99 番外編・不知火と水瀬
不知火君視点です。
大学生になれば世界が変わると思っていた。
多くはなくていい。一人や二人、気が合う奴と出会い、親友とまではいかないにしろ友達ができる。
そう思っていたんだがな。……期待外れだった。
大学に入学して二週間、俺は誰とも話せていない。
「なぁ次の講義は何番教室だ?」
「ひっ? し、知りません」
「……そうか。ありがとな」
「誰か助け……うわああ」
正確に言えば、誰も俺と話そうとしない。俺が声をかければ全員が同じ反応。顔を引きつらせ、逃げるようにして去っていく。
「大学生になっても所詮こんなものか」
昔から背が高く、顔が怖いと恐れられてきた。
大抵の奴は俺に近づきもしない。たまに女が付き合ってほしいと求めてくるが、長続きはしなかった。
「今日はこのサークルの見学に行こうぜ。見学終わったらどうせ飯に連れていってもらえるだろうし」
「タダ飯が食えてマジ最高、っ、いてぇな。おいお前、どこに目をつけていやがる」
あ?
「あ……な、なんでもないです」
「ば、馬鹿、ヤバイ奴に声かけるなよ」
肩がぶつかった男子がそそくさと走って逃げる。
大学生になって唯一良かったと思えるのは、高校時代と違って喧嘩をふっかけられないことぐらいだ。不良がいないのはありがたい。まぁクソつまんねぇけど。
「ったく、構内を汚すなよ」
大量の紙を落としていきやがった。サークル勧誘のビラか? 俺ら新入生は部活やサークル探しで連日忙しいよな。
俺もいくつか見学に行ったが、上級生は俺の外見を見ただけで会話もせず怯えて露骨に入部してほしくない空気を出しやがった。人を第一印象のみで判断するなとは言わねぇが、さすがにあの態度はひでぇだろ。
「……本当、クソつまんねぇ」
ビラを拾い集めてゴミ箱に捨てる。その間にもキャンパス内を歩く連中はやたらと俺から距離を空けて避けていく。
俺は一人ぼっちのまま卒業まで誰とも話せないのだろうよ。
「別にいいけどな。もう諦めた」
イヤホンをつけてミクちゃんの最高の歌声を聴き入る。帰ってネギを愛でよう。
ネギとミクがいてくれれば十分だ。一人で生きていける。
「紙がないだと……?」
四月の終わり、俺は一人ではどうにも出来ない事態に陥った。
大学の食堂にて開かれた学部の新入生歓迎パーティー。一応は参加してみたものの、やはり誰とも話せなかったので二次会は欠席して帰ることにした。
その際、どうも腹の調子が悪く、俺はどの学部の棟かも分からん建物のトイレに入った。
個室に入り、用を足すまでは良かった。
問題は、紙がない……!
蓋を開いた先にはトイレットペーパーの芯のみ。
すぐに背後を確認、便座の下にも目を走らせる。が、どこにも予備の紙はなかった。この個室にはトイレットペーパーが一つもない。
「こんなことが現実にあってたまるかよ。あ?」
トイレットペーパーを買うのをケチった奴が盗んだに違いない。ふざけんな。盗むにしても全部盗るなよ。
「拭けそうな類の物は家に置いてきてしまった」
新歓の帰りだぞ。鞄には講義プリントもレポート用紙も入っていないし、ポケットティッシュなんぞあるわけもない。クソかよ。クソがついた状況なだけに。
……変なこと言っている場合か。思考までクソになってどうする。
「何か持ってねぇのかよ。あ……ネギ」
俺は鞄の中を漁り、非常食として常に持っている長ネギを取り出す。これなら尻を拭けるかもしれないが……俺には出来ない。
幼少時から食してきた大好物であり、時として武器にもなるまさに万能ネギ。そんな愛するネギで排泄物を拭きとろうなんて冒涜、ネギ農家の人間として許されない。ネギを使うぐらいだったら尻にクソがぐちゃぐちゃの状態で帰宅してやる。
「仕方ねぇ、夜更けて暗いし誰も気づかないだろう」
まぁバレるバレない以前に、大学生にもなって尻にクソをつけることは情けないけど。
惨めだな。こんな時に助けを求められる友人がいないのも嘆かわしい。
「覚悟を決めるか」
中腰になり、パンツを持つ。
その時、誰かがトイレに入ってきた。個室の外に人の気配がする。
「誰かいるのか?」
「え? あ、はい」
足音がこちらへと近づく。扉の前で止まり、下の隙間から足先が見える。
「いきなり話しかけてわりぃな」
「ひいぃ」
「怖がるなよ。脅すつもりはねぇ」
「な、何が目的ですか?」
「紙がないんだ。他の個室から取ってくれ」
「は、はい、分かりました」
気の弱そうな声が返ってきた。ビビリすぎだろ。
まぁいい。とにかく助かった。
「あ、あのぉ」
「なんだ?」
「他の個室にも紙がないです」
「あ? ふざけんなよ」
「ぼ、僕に言われても」
俺が入っている以外に一つか二つは個室があるだろ。それら全部を探して紙が一つもないって言いたいのか? あぁ?
この大学はどうなってやがる。オイルショックかよ。ここだけオイルショックしてんのか? あぁ!?
「拭く物を持ってねぇか?」
「え、えっと、ないです」
「そうか……」
余計な恥をかいてしまっただけか……ったく、覚悟を決め直すか。
「女子トイレを見てきます」
再び中腰になろうとした時、思いもよらない言葉が返ってきた。
「そこまでしてくれるのか?」
「う、うん」
「こ?」
「くだらないこと言っている場合じゃないでしょ。探してきます」
そう言って、下の隙間から足が消えて足音は出入り口の方へと向かっていく。
あ? あいつ結構良い奴じゃねぇか? 大学に入って初めて優しくされた気がする。
「し、失礼しまーす。誰か入っていますか? 実は男子トイレに紙がなくて困っ」
「はあ!? ここ女子トイレよ! 入ってくるな!」
「ひいぃぃ!?」
……あ? なんか悲鳴が聞こえたぞ。
絶叫に続いて、男子トイレになだれ込んでくる足音が響き渡る。
「紙はあったか?」
「は、入ろうとしたら入口の前で女子と会った。暗くて見えなかったけど、ものすごい怒られた……」
「そ、そうか」
「ひいぃ」
扉に手をついているのだろうか。扉がガタガタと震える。
余程怖かったらしい。こいつ相当なビビり野郎だな。
「悪かったな、俺のせいで」
「だ、大丈夫。たぶん向こうも僕の顔は見ていないから大丈夫……ですよね? 通報されますかね!?」
「現場を見てないからなんとも言えねぇな」
「うぐぐ……」
情けない声だ。捕まるかもしれないと思っているのか。
……こんな状況だが、なんだか面白かった。つい笑ってしまう。
「ど、どうかしました?」
「なんでもねぇよ。お前は帰っていいぞ」
「どうして?」
「あ?」
「ひ、ひぃ? 別のトイレを探してきます」
「……お前、それ本気で言っているのか」
「だって紙がなくて困っているんですよね?」
「それはそうだが」
だとしても、わざわざ他のトイレを探しに行くまでするかよ。友達同士ならまだしも、俺と扉の向こうのこいつは知り合いでもなければ顔を合わせてもいない。
「少しだけ待っていてください」
「お、おう」
それなのにこいつはまだ探そうとする。女子トイレに入ろうとしたら怒られて嫌な思いをしたのに俺を見捨てようとしない。
な、なんだよ……。
「……遅いな」
待つこと十数分。あいつが帰ってくる気配がない。他の階を探しにいったとはいえ、こんなに時間がかかるとは思えない。
「やっぱり帰ったか」
期待して待っていたが、冷静になれば分かることだ。
そりゃそうだ。名も顔も知らねぇ奴の為に時間と労力を費やす義理はない。ましてやあいつは俺の声にビビッていた。
関わることは二度とないのだし、トイレを出てそのまま帰ればいいんだ。あいつ自身は困らない。今頃は俺のことを馬鹿にしているだろう。
「当然だな。少しでも期待した俺が馬鹿だったし、あいつは悪くねぇ」
別にいいさ。クソつけて帰るぐらいどうってことねぇよ。俺にはお似合いだ。クソみてぇな大学生活、その始まりとして相応しい。
せめて声だけでも怖くなければ、助けてもらえたかもな。もし俺の見た目が厳つくなければ、大学生活はもっと楽しいのだろう。
親友とまではいかないにしろ、たった一人でもいいから、誰か友達がほしかった。
「……何を無意味なこと考えてんだ。馬鹿かよ」
本当、クソつまんなくて、俺自身もクソだな。何が諦めただよ。全然じゃねぇか。
さっさと諦めろよ。俺なんかに友達ができるわけが
「ぜえ、ぜえ……!」
……? なんだ? また誰か入ってきたか? 個室に入ろうとしたら紙はないと警告しておくか。
「ぜえ、ぜえ……お待たせしました」
「…………あ?」
この声は、さっきの奴……?
「お前、まさか」
「やりましたっ、紙を取ってきました……!」
扉の向こうに人の気配。下の隙間から足が見え、視線を頭上へと向ければ、トイレットペーパーが投げ込まれた。
俺はトイレットペーパーを受け取って、そして、動揺する。
こいつ、戻ってきやがった。
「はぁ、はぁ……ごめんなさい」
「な、なんで謝るんだよ。それに、随分と息が荒れているぞ。そんなに走ったのか」
「は、はい、他の階のトイレにもなかったので別の棟に行っていました」
「……なんだと?」
「遅くなってすみません。僕、一年生だから構内のことまだ把握してなくて、探すのに手間取りまして、ぜえ、ぜえ、なるべく早く戻ろうと急いで」
「おい待てよ。なんでお前……あぁ!?」
「ひっ!? なんでしょうか!?」
戻ってきた。それだけでもおかしいのに、他の建物にまで探しに行っていただと?
息が荒れる程に走って探して、俺の元へ戻ってきた。
「テメェ馬鹿なのか。どうしてそこまでするんだよ。トイレを出たらそのまま帰れば良かっただろうが。あ!?」
「ひいいいぃぃ!」
「うるせぇな!? ビビんな! 俺の質問に答えろ!」
俺が扉越しに声を荒げるだけでビビるような奴のくせにどうして俺を助ける。
答えろ! ただの馬鹿じゃないなら何が目的だ!
「だ、だって、あなたが困っているから」
「だからそうじゃねぇって。俺とお前は知り合いか? ちげぇだろ。俺が困っていてお前に何の関係がある」
「は、はい? えっと、関係なかったら助けてはいけないの?」
「っ、お前……」
「ひいい、頑張ったのになぜ僕は怒鳴られて……ひいぃ……!?」
「……分かった。大声出して悪かったな」
お前が取ってきてくれた紙、ありがたく使わせてもらう。
「良かったです。戻ってくるのに時間がかかったから怒っているのかと」
「怒らねぇよ。ただただ感謝している」
俺はケツを拭き終えて水を流す。
中腰になり、何十分かぶりにパンツとズボンを穿く。不快感のない、いつも通りの穿き心地に感動する。
「いえ、当然のことを……あ……」
俺は扉を開ける。
そこに立っていたのは、ごく普通の男。聞いていた声の印象と同じで、気弱そうな地味な男子だ。
「助かった。ありがとな」
「……ひ」
「ひ?」
「ひいいいぃぃぃ!?」
目の前の男子は俺の姿を見た途端に顔を引きつらせる。肩を震わして悲鳴をあげた。先程までとは比べものにならない声。
俺を見て、怯えきった表情を浮かべていた。
っ……こいつも同じか。
「あ゛ー、別に何もしねぇよ。だからビビるな、ってのは無理か」
こいつは助けて当然だと言ったが、俺の顔を見たら話は別だよな。
誰もが俺を避けて話しかけようとしない。俺のことが怖いから。
こいつも同じだ。ただそれだけのこと。
「ひ、ひぃ……わ、分かりました。なるべくビビらないようにします」
「無理すんな。さっさと帰れ。俺がこんな外見をしているなら助けなくて良かったと思っているんだろ」
「え? そんなことないですよ」
「あ?」
「た、確かに怖いけど。けどそれが君を見捨てる理由にはならない」
何度も動揺する。
こいつと言葉を交わす度に俺は困惑する。
こいつはビビっている。俺を怖がっている。
それでも、こいつは俺のことを見ている。こいつの言葉は何かが違う。
「まあ絶賛ビビリ中の僕が言っても説得力はないけどね」
「……」
「誰か困っている。怖いとか外見とか一切関係ない。どうにかしたいと思ったんです」
「……そうか」
絶賛ビビリまくっているけど、俺を外見のみで判断していない。今も俺から逃げない。
それどころか、笑いやがった。
「紙が見つかって良かったです。役に立てて良かった」
紙が見つかってもこいつには関係ないのに、まるで自分のことのように嬉しそうに喜んでいた。
「……お前、ただの馬鹿だな」
「ひ、ひえぇ」
「そんで、最高に良い奴だ」
「? あ、ありがとうございます?」
なんだこいつ。……こんな奴がいるのか。
「俺も一年だから敬語は使うな」
「わ、分かった」
「お前、名前は?」
「水瀬流世」
「俺は不知火葱丸だ」
「……カッコイイ名前だね」
「だろ? 俺も葱丸って名前は気に入っている」
「いや名字の方なんだけど。下の名前は絶望的に……」
「もう一回言わせてくれ。お前は良い奴だ」
「は、はあ」
いかにも弱そうで、他の奴らと同様にビビりまくっているけど、こいつは他の奴らとは違う。きっとこいつは俺の姿を見た後でも俺を助けようとしただろう。
「嬉しいんだよ。俺は避けられてばかりだった。だがお前は俺に手を差し伸べてくれた」
「手というか紙を差し出したんだけどね」
「上手いこと言うじゃねぇか、流世」
「り、流世!?」
「俺のことは葱丸と呼べ。友情の証としてこれを受け取ってくれ」
俺は長ネギを差し出す。こいつなら、流世なら、受け取ってくれるはずだから。
「……そのネギでお尻を拭けば良かったんじゃない?」
「あ? ネギでそんなこと出来るかよ。あ? あ?」
「ひいぃぃ!?」
流世は悲鳴をあげてビビり倒す。情けなくてダサイ声。それでも、
「お前、カッコイイな」
あぁそうだよな、人は外見じゃない。情けない声、よわっちぃ見た目、それがどうした。
水瀬流世、お前は最高にカッコイイ男だ。
「ぼ、僕が? 不知火君の方が遥かにカッコイイと思うんだけど」
こいつとは仲良くなれそうだ。
何より、俺が流世と仲良くなりたい。友達に、親友になりたい。
「これからよろしくな、流世」
俺は手を差し出す。流世なら俺の手を握ってくれるはずだから。
「……あの」
「あ?」
「……まずは手を洗おうか?」
「そうして俺と流世は出会い、熱い握手を交わしたんだ」
俺は話し終えてひと息つく。
煮えたネギが最高に美味いし、ミクちゃんの歌声も最高だ。
「まあ不知火が強引に手を握ってきたんだけど。手を洗ってからにしろよと今でも思う」
隣でマイフレ流世が顔をしかめる。
あ? 俺らが親友になった瞬間だろ。手を洗うよりも先に握手したいだろうが。
「そこから俺と流世は仲良くなっていったんだ」
「それなりにね」
「流世はツンデレだな」
「はいはい」
流世がそっぽを向いてビールを啜る。照れるなよ。
「以上が俺と流世の出会いだ」
「なるほど、まさにクソみたいな出会いだったんだ☆ 思っていたよりしょぼい出会い方だった☆」
あ゛?
「ひいぃぃ!?」
悲鳴をあげて土下座する日凪。テメェの悲鳴は気持ち悪いんだよ。流世とは大違いだ。
「にしても本当、懐かしいぜ」
クソと悲鳴の最中、俺らは出会って友達になった。
「不知火、シメは何にする?」
「ネギだ」
「デスヨネー」
「白ネギを千切りにして麺みたいに食べようぜ」
「お、それはすごく良さげだ」
流世はビールを飲んで笑い、俺も笑ってネギを食らう。
確かにきっかけはしょぼいかもな。紙を取ってきてもらっただけで親友と思うのは気が早い。
でも仲良くなっていくうちに確信した。俺は間違っていなかった。流世は面白くて優しくて最高に良い奴だった。
最高の親友だ。
だからこそ、流世を苦しめた奴らが許せなかった。
「……おい流世、またビールを飲んでいるのか」
「ああ、不知火か。ここは僕の部屋、どれだけ飲もうと僕の勝手だ」
部屋で一人、大量のビールを飲む。虚ろな目には何も映っていなかった。
こんなにも良い奴を、俺の親友を、流世の同級生は馬鹿にして見捨てやがった。
「今からでも遅くない。俺があいつらを締め上げてやるぞ」
「余計なことしなくていい。僕が悪いんだ。僕みたいな奴は一人で飲むのがお似合いさ」
「そんなこと言うなよ。俺は……」
「いいんだ。一人で飲むビールは最高だよ。僕なんて所詮……」
「っ、流世……」
ある日、流世は変わった。
俺以外にも仲の良い友達ができたのだろうと思い、流世が幸せなら俺も嬉しかった。
それがいつの間にか苦しそうな表情に変化していった。
遅刻するし、朝から青ざめた顔で、足取りがおぼつかなく、見ていられなかった。
道端でボロボロになって倒れている姿を見た時は一瞬声が出なかった。
どうして流世がこんな目に。こんなにも最高に良い奴を……。
木葉茉森を筆頭とする学部の連中が許せなかった。
それ以上に、自分の無力さが許せなかった。
一人で飲むビールが美味しい、一人でいる方が楽しい。そう言いながら寂しげな表情を浮かべる流世を、俺はどうすることも出来なかった。
流世に救ってもらったのに、親友と言うくせに、俺は何もしてあげられなくて……。
「早くシメの千切りネギを投入しようよ」
「……」
「不知火?」
「あ? あ、あぁ、そうだな」
「……? はい包丁。ネギを切るのは不知火に任せる」
そして月日が流れ、流世は今、笑っている。一人でいいと言っていた頃とは全く別の、すっげぇ楽しそうな笑顔をするようになったんだ。
一人で苦しんでいた流世を救ってくれた奴らがいる。今の流世がいるのは、あの二人のおかげだ。
「どちらも応援してやりたいが、選ぶのは流世だ。……なるべく苦しまない答えを出してほしいものだな。あの二人の為にも、そして流世の為にも」
「何をブツブツ言っているの?」
「気にするな。いや、気にしろ」
「ど、どっち?」
「まぁ何があっても俺は流世の味方だってことだ」
「はいはい」
「そろそろ俺のことを葱丸と呼べよ。あ?」
「はいはい凄まないで。ところで不知火、日凪君が勝手にネギを切ろうとしているよ」
「ウェ~イ☆ 飲食店でバイトを始めた俺っちの腕前を見せてや、ぶべぇ!?」
勝手にネギに触るな。あ゛ぁ゛?
「やれやれ」
「だから日凪君を殴ったネギを鍋に入れないで……」
「流世、ビールを注いでやる」
「ありがとう。不知火も飲む?」
「流世がそう言うなら」
互いにネギをよそい合い、互いにビールを注いで、俺と流世はグラスをぶつけ合う。
「ビールが美味しい!」
「流世が幸せそうで何よりだ。……あぁ、酔った……」
「不知火にもこの美味しさを知ってほしいんだけどなぁ」
いや、いいさ。俺は下戸だけど十分に知っているよ。
流世と交わすビール。俺にとっての一番のビールが美味しいシチュエーションはこれだ。
ネギやミクよりも大切なベストマイフレの幸せを願って、俺は酔いに任せてベッドに沈んだ。




