6:舞の過去
「まことおおおお!!」
どことなく体験したことのあることを舞にされると、真琴は鬱陶しそうに、身体を押しのけようとした。
「苦しいから……」
「まことぉぉ、よかったよぉぉ」
なんとか舞を引き離す。
「うう、鼻水が……マリア、タオルかティッシュ頂戴」
「どうぞ」
後ろに佇むマリアから小さいタオルを貰うと、服についた鼻水を拭き取って、無言でタオルを返す。
真琴は舞の横を通過して、朝食を取ることにした。
「マリア、パンとあと適当に。生野菜は苦手だからサラダは少なめで」
「承知致しました」
席につくとマリアにパパッと指示を出す。
その様子を舞含めクラスメートが唖然とした顔で見ていた。
「真琴……あの……」
「ん?食べないの?」
「そうじ「日比谷」
舞を割り込んで竜介が真琴に詰め寄った。
「……なに?」
「お前のステータスを見せろ」
「……なにそれ」
「いいから見せろよ」
「…………マリア、普通ステータスって人に見せろって言われて見せるもの?」
「普通は見せません。法的理由あれば別ですが」
「だよね。じゃいやだ」
「俺も見せる」
勝手に竜介がステータスを真琴に突きつけた。
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種族︰ヒト
体力︰3000
魔力︰1500
筋力︰300
身長︰177センチ
体重︰59キロ
能力︰瞬間翻訳 鑑定 炎属性魔法 鑑定 治癒速度上昇 結界魔法 身体機能強化 身体能力強化
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とんでもステータスのオンパレードである竜介のステータスをチラ見して真琴は食事を続ける。
「俺のを見たんだ。だから見せろ」
「意味わかんない。見たんじゃなくて見させられたんだし。それに今食事中なんだよ。邪魔しないで」
「なっ?!」
「申し訳ございません。日比谷様のお食事の邪魔です」
「なっ??!!ふざけ…」
「竜介君、やめて」
舞が竜介を止めた。
「ごめん真琴。また後でね」
「別にいいよ」
何か言おうとしている竜介を半ば引き摺るようにして舞はそこから立ち去り、少し離れた席に座った。
真琴はそれを気にせず食事を取るとそのまま席を立ち部屋に戻った。
真琴が食べ終わった後の食器類はマリアが全て片付ける。
その様子を見ながら舞はマリアに話しかけた。
「あの、マリアさん」
「なんでしょう」
「真琴は大丈夫ですか?」
「…………大丈夫とは?」
手を止めて舞に向かい合う。
「真琴は元々自分第一なとこがあるんですけど、余裕が無くなるとそれが露骨に出てくるので…………」
マリアを完全に道具として扱う真琴を見て、相当追い詰められているらしいと判断したのだ。
お礼一つ言わずにいる真琴は端的に言ってかなりまずいはずだ。
「大丈夫です」
だがマリアは有無を言わさない態度で即答した。
「日比谷様は私がお仕えしている私の主です。なんの問題もございません。ところであなたは日比谷様とはどのようなご関係ですか?」
問われた舞は顔を曇らせた。
「真琴は私の恩人……なんだけど……」
「恩人ですか?」
「まあ真琴は助けた気が無い、というより覚えてないみたいだけど」
「そうですか」
「…………え?」
「何か?」
「い、いえ……」
「では失礼します」
マリアは困惑する舞の横を通り去った。
*****
朝食の後、舞の部屋で舞と奈緒がベッドと椅子に向かい合ってそれぞれ座っていた。
「ねえ舞」
「何?」
「前に聞いた時もはぐらかされたんだけどさ。なんで舞ってあいつに固執するの?言っちゃあなんだけど、あいつ不気味だし、気持ち悪いとか通り越して正直怖いのよね。あんまり話そうとしないし」
真琴はクラスの中ではかなり浮いた存在だ。
髪は長くて顔はよく見えず、授業中以外はいつも寝ている。
体育はいつも見学で、先生にある生徒が理由を聞いたところ、あいつはいいんだとはぐらかされる。
じゃあ虐めに発展するかと言うと不思議とそんなことは無く、結局不気味で関わりたくない男という存在になっている。
だから奈緒は舞がやたら構う理由がどうしても理解できなかった。
「そっか。まあそうだよね」
そして舞が話し出したことは、奈緒からしたら少し肩透かしも良いところな内容であった。
「私は小学校の時、ちょっと嫌がらせされてたんだ」
「え、そうなの?私知らないわよ?」
「うん。と言っても三年生の一時だけね。ほら、奈緒とは四年生の時に知り合ったんだもん」
舞達が通っていた小学校は、四年生から部活に入れるようになるシステムである。
舞と奈緒は部活で知り合ってからの付き合い。
だから知らなくて当然なのだ。
「言ってくれればよかったのに……。それにしても意外よね。舞が虐められるとか、考えられないわ」
「そうかな。クラスの男の子に告白されたけど断った。そしたらその子を好きな子が私のことを皆の前で中途半端な意地悪してきてね。たまたま私が一番後ろの席だったからなのか、必ずプリントが一枚足りなくて、前まで取りに行かなきゃならなかったり、その子がたまたま同じ掃除のグループだったのと、真冬だったからってのが重なって、雑巾掛けを私に必ずやらせたりとか。水が冷たかったよ。しかもそれを見て周りの女の子も真似しだしてね」
奈緒は黙って続きを促す。
「そんなことが二ヶ月くらい続いてね」
「そんなに?!逆に良く耐えられたね!」
「いやそれが全然。なんでこんなことするのか分からなかったから、怖かったし、毎日泣いてた」
「それもう虐めでいいわよ。あ、告白してきた男の子は?助けてくれたの?」
「ううん。私を助けてくれたのは別の人だよ」
「え?じゃあその子は何してたのよ」
「その子はその子で私に振られたのが悔しかったみたいで、友達には私が告白して向こうが振ったって話してたし、私とは告白してきた日以降話しかけてはこなかったよ」
「振って正解ね。まあ小学校の時の話だし、そんなものかしらね」
話の腰折ってごめんね、と奈緒が謝ったのを聞いて、舞は話を再開した。
「そんな時転校してきたのが真琴なの」
「あーそれで真琴が舞の虐めの現場を目撃して助けたってわけね」
「ううん。違うよ」
奈緒はへ?と間抜けな声をあげた。
「いやその……。真琴って転校して来てすぐに虐められかけたのよ」
「あー正直わかるわ。昔からあーなら尚更。舞にはわるいけどね」
「あはは。でも真琴は返り討ちにしちゃったのよ」
「は?!あれが?!」
奈緒は心底驚いた。
とてもそんな事が出来るようには見えなかったからだ。
「うん。その時たまたま私も見てたんだけどね。その虐めようとした子たちの中に、たまたま私のことを虐めていた子も入っててね。それで怖くなったんだって。泣きながら謝られたよ」
「それで?」
「それだけ」
「…………はい?!そんだけ?!もっとこう……アイツとの何か……イベントとか無いわけ?!」
舞は、んーと少し唸る。
「強いて言うなら次の日に『助かったよ。ありがとう』って言ったら、『お前のためじゃないからお礼なんていらない。それより私と友達にならない?』って言われたね」
「お、おお……。結構積極的ね……」
「次の日会ったら名前も覚えられてなかったからもう一度自己紹介したけどね。以来ずーっと真琴とはあんなかんじ。何処かへ遊びに行くとかは無いけど、なんとなく気兼ねなく話せるし、私にとっては真琴は恩人で友人なんだ」
「ふーん……。ますます分からないわ」
「奈緒は真琴とほとんど話さないからね。でも話したら真琴の良さがわかるよ!多分!」
「うーん。まあ善処するわ」
と言いつつも、奈緒はおそらく真琴とは関わろうとはしないだろう。
やはりどこか不気味な雰囲気のある真琴のことが怖いと言うのもあるが、あの真琴が反撃するなどとは信じがたい。
だが、大人しい奴ほどキレるとヤバい、という昔からよく言われている言葉がある。
やはり真琴には出来るだけ近づかないほうが良さそうだと思うと共に、竜介にもこの話をしておいた方が良さそうだと心の中で呟いた。
今回の話は、もしかしたら改稿するかもです。
話の流れは変わりません。