う事があったんですね……」
「分かったのか、あの一行で」
「ウィーレさん。メタいですよ……」
「うぃーす。ユエ。今帰ったぞ」
「あっ、お帰りなさい。兄さん」
「ん? シエスカじゃあないか。どうしたんだ?」
グッドタイミングもとい、ご都合主義とはこの事である。この一見不良っぽい金髪の男こそ、ユエの兄、シリスである。とっさに思い出したけど、今回の本命でもある。
「シリスさん! 少しお願いがあるのですが……」
「何だ?」
「コレの目を奪って欲しいのです……」
「……目?」
私はこっそりと無人機で撮影した一枚の写真を手渡した。描写されているのは帝国海軍の機動部隊だ。空母4隻を中心とした見事な輪形陣。だが、その輪形陣は今を持って総崩れとなるであろう。
「奪えと言われてもな……」
「海面を荒らすだけで相手を沈黙させる事が出来ます」
「つまり俺にこの海全域を荒らせ……と?」
「そうなりますね」
「フッ……そんな簡単な依頼でいいのか?」
「お願いします! 一刻も早く!」
「……出来るか? ユエ」
「問題はありません。台風並みの風速を起こす事も可能です」
自信満々の表情はGoサインの意味でもある。
「よし! じゃあ、いっちょやってやるか! 荒らしてやるよ! 海面を! 思う存分なッ!」




