いざゆかん。魔王城へ。
保健室の中にある一つのベット。ついさっき、此処に救急車で緊急搬送されてきた死人……ゲフンゲフン、重症患者が運ばれてきたのだ。グラウンドのような広い場所に走る塊が来た時は、偶然にも周囲に人は居なかった。私とシャール、アリスの三人はその運ばれてきた重症患者を保健室まで運んできたのだ。でもまぁ、実際、保健室にあるのはこの少し固そうなベット一つ。後は怪しいポーションが幾つか。
「ねぇ、シエスカ。このポーションなんてどうかしら」
「もう少し見た目がマシなのを選びなさいよ。紫で、プクプクと泡が出てるなんて、いかにも怪しいじゃないの……」
「じゃあ、これはどうでしょう?」
「赤じゃあないの! これ、飲んで大丈夫なの?」
「ポーションですから。死ぬ事は無いと思いますよ?」
その、いかにも炎症着きの効果を持ちそうなポーションを、この死にかけの重症患者に飲ませるわけだ。いや、絶対に天昇するでしょう。読んで字の如く。気持ちいかは別としてさ。
「もうちょっとマシなの……例えば緑色のポーションとか無いの?」
「と言うより、医学的なポーションはあるのでしょうか?」
「御免なさい。私、医学を専門にしておけばこんな事には……」
「医学てっ、数学が基本的にメインのようなイメージ。大丈夫。私も医学、詳しくないから」
ダメじゃあないか! だって? 何せ、私達三人。後から聞いてみると、皆、数学が一番苦手らしい。おぉ、同士よ。てか、先生早く来て。まさか、保健室の先生までケケの森に迷っているの?
「この学園てさ、シャール。保健室の先生とか居ないの?」
「確か居たと思ったんですけど……」
「どうやら、今は不在のようですわ」
「何で、こんな時に限っていないかな」
そんな時だった。運ばれてきた重症患者は、かすかにだけど、息を取り戻しゆっくりと目を開けたのだ。医学的に言うと、心拍数が戻ったてっ言うのかな。そこらへんはおいおい専門家に任せるとして、私達三人は、目覚めた重症患者に水を差し出した……水道水だけど。どうなんだろう。異世界の水道水てっ信用しても良いのかな。
「た、助かりました! そ、その……助けてくれてありがとうございます!」
「えっと、君は何で森の中で倒れていたのかな?」
「そ、そうでした! 大変です! ボクは偶然にも見てしまったんです!」
「な、何を?」
こう言う場合。良い事を見た事もあるのだろうけど、パニック映画とかゾンビ物とかだと、悪い方向にしか行かないのが定番と言うか、テンプレになっているのよね。例えば、お、俺は見ちまったんだ! みたいなあの場面。見た物はゾンビだったてっ言うアレね。まさか、この世界にゾンビは居ないと思うけど……まさかね。
「魔王軍です! 魔王軍の軍勢が、ボクの村を焼き払ったんです!」
「……アッウン……そ、それはタイヘンだったわねー」
「お願いです! 魔王軍に友達が連れ去られたので、その、ボクの友達を救ってください!」
「……却下」
「な、何で却下なんですか!?」
そりゃあだって、私はまだ十歳。それに魔王軍との戦いなら、そこは基本。勇者様の出番でしょ? こんな大事件が起きているんだから、日本政府よろしく、きっと遺憾の意ぐらいの表明は出して異世界なんだから討伐に向かってくれるでしょう。それに私は生粋の帰宅部だよ?
「お願いします! 本当にお願いします! 村の皆も、皆、殺されたんです!」
「でも……私はまだ十歳だし……それに冒険者でもないのに……」
「シエスカさん! 行きましょう!」
シャール。貴女まで言うのね。言っとくけど、私は何があっても動かないわよ。一生ニート生活を続けるんだと此処に誓ったんだから。アテナの名の下に。
「シエスカさんの召喚魔法ならば、きっと多くの人を救う事が出来るはずです!」
「それに、私の姉ちゃんも、もしかしたら毛皮らしい魔王軍に囚われたのかも知れないですわ!」
「もしかして、先生達が戻ってこないのも……」
「はい。その筋が高いと思います!」
でもなぁ……私はただ本当にこの学園で普通に生活したいだけなのになぁ……魔王を倒して英雄に、何てテンプレは基本的にお断りなんだけどな。それにさ、アレでしょ。自衛隊てっ、基本。怪獣と戦うのがお仕事なんでしょ。魔王軍には怪獣は一匹も居ないし、居たとしてもドラゴンぐらいでしょ?
「行きましょう! シエスカさん!」
「私も賛成ですわ!」
「お願いします!」
ウッ……いくら中身はニートでも心の中はごく普通の高校生。こんなに頼み込まれたら断りきれないでしょう。普通だから外道でもないし。
「シエスカさん!」
「仕方ない。分かったわ。皆が其処まで言うのなら私も賛同しましょう」
部屋の中が歓喜の声で溢れた。でもちょっと待ってほしい。そもそも、魔王軍ならその根城となる、小ボスの城。それに、根拠地である魔王城が何処かにあるはず。まさか、桃太郎のような鬼が島じゃああるまいしね。そこで、私は聞いてみた。
「でもさ、皆、魔王城が何処にあるのか、知っているの?」
士気が高まりつつあった室内に、私はどうやら。水を差したみたいだ。




