決着
翔は突然の増援に対応が遅れ、拳ではじくのがやっと、徐々に圧され始めた。
加山もじっとしているわけがない。怪力を振るい、翔を捕らえようと加わってきた。
『ソイツの体の中ニ賢者の石がある、壊すなよ!!』
「わかっている」
『勝手な打ち合わせをしてんじゃないよ!』
翔の腕が高い電子音を帯びて再び輝く。襲い来る刃を両手でつかむと、めいいっぱいの握力を加えてやった。
――バキリ、と、金属にひびが走ったところで、
『オイ、爆薬を忘れるナ!!』
加山の脅しに翔はハッと怯んでしまった。
「〝メガファイヤー〟」
女騎士がそう唱えた。
すると彼女の指先から灼熱の焔が飛び出し、翔の体を直撃。
『ぐぅ!』
この鋼鉄のボディでも痛みはあるらしい。
みぞおちにフックを食らったような衝撃の後、翔の鉄の体は地面を転がった。
「形勢逆転だな」
ラブラの切っ先が眼前に迫る。
――立ち上がって反撃することはできる。
だが、加山の脅しがもし本当だとしたら……。
翔は最悪の事態を恐れ、動くことすらままならなくなった。
そんな翔の体を、加山は足蹴にし、
『やっと……、ヤット手に入った、賢者の石――ッ!』
そう笑んで拳を振り上げた。
――やられる。ごめん、結花ちゃん――!
「ねえーっ?
爆薬って、もしかしてこの茶色のカプセルの事ー?」
『――!』
非常階段への出入り口だ。
真っ黒いライダースーツに身を包んだ少女が、楕円形の固まりを手に勝ち誇った笑みで立っていた。
杉田だ。あの体格だから一目でわかる。
「あなたの動向を徹底的に洗い出したら、なんか、見つけちゃった。
で、中身を抜いといたんだけど」
杉田はぽいっとカプセルを投げ捨てると、
「あれ? もしかしてこれ、奥の手だったりした?
ごめんなさい、空気読まなくって」
と、ぺろりと舌を出し挑発的な笑みを見せた。
『キ、サ、マアアアアアッ!!』
怒り心頭の加山が吠え、向きを反転、杉田へ猛然と襲い掛かった。
が。
『おっと。どこ行くんだよ』
それを許す翔ではなかった。
杉田が作ってくれた隙に再起していた鋼鉄の超人――翔は、加山の肩を掴み、引き留める。
『僕との用事がまだ済んでないだろ。
先輩、爆弾とかもうないんですよね?』
「あら、私を疑うの?」
『一応確認しただけです』
それを見ていたラブラはチッと舌打ちをして、ベーター空間へと逃げ込む。
翔はリフティングの要領で相手の胴を軽々と持ち上げる。
そして月が輝く夜空へと放り投げた。
『グオオオオオッ!?』
突然空に投げ飛ばされた加山は、姿勢の自由を奪われ、成す術無くもがくしかない。
翔の眼が輝き、光線を放って敵を補足する。
すると加山の臓器や骨、細胞の一部一部までのデーターが頭の中に入りこんできた。
加山を怪物に変えた、S.D.Fを探しているのだ。
首筋に埋め込まれた針、それが彼の体内に異物を生成している。
〝魔源〟と呼ばれる、魔術の源だ。異次元のテクノロジーで彼が怪物の姿を手に入れていることを理解すると、翔は次に解決策を見出した。
要はあの魔源を破壊してしまえばこっちのもんだ。
この間、約1秒。翔は跳躍した。
投げ飛ばした敵よりも高く舞い上がると、蒼いエネルギーを纏って降下、一気に加山の胴体を撃ち抜いた。
バキリと〝魔源〟の破壊される音、それは形を失い、異物が昇華していく。
「あ……、あああ……」
加山の肉体は落下しながらどんどん収縮し、元の成人男性に戻っていく。
ビルに衝突する間際、その体は翔に拾われ、かろうじて激突は免れた。
死すら超えた翔の手で、決着がついたのだ。




