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ワレ、筑摩

「交信ッ! ワレ、大和。貴下ノ名ヲ送レッ!」

「発光信号の用意だッ!」

「ハッ!」


 大和の艦橋では何だか慌しい。

 誰も居ない無人の艦内のはずだが、声だけは忙しく響く。

 私達は一旦、この艦橋まで上がってきた。

 此処ならまずは安全だろう。


「後続の艦より打電ッ! 平文です」

「平文?」


 不思議そうな声が聞こえる。

 方角は一番真ん中。

 恐らくこの船の司令官か艦長などの人物だろう。


「読んでみろ」

「ハッ! 貴下ノ増援ニ来タ。です」

「増援? 本部からは聞いておらんが……」


 勿論、私も一切増援に関しては知る余地もない。

 山本長官からも一切の連絡はなし……。

 独断か、それともこの世界に迷い込んだか。


「発光信号を確認ッ!」

「ワレ、筑摩ッ! ワレ、筑摩ッ!」

「筑摩? 重巡か?」

「はい。間違えありません」


 三人を尻目に、私は艦橋を出て外でその筑摩と呼ばれた船を見る。

 前に大砲が連装で四つ。

 後ろは前と比べたら平っぽい。

 若干、艦載機のような物も見えた。


「あれが筑摩?」


 私の不在に気づいたステラが隣に立つ。

 後続に続く筑摩を遠目で見ている。


「みたい」

「みたいって、シエスカでもよく分からないの?」

「だって、アイツ(山本長官)から何の連絡もないもん」

「アイツって、誰よ?」

「……何でもない」


 そう言えば全く伝えてないんだっけ。

 多分この大和を手配したのも長官だと思うんだけど。

 と言うよりそれしか思いつかない。


「筑摩ッ、近づきます! 距離、300ッ!」

「妙だな、連絡なんて一切ないぞ」

「筑摩に化けた敵かも知れん。一応、戦闘の準備だけはしておけ」

「了解」


 何か雰囲気が殺伐としている。

 普通、仲間がやってきたのなら歓迎でもするんだろうけど。


『シエスカさん……聞こえますか? シエスカさん……』


 コイツ……直接脳内にッ!

 と言う茶番は置いておいて。

 誰だ、お前。


『私は筑摩と申します。旧大日本帝国海軍の利根型重巡洋艦の二番艦として生まれました』


 経歴はいい。今、聞きたいのは誰の指示で来たかよ。

 誰なの? 山本長官の命?


『いえ、私は電探に敵影らしき影を捉えたので独断ではありますが増援に駆けつけました』


 声帯から察するに年齢はそこそこ若い女性。

 若干、落ち着いた感じ。


『それと、一度、シエスカさんと面会がしたくて赴きました』


 それ、軽く本音だよね?


 どうやら、この筑摩とか言う重巡は私に会うためにやってきたらしい。

 一応、建前は「増援」と言う形になる。

 このタイプは前回のロリ鳥海と同じような感じか。

 直接脳内に声が響くシステム……うーん、謎だ。


「にしても、私達の国も随分と魔法が発展したものねー」

「見た感じ、攻撃力は軽く6.000は越えているわよ」


 あっ、これが普通に人の手によって造られた物だとは一切思ってないみたい。

 ステラ。


「魔法ではありません」

「嘘ね」

「だから、嘘じゃあないんだってば!」


 この世界の住民は全くもって、科学と言う存在を否定し続けている。

 そんなに否定するのならいやと言うほど科学で出来た物を見せてやろうか。

 車、エレベーター、電波塔、オーブン。

 挙げればきりがない。


「あー、こんな所に居たんですね、シエスカさん!」

「ステラも、勝手な行動はとっちゃあダメだよ」

「はいはーい」

「はいは一回」


 微笑ましい光景である。


『はい、誠に……』


 ……盗み聞きはやめてもらえないでしょうか、筑摩さん。


『あっ、いえ、そんな盗み聞きだなんて……だた、耳が良いだけです』


 そりゃあ、軍艦だから並みの人間よりは耳も目も良いんだろうけどさ。

 レーダーとかソナーとか。


『ところで、シエスカさん』


 今度は何だ。


『聴音から報告が上がりました。未確認の音、数九つ』


 潜水艦?


『の、可能性が非常に高いです。音は、極めて静かです』

『恐らく、大和ではまだ捉えられていないでしょう』


 一応、聞くけどさ、筑摩って、その潜水艦に対応できる装備とか積んでるの?


『一応、備えはあります』


 じゃあ、私の独断だけど良い? 良く聞いて。

 威嚇射撃を開始。

 慌てて向こうから浮上、もしくは味方の返事が来たら攻撃中止。

 敵だと断定した場合は九つ全てを沈めて頂戴。


『九つ全てを……ですか?』


 えぇ、そうよ。


『かしこまりました』

『全艦、対潜戦闘用意ッ! 艦載機発艦、目標の位置を知らせッ!』


 筑摩の方角から戦闘開始のラッパ音が響く。

 一方で、いまだに戦闘配置についていない大和は声だけで察するに慌しい雰囲気。

 っと、今、誰かにぶつかったような気が……。


「筑摩、前進ッ! 本艦の前方、156mッ!」

「面舵一杯ーッ! 衝突を回避せよッ!」

「おぉぉもかぁぁじ、一杯ッ!」


 凄い揺れた。

 こんな巨体なのに、緊急で回避する場合は結構揺れるものだ。

 海の上だから仕方がないとはいえ、軽く酔いそう……。

 何故、今まで平気でいられたのだろう。


「筑摩から艦載機が出ましたッ!」

「この近くに敵が居るとでも言うのか!?」

「アホ臭い、それならとっくの昔に大和の電探が捉えているわいッ!」

「筑摩、右舷に出ますッ! 本艦と並走するようです!」

「何をする気だッ!」


 一瞬の間に混乱。

 ……さっきから、誰かにワザとぶつけられているような気がするんだけど。

 この船の乗組員かな。


「一応、甲板へ出ましょう! 中は危険です!」

「それもそうね! 甲板へ出ましょう!」


 ……えっ、ちょっと待って、私を置いていかないでよッ!

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