神の盾
「対空戦闘用意! 各艦見張りを厳にせよ!」
無人のはずの艦内からパネル越しに用語が聞こえてきた。
やる気は充分のようだ。
でも素直に下がってくれると嬉しいかな。
「敵影捕捉! 推定数110体!」
「僚艦に伝え! これより本艦隊は大きく右回りしつつ撤収すると!」
「了解!」
一応、下がってはくれるみたい。
大きく右回り。
大丈夫かな。見ている私がハラハラするんだけど。
だって推定で敵の数は110体。
110対2だよ。
私だったら逃げる一択だよ。
「目標の先頭郡を射程に捕らえた」
「ESSM発射始め!」
「てっ!」
二隻の前甲板から蓋がパカッと開いた。
次の瞬間、中から垂直にミサイルが多数飛翔する。
所謂、VLSと呼ばれる装置だ。
装置の名前は勿論、パネルからの情報。
垂直に飛び上がった多数のミサイルは真っ直ぐ目標へ突っ込む。
その速度、マッハ2.5。
到達まで残り5分。
イージス艦二隻は立て続けにミサイルを垂直に連続発射。
本格的な戦闘の序章だ。
「本艦が放ったESSM計10基は間もなく先頭陣と接触する予定」
「5、4、3、2、1、全弾目標へ命中!」
「同時刻僚艦ベンフォールドも全弾命中!」
ベンフォールドと言うのは恐らくもう一つの船の事だろう。
多分、米国籍。
先ずは大体20キル。
私の召喚能力も同時にちょっとずつパラメーターが上がっていく。
「右舷30度、目標近づく」
「ESSM、弾数8、撃ち方始め!」
「てっ!」
垂直に舞い上がるミサイルは合計14発。
真っ直ぐ、自らの目標目掛けて矢のように飛ぶ。
加速したミサイルはそのままドラゴンの胸部や頭蓋骨を直撃。
乗っていた兵士らしき人物はドラゴンと共に夏の海へ真っ逆さま。
パネルからは悲鳴は聞こえない。
助かった兵士も居るだろう。
だが、この矢に射抜かれた者も居るはずだ。
黒煙に紛れ視界を失いそのまま海面へ落下する。
海面へ着水する時、その兵士の心境は恐怖しかないと思う。
敵国の新兵器。
はるか彼方より飛来する謎の弓矢。
その正体はこの世界にとって異世界からやってきた神の矢だ。
「新たな目標、左舷21度、推定数20!」
「ESSMと同時にシースパロー発射! サルボー!」
無人の部屋で、発射ボタンが自動的に作動。
装填も自動で行われ、この二隻にはまるで人格と言う物がないように感じとった。
いや、実際に人格はないだろう。
何せ、私の召喚する兵器は皆、無人殺戮マシーンなのだから。
「ダーゲットキル! 第二波接近、推定数約60!」
「攻撃はじめ!」
「てっ!」
発射筒から煙が大きく立ち上り槍を投げたときのように放たれる。
僚艦のベンフォードも適当に撃っているように見えて撃破率は極めて正確。
結局イージス艦の二隻にたどり着いたドラゴンは一匹も居なかった。
ミサイルを撃ちつくし残弾も残り僅か。
戦闘開始から実に10分は経過した。
確認出来ただけの撃墜数、87以上。
ドラゴンは確実に仕留め乗っていた兵士もその多くがきっと亡くなっているはず。
だけど、これでこの国が新兵器を持ったと言う事実はいずれ漏れる事になる。
生存者からの報告。
そして何より引き返した兵士の証言。
何らかの対策を取ってくるに違いない。
魔法で海を割るか。
それとももっと強い魔獣を引き連れるか。
増員するか。
……もしくは……。
「目標、第三波引き換えしてゆきます」
「了解、戦闘終了。対空警戒を厳となせ」
「了解!」
二隻は大きく右に旋回し、僚艦ベンフォールドもこれに並走する。
海の上は静けさを取り戻したけど上空は残党狩りで忙しい。
300は居たと思われるドラゴンの数も今や20にまで撃ち減らされている。
原因は明らかに私が大量の戦闘機を戦闘空域に派遣したからだ。
その一方で戦闘機の被害は全体の3割と言ったところか。
主な被害は旧式機で押さえられていて新型機は無傷。
海上の戦闘が始まって20分ほどで敵の大規模な侵攻は完全に防ぎきった。
これだけ肩がこったのも久しぶりだ。
「あぁー疲れたー」
ただパネルを見ているだけでも、疲れる物は疲れるのだ。
スマホのようにレーダーを突いて状況を把握したり。
味方の残存数を逐一チェックしたり。
飛び交う無線に耳を傾けたり。
「これでしばらくは大規模な侵攻はないかな?」
「潜水艦の方も一隻必ず5隻は沈めていたりと絶好調のようだしね」
大規模な侵攻を未然に防いだ。
きっと規模を聞いたら国王陛下も逆立ちをするほど驚くに違いない。
こんなのを相手に態々身を挺してモンスターと戦うより全然楽。
冒険者達の日々の苦労がよく分かるようで分からない。
「全軍帰還せよー」
やる気のない声で指示を出し、全軍がこれに従う。
潜水艦も、護衛艦も、戦闘機も。
ただ早期警戒機だけは常に空を見張ってもらわないと困る。
同機は8機を海上に展開させてその後も見張るようにと指示した。
そう言えばまだ本格的な魔法と一戦も戦った事はないな。
まぁ、戦わない事に越した事はないけど。
それに、平和が一番だしね。
「終わったー!」
私は思いっきりベットに顔を埋めてまだ午前の11時だけど寝落ちした。
その間にも軍港や空港は帰還の船や機で慌しい。
戦争とはこんなにも面倒くさい物ものなのかと思いながら私は昼寝に入った。




