ティーレの女将さん
「シ……シエスカです、シエスカ・エーレットです」
「シエスカちゃんかい、そうかいそうかい」
何か言い方が凄いお婆ちゃんぽい。
お陰でうっすらとうちのお婆ちゃんの記憶が蘇ってきた。
優しいお婆ちゃんだったなぁー。
お婆ちゃん、私は今、異世界で元気にしているよ。
「私の前世は平成てっ言う時代だったねぇ」
「東京スカイツリーが丁度でき始めた頃だったかいね」
お婆ちゃんはその、ツカイツリーが出来てから確か三年後。
病院で他界したって聞いたけど。
この人もそのぐらいの時期に亡くなったんだな。
「あ、あの……女将さんから見てこの世界はどんな感じですか?」
「そりゃあ、摩訶不思議なところさね」
「技術は日本よりは遅れて居るさね」
「でも、魔法は、前に生きた世界よりは全然発展しているさね」
口調は完全にうちの婆ちゃんそっくりだ。
このぐらいの年齢になると、皆、こんな感じの口調になるのだろうか。
そう言えば、婆ちゃんぐらいの世代には異世界と言う言葉は流行っていたのかな。
多分、そんな事を聞いたら私は確実に日本人だと認定されてしまうかも。
今は止めておこう。
「あ、あの……山本五十六てっ言う人はご存知ですか?」
「山本五十六……山本五十六かぇ」
「や、山本五十六ですって!?」
あぁ、聞くんじゃあなかった!
外観から察してもう七十は過ぎていると思って聞いてみたのに。
何か言いわけを考えないと。
……今思ったけど、私てっ結構失礼な事を考えていたりするかな。
「山本五十六……知っているさえ、当時の海軍長官さね」
やっぱり知ってたんだ。
でも、多分その様子だとまだ幼いときのお話かな。
二十代ぐらいだったらもうとっくんにスカイツリーの頃にはおられないはずだし。
「でも、名前を聞いた事ぐらいさね」
あぁ、やっぱり生では合った事はないかー。
で、私は一体何時まで拘束されるのかしら。
今何時かな。
「ところで、何故山本五十六なのですか?」
眼鏡をかけ、頭が良さそうなメイドさんが聞いてきた。
これは口説くのが少し大変そう。
「えっ? あぁ、お友達にその……日本人? が居るんだ……」
「そう」
事実と言えば事実だ。
すでに数十人規模の日本人とこの世界で出くわしている。
しかも同じ学園に。
異世界召喚の規模、少しでかすぎやしませんかね。
そのうち時の総理大臣とか。
あるいはアメリカの大統領とか召喚されそうで怖いんですけど。
「問題、アメリカ合衆国の大統領を答えろ!」
「人数は問わない」
「はじめ!」
えっ、アメリカの大統領!?
えっと、えっと……オバマさんしか知らないよ!
イエス、ウィキャンぐらいしか思い浮かばないよ!
そもそも私、歴史は苦手だよ!
「いーち、にー、さーん」
「な、何なんですか、そのカウントダウンは」
「ささ、答えちゃってちょうだいな」
だから歴史は苦手なの!
あぁ……あぁ、段々と謎の時間が増えてゆく!
えっと、リンカーン……もう思い浮かばないよ!
「そもそもアメリカてっ何ですか!」
その時、その場に居た女将以外の全員が驚愕した。
どんな事を思っていたのか。
本当に日本とアメリカを知らないのか。
それとも、知らない振りをしているだけなのか。
さらにはバカなのか。
ちょっと後者を思い浮かんだ人、素直に出てきなさい。
私だって魔法ぐらいはぶっ放せますよ!
「ところでシエスカちゃん」
「は、はい」
「今日泊まる場所は決めてるさえ?」
「へ?」
も、もしかしてもうそんな時間だったりするの。
一応窓はあるけど、外の様子は詳細には窺えない。
でも若干窓の向こうが赤いかも。
あれ、これってもう夕方だったりする?
「あの、もう夕方ですか?」
「時計を見れば良い」
クールなメイドさんに言われ私は時計らしき物をチラり。
古時計と言うタイプだろうか。
よく昔歌った曲の歌詞に出てきそうな立派な時計だ。
そして、針はすでに午後の18時に差し迫っていた。
学園までの距離はまだ二日。
危険で溢れている外で野宿するわけにもいかないし。
他にあてがあるわけでもない。
どうしよう。
もう、いっそのこと地面に拠点を構えて。
此処をキャンプ地とする!
とでも宣言しておけばいいかな。
あっ、テントも食料も水もないや。
「なんなら此処に泊まればいいさね」
「此処の二階に余った部屋があるさね」
「そこを使えばいいさね」
「えっ、あそこてっ確か倉庫代りだったような……」
あれ、今、何か聞こえたような気がするんだけど。
気のせいかな。
「西本さん、少し部屋を片付けて来んさいや。お客様だよ」
「えっ……はい、分かりました」
ん? 何か凄い嫌そうな返事だったけど。
そこ、かなり汚れた部屋だったりするの?
それともゴミ屋敷のような散乱した部屋なの?
「あっ、西本さん、私も手伝います!」
「ありがとう、じゃあついてきて」
「はい、分かりました」
……絶対に何かあるわね、その部屋。
この店のメニューもそうだったけど。
うん、少しは身を構えないと。
何が起こるか分からないもんね。
「あ、あの……一日お世話になります」
「はいはい、えぇよ、えぇよ」
やっぱり、凄い優しそうな女将さんだ。
さてと、泊まるからには、私も少しお手伝いしようかな。
そしたら少しは疑惑も晴れるだろうし。
何より、良い印象が残りそうだ。
「ちょっと、待ってよ! 話はまだ終わってないよ!」
「次は日本らしい物を幾つか上げてみるのだ!」
えぇー! まだ、私の尋問は終わっていなかったの!
てっ、女将さんも厨房に行っちゃって止める人が!
……は、ハハッ……少し、長い一日になりそうね。




