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お調子者の抜錨

『ねー、話そうよー』

「筑摩さんは居ないの?」

『えー? 居ないよー?』


 子供っぽい口調で不在を知らせる。いかにもわざとらしい言い草だが、仕方ない。居ないのならまた後日出直そう。


「本当に?」

『本当ー』


 嘘臭い。


『今、私暇なんだー。何か話そうよー』

「暇って、哨戒任務とかには出ないの?」

『哨戒じゃあつまんないよー』


 哨戒だって重要な任務です……と言いたいけど、気持ちは分からなくもないかも。何も起こらないとさすがに暇で仕方がないか。あっ、そうだ。


「そう言えば山本長官が何かを言っていたような……」

『えっ!? 何々!』


 食いつきっぶりがまるで無邪気な子供だ。


「確か……ミッドウェーで取り残した空母が何たらって言っていたような……」

『ミ、ミッドウェー!? 知ってる、知ってる! 場所は何処!?』


 それは空母の位置の事を言っているのだろうか、それともミッドウェー島の事を言っているのか。残念ながら私は後者を全く知らない。そして、全者も知らない。


「えっと……確かね、今戦争中の国の海岸線沿いに居たとか……居なかったとか」

「行く行くッ! 今すぐ行くよッ! 抜錨! 出航するよ!』

「えっ、ちょっと待ちなさいよ!」

『抜錨ッ!』


 何かラッパの音が聞こえるけど。えっ、もしかして本当に港から出たの!?


「ねぇ、ねぇってば!」


 あっ、通信、向こうから切ってるし。……あぁ、もう、どうしよう。


 ー会議室ー


 一応、山本長官に伝えてた方が良いよね。一隻の軍艦が暇潰しに機動艦隊を潰しに行ったって。あぁ、絶対に叱られるよ。


 トントン。


「入れッ!」

「し……失礼します……」


 扉を少し開けて中の様子を窺ってみる。するとどうだろう。会議室一杯に海軍の軍服を着た軍人さんで溢れている。一人は少し長めの棒を持って地図を指し、何人かが大きめのコンパスを持っている。その中央に山本長官が微動だにせず座って居た。


「どうした?」

「えっと……」


 やだッ! 皆の見る目が非常に怖い。そこら辺の体育教師より全然怖いよ。何、そのどうでも良い用だったら出て行けと言わんばかりの視線はッ!


「その……ハハハッ……」


 さらに睨みが増した気がする。


「うちの鳥海が単身で敵機動艦隊を潰しに行きました……」

「「「は?」」」


 その場の全員が固まった。目を瞑っていた山本長官も少し動揺しているかも知れない。当たり前だ。普通の軍艦が護衛の一隻もなしに数十隻の艦隊に対して殴り込みに行ったのだから。


「潰しに行ったって……機動艦隊をか?」

「たった一隻で……」

「無謀すぎる」

「ヤムチャしやがって……」


 驚きを通り越して呆れているのだろうか。


「今、どの辺に居るか分かるか? シエスカ君」

「いや、全く……」

「うむ……それはまずいな」


 山本長官は地図を見渡した。多分、敵国の海岸線に向かって一直線だと思うんだけど。


「一先ず、何隻か派遣して鳥海の索敵に当たるように指示してくれ」

「了解しました。軽巡夕張を中心に駆逐艦睦月、如月、弥生、望月を向かわせます」

「道中、敵による空襲も予想されます」

「それがやっかいだな……」


 山本長官はしばらく考えた後、すっと立ち上がった。


「諸君、機動艦隊撃滅はまた今度の機会にしよう。今は先ず、この重巡鳥海を引き戻す」

「了解しましたッ!」

「急げ、大忙しになるぞ!」

「ハッ!」


 その場に居た全員が、足早と会議室を去って行った。あの、廊下を走ってはいけませんよ?


「そこっ! 廊下を走らないッ!」

「ハッ! 申し訳ありませんでした!」

「って、聞いて居ないじゃない!」


 注意を無視して行くスタイル。きっとそれだけ忙しいのだろう。会議室には私と、山本長官だけが残り静けさが部屋に帰ってきた。机の上に大きく広げられていた地図はそのままだが、その他の機材は全て片付けられた。


「全く、何事ですの……?」


 ノックもなしに部屋に入ってきたのは以前に救出したウィーレ・シューエットさんだった。この世界ではノックをしないのは常識なのだろうか。


「廊下は走るの厳禁です」

「っと言われましても、一応緊急事態なのでそこは大目に見てやってください」

「緊急事態?」


 首を傾げるシューエットさんに私は簡単に説明した。一隻の船が沢山の船に対して殴り込みに行った事。そして、皆がそれを阻止するために走った事。たとえ一隻でも失っても山本長官にとっては大きな痛手なのだとか。


「殴り込みね……私も、そんな危ないところに単身では赴きたくはありませんわ」

「ですよね、でも、そのは暇だから単身で乗り込んだんですけどね」

「暇潰しで向かわれたの!?」

「あー、はい……」

「全く、ヤムチャなさって……」


 この世界ではヤムチャと言う単語が流行っているのだろうか。


「ともかくだ。俺は大和に乗ってしばらく待つ事にする。シエスカ君。君はどうするのだね?」

「あー、はいはい。とりあえず、何隻か出しとくよ」

「うむ。そうしてくれるか。それではな」

「はいはーい」


 出す振りだけしておけば良いか。鳥海が勝手に出ていったことだし。


「その……その件。私にも手伝わせてもらえないかしら?」

「えっ?」

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