悪霊退散
「し、仕方ないよね! 此処は魔よけのお札にしましょう!」
私は気配のする方角へお札を見せ付けた。
貼らないと意味がないかも知れないけど。
私は振り向く勇気がないからひとまず見せ付けてみた。
すると、一応青くお札が光った。
まるで、本物の陰陽師が使っていそうな感じに。
しかし、ただ単に威嚇しただけのようで、所謂、ラップ音は収まらなかった。
次にパンッ、パンッ! と大きく手で叩くような音が響く。
段々と音もリズムも激しくなってきた。
夢なら覚めてほしいレベル。
「えいっ!」
次に効果があるのかどうかさえも怪しいこの謎のステッキ。
杖のような感じで一番上におもちゃのハート。
この真ん中のボタンを押せば光るようだ。
これ、完全に何かの子供向けのおもちゃですよね?
見たら分かる、これ、絶対に魔よけの効果がないやつや。
「ほら、やっぱり!」
結局、それはちょっと良いお値段のする子供向けのおもちゃだった。
さてと、最後の選択肢になった。
いや、なってしまった。
ラップ音に続くようにポルターガイストも頻繁に出て来た。
椅子がギコギコ、まるで誰かに揺さぶられている。
ヤバい。
もう、これは近所迷惑の域を越している。
絶対に隣の部屋にまで響いているよ、この音のレベルは。
それに、何処からか怖い音楽まで流れてくるしさ。
誰よ、こんなヤバい曲をラジカセで流した奴は!
幽霊か!? ゴーストか!? それともスケルトンか!?
やっぱり、幽霊か!?
「いよいよ、私を怒らせたみたいね!」
私は怒りをあらわにして三つ目の光から手留弾を掴んだ。
まず、ドアを開いて廊下に出る。
その次に思いっきりピンを外して部屋の中へ放り込む。
シューと言い始めたらドアを閉める!
そして衝撃に備える!
「点火ッ!」
次の瞬間、ピカッと言う眩い光と、轟音のような音。
つんざくてっ、こう言う事なのかな。
それと、この爆音で皆、目が覚めたりしないのかな。
そもそも建物が持つのかな?
「うわぁ……もしかして、少しやりすぎた?」
衝撃のせいか、天井が微量の砂がこぼれ落ちてきた。
パラパラてっ感じだったけど、間違いなくこの家にダメージは入った。
次に地震が起きたらこの家はもうもたないだろう。
「あれ?」
思ったより綺麗だ。
花がさらに萎れ、机の配置が微妙にズレた。
土もさらに散乱したけど、ベットにしわはない。
あれ、手留弾じゃあなくてこれ、閃光弾だったのかな。
「やっぱり、これ、閃光弾じゃん!」
触るとヤバそうな破片の一部から文字を読み取った。
一応日本語で、多分英語の和訳をそのまま乗っけたのかな。
なんか、おかしな訳になってるし。
「あれ、ラップ音……止まった?」
ピタリとラップ音は止まった。
変な声も、椅子の奇妙な動きも。
全てが閃光弾で止まった。
この閃光弾、近所迷惑だけじゃあなくて、おまけ程度で魔よけの効果もあったのかな。
「……止まったし、寝ようかな」
もう疲れたわ。
でも本当、幽霊てっ居るんだね。
成仏しろよ。
お休み。
・・・・・
「朝か……」
良く眠れた。
あの後、たったの数時間だったけど良い気分だ。
カーテンを勢いよく開けて朝日を浴びる。
……浴びる。
「ファッ!?」
カーテンを開けたその先は真っ赤な手の平。
これは間違いなく、昨日のヤツだ。
血のような赤い手型が朝日を塞ぐようにぎっしりと。
キモい、キモい、キモい!
何これ! 誰の嫌がらせ!?
折角気分の良い朝日を浴びようと思っていたのに。
最悪な朝を迎えてしまった。
私は誓う。
もう、此処に泊まるものか……と。
「7時……よね、さっさと荷物を持って厨房へ降りよっと」
私は、荷物をその場で簡単にまとめてその部屋を後にした。
その時、誰かの視線を感じたような気がした。
中央の全身用の鏡から、誰かが覗いているような……そんな気配が。
「おはようございます、よく眠れましたか?」
「ウッ……」
思い出したくない物を思い出してしまった。
あの手形。
あの閃光弾。
あの不気味な女性の笑い声。
いやいや、忘れよう!
今日は折角、気分の良い朝を形だけでも迎えられたんだ!
今日はきっと、良い事があるさ!
「え、えぇ……よく眠れたわ。うん、とっても……」
「それは何よりさね」
この女将さん、知っていて私をあの部屋へ割り当てたわね。
ま、もう過ぎた事だから良いんだけど。
「朝食をまだ取っていないよね?」
ロリっ……まだ幼そうなメイドさんが訊いてきた。
朝の七時半、勿論、朝食はまだだ。
「えぇ……そうだけど……」
「じゃあ、食べて行きなよ! モーニング、用意するからさ!」
「えっと……お幾らですか?」
「今日はいいさね、タダで用意してやりなよ」
「分かりましたー!」
「えっ!? タダで良いの!?」
「良いさね、ちなみに、今晩のお駄賃もタダだよ」
やっぱり、この女将さんは優しいらしい。
少しでも疑ってしまった私がなんだか恥ずかしい。
さてと、気を取り直して、喫茶店のモーニングてっどんな感じなんだろう。
やっぱり、此処はパンかな?
それともトースト? ワッフル?
初めてのモーニングに胸が高鳴る。
一体、どんな料理が出てくるのだろう。
「お待たせしましたー」
来た来た。
「此方、『翼竜の翼』でございます」
「……ん?」
違和感を感じとった。
そうだった、この店は少しおかしなところがあるんだった。
まさか……。
「えっと……さっき、何て言いましたか?」




