あの日の誓いを果たす時
目覚めた翔は、敵と対峙し、自分の身体の変化に驚いていた。
目線は高くなり、歩調も違う。
なによりも体の中心、特に骨そのものが金属とすり替えられたように冷たい。
自分は今、超常的な〝何か〟に変わってしまった。
だがその変化に怯えるより早く、怪物に捕まった最愛の幼馴染み、その光景を目の前にして翔は一気に激高した。
全身に力が漲る。彼女を救えと叫んでいる。
あの日の誓いを果たす時が来たと訴えている。
『その手を離せって言ってるんだッ!!』
翔は駆けた。あっという間に敵への距離を詰め、その拳は獣のような怪人の顔面を弾丸の如く打ち抜いた。
一撃に怯んだ敵は結花を手放す。彼女の身体は小早川が受け止めてくれた。
『ク、クソォ!!』
怪物は猛然と翔へと挑みかかった。
頭をもごうと企んだのか、両手を振り翳してきたのだ。
翔も咄嗟に両腕で身体を庇うと、敵はその腕を掴み、力任せに押し込んできた。
とんでもない怪力だ。常人なら捻り潰されていただろう。
だが。翔はぐっと踏みとどまり、
『力を貸せ――ッ!』
この身体に指示を飛ばすと、ヴォンと高い音が鳴った。体中を熱が漲り、目の前で頑としている両腕が青白く発行した。力が漲ったその腕は、敵の怪力と拮抗を始めた。
怪人の顔に焦りが走るころには、その力は敵を押しのけるほどに達していた。
再び翔の拳が唸る。敵はぐぅっと呻き、壁に叩きつけられた。
『クソォォォ!』
敵は異次元に逃げ込もうとする。させるか!
翔は跳躍し、異次元への渦に自ら飛び込む。
世界が一変した。
周囲の色が抜け落ちたかのように白く、しかしおぼろげな輪郭から、ついさっきまで居たモニター室に違いなかった。まるで、色を塗り忘れたぬり絵のようだった。
これは慌てて作った出来損ないの次元だ。
奴は自ら専用の仮想次元、ベータ―空間に現実の場所をコピーし、その中で移動して目的地で現実に戻る。ベータ―空間内での相対距離は変わらないため、出現位置は移動した距離に相当する。それがテレポーテーションの正体だ。
――なんで僕はそんな事がわかるんだ……?
疑問が過るが、それは後だ。
翔は逃げる怪人の腕を掴み、腰を捻り、二度ほど旋回、ハンマー投げの要領で相手を一気に放り投げた。天井にたたきつけられた敵は、
『グゥ』
と呻くと、どういう原理なのか上昇、天井をバリバリと突き破って上階を目指した。
翔は跳躍、その軌道を追う。
数十メートルの距離を一気に飛び越えた。自らの脚力に、翔自身も驚いた。
怪人は再び現実世界に逃げ、舞台は寒々とした突風の吹きすさぶビルの屋上へと移り変わった。月夜の空の下、もう使われていないヘリポートで鋼鉄の超人と獣の怪人がお互いの間合いを計り、対峙していた。
奴の得意の瞬間移動も見破り、怪力は翔が勝った。
もう戦わなくても結果は見えている。
『諦めろ! お前は僕には勝てない!!』
翔は無駄な争いを避け、説得を試みたが、
『グフフ』
敵はにやりと笑った。
『貴様こそ大人しク賢者の石をワタセ、
さもなくば、学園に仕掛けた強力な爆薬ヲ、作動サセル』
なんだと――!!
『あ、後出しで適当に言いやがって! 今更そんなハッタリ通用するか!』
『ココからじゃないと電波が届かなかッタだけだ。
嘘だと思うナラ試してミルか?
カナリ人の多い場所で、大爆発スルゾ』
相手の堂々とした様子に、翔は攻撃をためらってしまった。
その動揺に気をよくしたらしい加山は、
『ハッハッハッ!』
と腹を抱えて笑い、
『さあ、石をワタセ。さもなくば、大勢の学生ガ死ぬ!!』
くっそ、ハッタリの可能性もあるが、こいつは一度マジでやっている。
あり得ない話じゃない――、どうする!?
迷ったところで、翔はふっと背中に殺意を感じた。振り返ると長く分厚い両刃剣を突き出した、赤い影がこちらに迫っていた。
すんでのところで腕で払い、翔は新たな敵と対峙する。
真っ赤な鎧に白い翼をもった、まるで神話に登場するヴァルキリーといったの出で立ちの女騎士だ。
「魔王妃様の剣、ラブラ――参る!!」
剣を振りかざし、ラブラと名乗ったその女騎士は容赦なく切り掛かってきた。




