組織の暗躍
学園は夜のとばりに身を包みながらも、人々の営みはまだ続いており、無数の点々とした照明が宝石のように輝いていた。
廃ビルとして偽装されている研究所の屋上からも、その様子は一望できる。
もう使われていない、朽ちたヘリポートマークが描かれているそこに、突然一つの影が出現した。
加山だ。
翔たちの襲撃を受けた後、上層人と名乗る、異次元の人間のテクノロジーで咄嗟に逃げたのだ。
「くそ……くそくそくそぉ!!」
脳天まで沸騰した怒りに任せ、壁をがむしゃらに蹴る。
途中までは上手くいっていた。
人質を取れば森川結花は大人しくいう事を聞く。そういう話だったはずだ。
だが奴はより周到な罠を張っていた!
仲間をこっそり隠してやがったのだ!
あの女は今頃、自分の方が上手だったと嘲笑ってやがるに違いない――ッ!
「くそ、なんで邪魔するんだ、なんでッ!!」
PILLLL。
「――!」
着信だ。彼はポケットから折り畳み式の携帯電話を取り出し、耳に当てる。
「も……もしもし!」
『――お兄ちゃん』
鈴のような可愛らしい声が、スピーカーから聞こえてきた。
「ち、ちほ……!」
大切な妹の千穂だ。
『ねえ、もう会える? 会えるよね?』
泣きそうな声でせがまれる。
胸が苦しくなる。
自分にも、千穂にも、お互いは酸素のように必要不可欠な存在なのだ。
『ここ、すごく寂しいの。
早くお兄ちゃんに会いたいよ……』
「す、すまない、少し予定が狂ったんだ」
『ねえ、いつになったら会えるの?
早く会いたいよ、お兄ちゃん会いたいよっ!』
離れ離れになってずいぶんになる。
妹ももう、我慢の限界なのだろう。
気持ちは自分も同じだ。
「わかってる、わかってる! お兄ちゃんは必ず会いに行くからな!!」
『うん。おにいちゃん、頑張って!』
千穂は力一杯の声援を送ってくれた。
『邪魔をする悪い奴は、みんなやっつけちゃおうよ!!』
「あ、ああ。しかしあの女は手強いんだ。
どうやって……」
『千穂のお友達に助っ人をお願いしたよ』
「……?」
ばさり。
月夜に大きな純白の翼が翻る。
青い瞳に純銀の髪、そして真っ赤な中世の鎧を身に纏った、淡麗な女騎士が、ビル風も意に介さず、空を舞う。
彼はこの女を知っていた。
今回の作戦に協力した、〝組織〟のメンバーだ。
確かラブラとか名乗っていた。
「組織のドクターが開発したものだ」
そう言って、その女は細い針を渡してきた。
「魔王妃ローゼ様は貴様の妹を助けるために、全面協力すると仰られた。
有効に使え」
彼はゆっくり頷き、それを自らの首に打ち込んだ。




