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少女消失

「まったく、この学校の方々は何を考えていらっしゃるのッ!?」

 鶫は勇み足で中央高校の校舎に入っていった。

 来客用のスリッパに履き替え、ずんずんと進む。

 目指すは生徒会だ。

 有能な森川様に雑用をさせるなと強く申し立ててやる!


 ドンっ!


「っと」

 突然曲がり角から出てきた人と接触し、鶫は与太った。

 足早に進み過ぎて周りが見えなかったのか。

「あ、あら……失礼」

 軽く会釈し、鶫は相手を確認した。


 蒼いつなぎを着た中肉中背の男だった。微かに油の腐臭が漂っている。


 清掃業者かなにかだろうか? 目深にかぶったキャップと整えられてないまばらな無精ひげに、不審を抱く。綺麗好きの鶫は、こんな不潔そうな男に接触したのかと少し怖気、反射的に嫌悪感を顔に出してしまった。

 だから男は嫌なのよ。関わり合いになる前にこの場を去ろうとしたが、


「おい、お前。三久田鶫だな」

 男が突然自分の名前を口にした。


 見ず知らずの男が、何故、私の名前を?

「ああそうだ、間違いない。森川結花と一緒に住んでいた女だ」

 ニィとねちっこい笑みを浮かべるその顔に、どこか見覚えがあった。

「あなた……まさか、加山?」


 そうだ、間違いない――だとすれば逃げなくては!


 が。








「まてよ」

 ――キィィィィン。

 耳鳴りのような甲高い音が鳴り響き、思わず耳を塞ぐ。

 そして周囲の景色に陰りがさす。

 闇が訪れたのだ。まるで映画の場面が切り替わるように、突然の異変だった。

 外に赤い月が見える。まだ日が昇っていた時刻に、赤い月の出現だ。

 その妖しい寂光だけが、足元を照らす唯一の光源となった。


「だ、……誰かッ!!」


 突然の変化に、鶫は悲鳴を上げた。だが助けも返答も来ない。学校の中にはまだたくさんの生徒や教職員が残っていたはずなのに、ついさっきまであった人の気配は消滅し、あたりは不気味な静寂が覆っていた。

 足がすくむ。しんっと静まり返ったその場所は、姿こそ似ているが自分のいた世界とはまるで別物だと直感して、恐怖が少女を覆う。

 ここはどこなんだ。異次元にでも放り込まれたのだろうか?

 立ちすくむ鶫の背に向かって、こつ、こつと歩み寄る男の足音。

 赤い月に照らされた男の長い影が、鶫を覆った。


「聞きたいことがあるんだよ。

 ついてきてもらう」

 歩み寄る男の笑みは、だ液で汚らしい糸を引いていた。







「あら?」

 生徒会室に残っていたさおりは、首をかしげた。

 結花と翔の成り行きでも観察してニヤニヤしてやろうと監視プログラムを組み込んだところで、突然パソコンにラグが発生したのだ。

「どうした?」

 中村に問われて、とっさに「ううん、なんでもないわ」と切り替えしたが……。

 なんだか妙だ。

 さおりはモニターを起動し、校内の異変を調べ始めた。





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