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63 チャラ男の終焉

「あの、ホント、マジすんませんした」


 現在、僕の眼の前では日凪君が体を丸めて深々と土下座していた。

 その横で不知火がしゃがむ。額に青筋を浮かび上がらせて唸り、日凪君の頭を掴む。


「マジとか使うな。ちゃんとした言葉で謝れ」

「この度はご迷惑をおかけし誠に申し訳ございません!」


 チャラついた口調は完全に消えた。日凪君は地面にめり込む勢いで土下座する。

 大学二年生の男が土下座……み、惨めだ。見ていられない。


「不知火、もういいよ」

「駄目だ。こいつは流世を脅そうと企てた。土下座の次は半殺しだろ」

「あぶぶぶ」


 うおぉ地面から泡が!? 日凪君が泡を吹いているのか……。


「日凪、テメェは面白い奴だと思っていた。そう思った自分にムカつくぜ」


 地に伏した日凪君の嗚咽。それを押し潰すかの如く不知火はドスの効いた声を放つ。


「困っていると言うから来てみたら、まさか俺の親友を脅してほしいとはな。あ? なめてんのか?」


 不知火が激怒する姿は久しぶりに見た。世界を探してもここまで恐ろしい顔を持つ者は少ないだろう。不知火の迫力はすごかった。

 そして日凪君は小物感がすごい。不知火を利用して僕に有無言わせないつもりだったのね。セコすぎる……。


「あ、謝ったので勘弁してくださ」

「謝れば済むと思ってんのかクソ野郎」

「ひいいいぃぃ!?」


 恐怖のあまり息も出来ない日凪君の頭を掴み上げた不知火は彼の喉元に長ネギを突き立てる。か、刀みたいな使い方だね。

 僕の正面には日凪君の引きつった顔。チャラさなんて微塵もない、普通の男が泣く無様な姿だった。


「粗方の事情は把握した。日凪は金束のことを狙っていて流世が邪魔だったと。愚かだな。金束は既に流世の女だ」

「いや違うけど」

「そうか一番の女は月紫なのか。金束は二番目と」

「僕を女たらしみたいに言わないでよ。どちらとも付き合っていないから!」


 付き合えないよ! あの二人は美少女なんだよ? それにまず向こうが僕に恋愛感情を持っているはずがない。

 と、日凪君が僕を見た。恐怖が刻み込まれたシワと、土と唾液と泡で汚れてぐちゃぐちゃに怯えきった顔がそこにあった。


「付き合っていないんっしょ? じゃあ俺っちが小鈴を狙っても……」

「あぁ? テメェ程度の人間が何言ってやがる。本気で半殺しにするぞ」

「あぶぶぶ!」


 うわぁ、人が口から泡吹く瞬間を真正面から見てしまった……。カニより豪華に吹いている。人ってこんなにもきめ細かい泡を作ることが出来たのね。

 泡を漏らすチャラ男を見て僕は悲しくなる。以前は僕に対して脅迫するように強気な喋り方だったのに、ついさっきまで「ウェイウェイ☆」と言って調子乗っていたのに。今はなんと惨めで哀れな姿だろうか。


「こいつに何かされそうになったら俺に言え。すぐにぶっ飛ばしてやる」

「そ、そんな。俺っちとネギっちはマブダチ」

「テメェとは今日で絶交だ。二度と俺らに関わるなよ」

「あぶぶぶ……!」

「……そうだな」


 大量の泡吹いて今にも失禁してしまいそうな日凪君を離した不知火が物憂げに顔をしかめる。どうやら許すつも……ん?

 直後には鬼の形相に戻っていた。再び日凪君の胸ぐら掴んで軽々と宙に持ち上げる。


「し、不知火どうした。もう許す流れじゃないの?」

「いいや、やっぱ許ねぇ。こういう馬鹿は少し言うだけじゃ足りない。この場で徹底的に恐怖を植えつけてやる」

「容赦がない!」


 片手は日凪君を持ち上げ、もう片方の手に持つ長ネギを構える不知火。いやこれ敵にトドメを刺すやつ! バトル漫画で見たことある構図だよ!?


「不知火剣技・輪廻斬り」

「似たようなのを最近見たよ!?」

「気づいたか? 輪廻の『ね』と斬りの『ぎ』で『ねぎ』なんだ」

「凝っているようだけどしょーもない文字遊び!」


 このままでは不知火のネギソードが本当に日凪君を斬るかもしれない。

 死因:ネギを止める為にも僕は事の経緯を一から十まで不知火に話す。金束さんを巻き込み僕と日凪君が何をしたのか諸々と。


「なるほど。流世はサシ対決でこいつを退けたんだな。さすがだ」

「日凪君は十分に懲りただろうし許してあげようよ」

「分かった。不知火絶技・初音ギガスラッシュ」

「分かってない!」

「分かっていないのはこいつだ。懲りた懲りない云々の話じゃねぇ。野郎同士で決めた約束を破る奴は単純に俺が気に食わねぇし、流世の邪魔する奴を俺は許さねぇ」


 そう言って不知火の顔がさらに険しくなる。


「こいつは負けたのにまた邪魔してきたんだろ。俺に脅せと頼んできた。あぁいいだろうやってやるよ、気絶するまでテメェを脅してやる」

「あー……日凪君もう気絶しているよ」


 僕が説明している間に日凪君は白目を剥いた。胸ぐらを掴まれ足が宙に浮いた状態でピクリとも動かない。


「そうか」


 不知火はそう言うと日凪君を下ろし、躊躇うことなく長ネギを振るった。鞭のようにしなったネギが日凪君の頬に強打。


「痛えぇぇ!?」

「うし、起きたな」


 よ、容赦ねぇ。


「流世は優しすぎるぞ。こういった奴はキツイ仕置きぐらいが丁度良いんだよ。つーわけで後は俺がやっとくから流世は帰っていいぞ」


 そう言って不知火は日凪君を片手のみで持ち上げる。その光景さっきから何度目? 不知火の腕力がすごい!

 まあ……後は任せようかな。


「やりすぎたらいけないよ」

「おう」

「か、帰るの根暗っち!? そ、そんな、俺っちを置いていかないで!」

「あ? まだ元気な声出せるじゃねぇか。今から声も泡も出なくなる覚悟しろよ」

「ひいいいぃ」


 チャラ男の悲鳴を背に僕は帰る。

 後は任せよう。不知火は馬鹿じゃない。酷い暴力で懲らしめることはしないだろうし、僕の代わりに怒ってくれるのはあいつなりの優しさだ。

 僕は良い友達を持った。改めてそう思う。


「ウェイトウェイト! それはヤバイっしょ!? 俺っち死、ひいぃぃ!?」


 ……たぶん大丈夫だと思う。う、うん。

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