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2:いきなりの王女

 目が醒めた真琴は自分が石畳の上に横になっていることに気づいた。頬に当たる冷たく硬い感触はあまりいい気分にならない。

 嫌そうな顔をしながら立ち上がって辺りを見渡す。


「あ、瀬川先生って寝てるのか」


 石畳の広い部屋の隅になつみが椅子に腰掛けたまま寝ているのが視界に入った。

 真琴は近づいてなつみの肩を掴んで揺らした。


「瀬川先生、起きてください、先生、先生」


 ほえ?っと口から涎を垂らしながら起きたなつみ。


「はれ?真琴君……真琴君?!まことぐううんん!」

「うぐっ……先生……苦しいから離して」


 なつみは椅子から真琴に飛びついた。迷惑そうな顔で離してと言うが真琴はしばらくそのままにしていた。


「ひぐっ……えぐっ……うぐっ……ぐずっ……」

「泣きすぎですよ瀬川先生」

「らっでぇ……」


 なつみが落ち着くまで抱かれたままでいたのだが、それはすぐに別の人物達によって阻止された。


「どうしま……し…た……」


 鎧を着た兵士だと思われる団体が飛び込んできたのだ。


「あ、みなざん……クズンっ……おつがれさまでず……」


 真琴に抱きついたままなつみはその団体に話しかけた。


「ハッ!あの……ところでその……そちらの方は……」


団体の中でも少し装飾の激しい鎧を着た一人が代表のように兜を外し敬礼してからなつみに話しかけた。


「え?あっ!ごめんなさい真琴君!つい……」

「いえ別に。落ち着いたのなら離れてもらえればいいです」


 慌ててなつみが離れると、真琴は服についたなみだやら鼻水やらをボケットティッシュで拭った。


「瀬川様。それで……」


 真琴はティッシュをポケットに仕舞いながら、敬礼してきた男を観察しだした。

 鎧の上からでもわかるくらい筋骨隆々な大柄の男だ。

 男の髭が見事なほどの男爵髭なのにも関わらず、頭がツルッツルなことが少しおかしく、なんとなくジッと見つめていた。……頭を。


「なるほど!そうでしたか!この方が最後の!いやあ少し見た目は頼りないですが、残り物には福があると言いますし、彼にもきっと強力な能力があることでしょう!」


 突然大きな声を出した男に驚き、真琴は無意識になつみの影に隠れた。


「コラコラ。君も男であろう。か弱い乙女の影になぞ隠れるでないわ全く」

「うわぁ?!」


 その真琴の襟首を掴んだ男はそのまま歩き出した。


「さ、行くぞ少年!!」

「は、離せー!!」

「あっ!真琴君っ!」

「お待ちくださいヘルバトイ大佐!大佐!」


 大股で歩く男に少し小走りでなつみが追いかけ、更にその後を団体が続いた。



 ぶら下げられていた真琴だが、流石に抵抗し続けると、ミストル・ヘルバトイは手を離した。


「少年は軽いなぁ。もう少し鍛えなくては能力があっても生き残れんぞ」

「その前に色々と説明してもらえませんか?」


不満そうな顔で制服の襟を直す真琴は、


「おお!そうであったな。安心めされい。殿下直々にお話を伺えるのでな!」


 どういうことだと訪ねようとしたが、ミストルが手で制しながら止まった。

 場所は大きく派手な扉の前で、左右にミストルとはまた違う装飾の鎧を纏った兵士が一人ずつ立っている。

 全員が止まったことを確認すると、ミストルは大声を張り上げた。


「殿下!最後の一人をお連れしました!」


 すると扉がひとりでに左右に開く。


「スライド……」

「私も初めて見た時は驚きました。他の子達もです」


 思わず口をついて出た独り言になつみが小声で返事をした。


 ゴゴゴゴと大きな音が廊下に響き、完全に開ききる。

 てっきり部屋があると思った真琴はまた驚いた。中はまた廊下だったからだ。


「ではえー……」

「真琴です。日比谷真琴」

「おお、日比谷様ですな。では日比谷様。真っ直ぐ歩いてください。殿下がお待ちです。ここからはお一人でお願いいたします」


 後ろに立っているなつみの方を向くと、コクリと軽く頷いたので、真琴は歩き出した。



 *****



「うーん……この両サイドの石像……?なのかな。気味悪いな」


 明らかに上質なカーペットの上を歩きながらひとりごちる真琴。

 二分ほど歩くとまた大きな扉が現れた。今度はあまり装飾は無い。


「……開けていいのだろうか」


 と言いつつ、扉の片側に手をかけて横にずらそうとした。


「フンッ!……あれ、これは押すのか」


 今度は両手を扉に当てて押す。


「フンッ!……開いた開いた」


 ググググッと少し重たい扉が開いた。

 自分が通れる分だけ開けて中に入る。


「よいしょ……。あ、失礼しまーす」


 そういえば殿下とか言ってたな思い出し、取ってつけたように間延びした挨拶をすると、奥から笛の音のような澄んだ声がした。


「はいどうぞ。そのまま歩いてくださいな」


 扉を閉め、言われた通りまたカーペットの上を歩く。

 すると奥にはベールで覆われた一角があり、その前に一つ小さな椅子が置いてあった。


「どうぞお掛けください。異世界の方」

「失礼します」


 遠慮なく真琴は椅子に腰掛ける。


「このような形で失礼いたします。わたくしはこの国、神聖国リューネの第一王女、サフラン・リューネと申します」


 ベール越しに聞こえる声は先程と同じ笛の音。


「はあ。お……僕は日比谷真琴と申します」

「日比谷様ですね。よろしくお願い致します」

「よろしくお願い致します」


 真琴は影に向かって頭を下げた。


「まずは日比谷様。突然我が国に許可なくお招きしてしまい、心からお詫び申し上げます」

「はあ」

「早速ですがお話させて頂きます。


 我が国……いえ我が世界には魔王と呼ばれる者が存在します。魔王と言っても見た目が異形のソレだからというわけではありません。

 ただ、その魔王が治めている国は、魔王含め残虐な国民が多く、事あるごとに他国を攻めて、再起不能一歩手前まで蹂躙するのです」


 一旦そこで言葉が途切れたため、真琴は質問した。


「一歩手前と言うのはどういうことでしょうか」

「一歩手前とは本当にその言葉通りです。ギリギリ国として生きていけるところを見極めて……まるで遊んでいるかのように攻めてくるのです。そんな強力かつ残虐な国の王は、まるで物語の悪魔の王のようだという意味を込めて、悪魔達の王『魔王』と呼称しております」

「はあ」


真琴の薄い反応に少し口を閉じるが、すぐにまた開いた。


「一年前、我が国に神託が下りました。その神託の通りに研究することで、あなた方を召喚する魔道具を作成したのです」

「はあ。つまり僕達はその魔王のいる国との戦争の為に呼ばれたってことで合ってます?見た目は少なくとも同じ姿の人達と殺し合えということで間違ってないですか?」


 影から少しだけ息を飲む音がした。


「そう……ですね。はい。私たちはあなた方異世界人達に我が国の兵士として戦っていただきます。あ、勿論断ってくださっても構いません。それでも生活は保証いたします」

「はあ。じゃあお断りします。死にたくないんで」


真琴は即答した。


「え?」

「何か?」

「い、いえ……。考えたりしている様子が見えなかったもので……。他の方々はかなりその……」

「どうせ帰す手段は無いんですよね?なら生き長らえることが出来る方を選ぶのは普通だと思うんですけど」

「そう……ですね……」

「……なんか残念そうですねぇ。もしかして僕以外の人達は戦争に参戦するんですか?」

「はい。全員参戦してくださいます」


実はそのまさかだ。

一部は嫌嫌ながらだが、クラスの中心人物が参加したことによりまとめて参加することになったのだ。


「へえ」

「ただ不安ではありますけどね」


サフランの声は沈んでいる。

真琴が無言のままでいるとサフランは続けた。


「失礼ですけど、他の方々から聞きましたが、あなた方は生き物を直接殺めることをしたことは無いんですよね?ですから……」

「ありますよ」


真琴は食い気味に答えた。


「え?!」

「というか恐らく全員生き物を直接殺めたことはあるはずです」

「ウソ……」

「いや蚊とかコバエとかゴキブリとかって殺しますよ。定義によっては雑草だって生き物です。ね?結構僕達って殺しまくってる人生でしょ?」

「そ、それは……」

「それは何ですか?」

「いえ、何でもありません」


ヒトと虫を同列の扱いで語る真琴を見て、サフランは少し不気味さを感じたがあえて無視した。


「そうですか。それで僕の待遇はどうなるんですか?」

「待遇?」

「はい。だってそうでしょ?確かに戦争には参加しませんけど、そちらの都合で勝手に連れて来られたんです。それなら少しくらい良い待遇を受けたっていいと思うんですけど」


 本当の本当は神的な存在によって、神為的に起こされた事なのだが、とりあずそれは黙っておく。


「そ、それでしたら問題ありませんよ。住まいもこの城に暮らしていただけますし、この国での生活になれるまでの生活費を国からお出しします。勿論何か他に要望があればなんなりと」

「そうですか」

「何か?」


 真琴の様子が少し気になったのかサフランが尋ねる。


「いえ。別に」

「…………何かありましたらなんでも言っていただいて結構ですよ?」

「大したことじゃないです」

「大したことないのでしたら……」

「いえ本当に大したことないんで気にしないでください。それより他に僕に言わなきゃいけないことってありますか?」

「え、と、す、ステータスです。ステータスの中を見せてくださいませ」

「嫌です」


 サフランはキレた。



次回は来週の日曜でっす!

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