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8:旧市街

仕事がたてこんで遅れました

 ワイワイガヤガヤ騒々しい街の市場。

 ここは城から出て少し先の旧市街だ。

 漬物、お菓子、魚、肉、軽食、様々な屋台が出ていて非常に活気に満ち溢れている。

 そんな人混みの中を三人の人物が歩いていた。


「真琴君、美味しい?」

「はい。ありがとうございます」

「いえいえ。あ、マリアさんもどうぞ」

「いえ……私は……」

「いいからいいからっ。ね?真琴君っ?」

「マリアも食べなよ」

「いただきます」


 真琴は横になつみ、後ろにマリアを歩かせながらのんびりサンドイッチを啄みつつ市場を眺める。


「それにしても凄いですね。毎日こんななんですか?」

「うーん……私も町に来たのは二回目だからなぁ。この前もこんな感じだったけど……」

「そうですか。マリアは?」


 真琴はマリアに話を振る。


「いつもここまでではないです。ですが今日のように一週間に一度、マルクト全体で安売り日を決めておりまして、その日は周りの町からいろいろな方々が集まってきて、このように非常に人がごった返すのです」

「なるほど」


 真琴は一人納得してからサンドイッチの最後の一欠片を口に放り込む。


「あ、真琴君。口に付いてるよ」

「ん?ここ?」

「ダメダメってあーもう。手についちゃった」


 真琴が口の端に指を当てると、サンドイッチのタレか指にべっとりと付着した。

 すると無言でマリアが着ていたエプロンの端を真琴に突き出した。

 真琴はやはり無言でそこで指を拭き取る。

 そして何事も無かったように真琴は丁度目についた漬物屋に向かった。



「……マリアさん」


 真琴がピクルス等を試食しているのを眺めながらなつみはマリアに話しかけた。


「ようやく私達を連れ出した理由を教えてもらえるのですか?」


 マリアも真琴を見つめながら質問で返す。


 そもそも城下町に誘ったのはなつみだ。

 朝方唐突に来て、真琴のことを誘いに来たのだ。

 それに真琴は二つ返事で了承し現在に至る。


「誘ったのは前の世界でも一週間に一度必ず買い物をしていたからです。別にあなたに関係ありません。ただ丁度良い機会ですのでお聞きします。あなたは真琴君をどうするつもりですか?」


 いつものどこかホンワカした雰囲気は鳴りを潜め、まるで子供を守る親猫のような視線で横のマリアを睨んでいる。


「あなたがカナル宰相に監視を命じられていることは分かってます。もちろん理由も」

「…………」

「もし真琴君に何かするようなら……」

「私は日比谷様に心からお仕えしております」


 なつみの言葉を遮ってマリアは話しだした。


「確かに最初は王命でした。そしてカナルから監視も命じられています。ですがそれは日比谷様を守るためです。それはあなたと同じ、いえそれ以上の気持ちだと自負しております」


 宰相のことを呼び捨てで呼ぶなど普通はあり得ない。

 だがマリアは真琴には敬称をつけカナルには付けなかった。

 それだけ真琴に心酔しているのだとなつみは理解した。

 まさかとは思ったがそのことを頭の隅に追いやり続ける。


「あなたと真琴君はこちらの世界で会ってまだ一週間しか経っていない」

「一週間と二日です。ではこう言えばよろしいですか?あなたと同じです」


 それを聞いてなつみの疑念は解決した。

 自分と同じ。

 ならば信用しよう。


「…………そういうことですか。分かりました。でしたらもう何も言いませんしあなたと真琴君の関係には口を出しません」

「是非そうしてください。勿論あなたのその立ち位置を奪うことはしません。あくまでも私はメイドですので」

「ちょっと複雑ですけどまあいいでしょう。ただ何かあった時のために必ず報告はしてください」

「了解しました」


 マリアの言葉を聞いたなつみは途端にいつもの雰囲気に戻った。


「それにしてもあなたの猫被りには感服しました。いつからそのようなことを?」

「別に猫をかぶってるわけじゃないですよ。ただ真琴君のことは絶対に守るって約束しているだけです」

「そうですか」


 守りきれると良いですが……というマリアの呟きは喧騒に掻き消され、なつみは聞き取ることができなかった。


「二人共どうしたの?」


 試食を堪能した真琴が戻ってきた。


「いえ。瀬川さんから少し地球での話を聞いていたところです」

「ふーん。あ、このザワークラウト美味しかったよ」


 と言って袋を二人に見せる。


「うーん……」


 するとなつみが唸りだした。


「どうしました?」

「あ、いえ…………なんか異世界って割に色々と発展してて……なんだかなーって思いまして……」


 マリアが聞き返したのでなつみは言いにくそうに答えた。


「それはどういう意味でしょうか」

「……地球で流行っている漫画とか小説に異世界に行く話があるんですけど、その手の異世界の文化とかは大体中世ヨーロッパが大半なんです。だからこの袋みたいにビニールがあったり、当たり前のようにお風呂やシャワーがあったり、シャンプーリンスに至ってはむしろこっちのほうがいい気がする……」

「…………どうも物語と混同しているようですが、これは現実です。私達は日々を必死に生きていますし発展するのは当たり前でしょう」

「うう……。ごめんなさい」

「分かればいいんです」


 そんな二人を見ながら真琴はザワークラウトの中に片手を突っ込んでいた。


「あの……真琴君?」

「なんですか?」

「いやなんか言いたそうだなぁと……」


 なつみに聞かれると少し考える素振りを見せて口を開く。


「なんか二人共仲良くなった?」

「そんなことはありえません」

「そうだよ。ありえないよ」


 ほぼ同時に二人は否定した。全力で。


「そ、そう……」


 よく分からないが踏み込んではいけない気がした。



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