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「〝はじめまして〟、生徒会書記の森川結花です」

「おいおいおい。なんだ、この惨状は」

 生徒会室に入ってきた男は、へし折れた机を見つけて目を丸くした。

 スポーツ刈りの頭に、身長は平均やや高めで、一見細身だが肩幅ががっしりしていて、男らしい印象を受けた。

 ネクタイの色は赤、3年生だ。


「机が真っ二つじゃねえか。

 オイ杉田。今度はなに企んでんだよ」

 容疑の矛先は迷う事なく杉田に突きつけられた。

 このボイン、いろいろ余罪があるらしい。

「別になにも企んでないし。

 なに、私が空手チョップで机を割ったって言うの?」

「多方、新入生苛めて楽しんでたんだろ。程々にしとかないと俺にも考えがあるからな」

 三年生は杉田に釘を刺すと、翔に向き直り、


「つうか、お前大丈夫か? 頭から血出てるぞ」

「あ、はい。一応生きてます」

「あんまりあいつに係わるな。骨の髄まで吸い尽くされるぞ」

 全然比喩に聞こえなくて背筋が寒くなる。

「ちょっと。私、妖怪扱い?」

「妖怪みたいなもんじゃねーか」

 妖怪みたいなもんだなぁ……。


「普通科三年の中村孝司(なかむらこうじ)だ。風紀委員長をやってる」

 中村はそう言うと、握手を求めてきた。

「普通科一年生の仁藤です」

「よろしくな。なんか困った事があったら、遠慮なく言えよ」

 目つきはちょっと威圧的だが、いい人そうでよかった。




「さーて。じゃあボチボチ始めるか」

 その中村が切り出す。

「始めるって、何をですか?」

「何って、生徒会の定例会に決まってんだろ」

「いや、決まってんだろって……」

 翔は辺りを見回した。

 いま生徒会室にいるのは翔と杉田と中村の三人。


「三人しか居ないんですけど」

「集まりの悪い生徒会だからな。まともに待ってたらはじまらねぇ」

 どうなんだ、それって。

 エリート高校の生徒会にしてはえらくルーズじゃないか。

「まあ、協調性は足らんが仕事はちゃんとする連中だ」

 顔に出ていたのか中村がフォローを入れた。

「中村くん、生徒会長不在はさすがにマズイんじゃない?」

 杉田の指摘を受け、中村は、

「あー。それもそうだよな……。あいつはちゃんと来るだろうけど」

 とスマホを取り出し、生徒会長と思しき人物に電話をかけた。




「今どこだ?

 ……始めるぞ。新入生も居るんだから、ちゃんとやろうぜ」


 待つこと10分弱。また扉が開く。








「遅くなりました。はじめましょう」

 入ってきた人物を見て翔は仰天した。

 見覚えのある、まん丸メガネの女の子だ。可愛らしさと利発さを併せ持つルックスに、少し低めの身長、そして何より特徴的な三つ編みを揺らして、彼女は会釈した。


 生徒会長として入ってきたのは追い求めていた幼馴染みのあの子。

 そう、結花だったのだ。


「え? え?」


「お前が遅刻ってのも珍しいな」

「色々と立て込んでいたので。すみません」

 当惑する翔の目の前で会話が進む。

 いや、なにこれ。結花が向こうから来たよ。

 うわ。これがいわゆる運命って奴?

 なんか、こう、二人は引力的なもので引き合ってって逃げられない的なものがあったりするんでしょうかマイゴット?


「あ」


 その結花と目が合う。ヤター!

 ああ、そんなしんどそうな顔しないで!

 これ偶然だから! いや運命だから!!


「杉田先輩ですね」

 結花は深く深くため息をついた。

「なんにもしてないってば」

 すっとぼけた調子の杉田に、結花は、

「教師に圧力をかけて無理やり彼を生徒会に入れさせたのでしょう。

 さっきの私と彼とのやり取りを見て思いついた、いつもの愉快犯ですか?」

 すると杉田はけらけら笑った。

「あはは。ばれた」

「学年の代表である生徒会執行部員を道楽で決めるなんて、ありえません!

 人の弱みを握って悪ふざけするのもいい加減にしてください!」

「委員長じゃないんだから別にいいじゃない。

 自称結花の幼馴染クンとか、こんな素敵なおもちゃを逃す手はないでしょ?」


 うわなにそれ。運命じゃなくてこの人が仕組んでたってこと?

 じゃあさっきのキスの話も結花がここに現れるのを見越して言ってたのか。

 このデカメロンどこまで性格悪いのよ。『それも私だ』キャラか!

 翔は一抹の怒りを覚えたが、いやまて、その性格の悪さが結花と同じコミュニティに入る機会を与えてくれたのだから、むしろ感謝するべきなのかもしれない、などと考えて思いとどまった。




「なんだお前ら。知り合いかよ」

 蚊帳の外に置かれた中村が言う。

「さあ。私の幼馴染だとかで」

 結花は肩を竦めた。遠回しにこちらを異端扱いしているよね。

「さあ、ってお前な……」

 ホントだよ。

「笑っちゃうわよ。

 この子、結花に会いたくて必死に勉強してこの学校に入ってきたのよ」

「ちょっと! 杉田先輩!」

「ホントの事じゃない」

 杉田が余計な事実を曝したため、結花と中村の痛々しい目線が刺さる。


 嗚呼。死にたい。マジで死にたい。


「まあお前らのごたごたは知らんし、経緯はどうあれこいつは今日から生徒会のメンバーだ。森川、まずはちゃんと挨拶しろ」

 中村が上手にまとめて、結花にそう命令した。

 流石に先輩の言うことには逆らわないようだ。

 結花は翔の前に立つと、頭を下げてこう自己紹介した。


「〝はじめまして〟、生徒会書記の森川結花です」


 そんなとこ強調しなくてもいいじゃんか。泣きたくなる。

「仁藤翔だよ。――結花ちゃん、やっぱり覚えてないんだよね」

「申し訳ありませんけど」


 そういうと結花は翔なんぞに興味ナシとばかりについっとそっぽを向き、自分の席へ向かった。途中、へし折れた机を見つけ、


「なんですか、これ」

「何って、愛の証明よ」

「はあ……?」



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