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ゲームに三国志の武将が封印されていたから解放するために戦ってみる (旧題:三国志~武幽電~)  作者: 伏(龍)
第3章

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60 化物

 夏侯惇と夏侯淵はゲームの序盤に出会った。

 お互いのプレイヤーは三国志に詳しいプレイヤーであったため、名高い夏侯惇、夏侯淵コンビの同盟にかなり乗り気ですぐに調印してくれたのはふたりにとって幸いだった。


 それ以降、夏侯惇たちの曹操を捜し同盟をしたいという要望を聞き入れたプレイヤーたちと曹操を捜してフィールドを探索していたのである。

 そして幾度目かの戦いのおり、敵武将から曹操を見たという情報を得たのがつい先ほどのことだった。さらに曹操を見たという時間もさほど前のことではなかったのだ。


 ふたりは生涯の主が未だ無事でいてくれたことに安堵し、同盟を持ちかけるべく合流を目指して道を急いだ。


 そこへ現れたのがこいつだった。


 身の丈180を越える夏侯惇よりも、さらに50は大きいその異常な体躯。

 肥大化した筋肉とそれに見合わぬ俊敏な動き、闇の様な黒い甲冑に身を包み、赤一色かと見紛うほどに血走った目と、どす黒く変色している肌……明らかにまともな人間ではない。

 にもかかわらず知性の欠片もなさそうなその風貌からは想像もできないような凄まじい武術を使う。

 無造作に見える一撃も、なぎ払っただけに見える防御も、夏侯惇たちから見れば恐ろしく洗練された武によるものだとわかるのだ。一刻も早く曹操と合流したいふたりにとってはまさに化け物だった。

 

 クワッファァァァァ


 化け物は蒸気の白煙のような呼吸をしながら、無造作に前へと歩き続けてくる。


「惇兄、俺らが散って逃げればどっちかを追ってくるってことはねぇのか?」


 夏侯淵が相手のあらゆる箇所を狙って弓を放ちながら問う。


「こやつの目的がわからぬ。向かう場所があるのか、探す者がおるのか、はたまた生あるものを全て滅したいのか……目的がわからぬ以上は、ここを通す訳にはいかんな」


 至近からの夏侯淵の弓を軽く捌きながらじりじりと前進してくる相手を睨み、隙を探しながら夏侯惇が答える。


「なら、惇兄……ちまちまやってても埒があかねぇ! 俺たちふたりの最大の攻撃をぶちかますしかねぇぜ」


 夏侯淵の言葉に夏侯惇は静かに頷く。確かに今のままではふたりがかりで攻め続けたとしても足止めが精一杯で目の前の敵を倒せる可能性は低い。

 単純な武ではどうにもならない域、つまり人としての範疇を明らかにあの漆黒の化物は超えているのだ。


 ならばそれを倒そうとするならば、自分たちも人外の技をもって戦うしかない。それでも相手を止められないのであれば……


 そこまで考えて夏侯惇は頭をよぎった嫌な考えを振り払うように首を振る。


「よし、お前の言うとおりだ妙才。人外の技に頼るのは気に食わぬが、相手も人外となればやむを得まい」


 武人たるもの常に勝つために戦わねばならぬ。夏侯惇が若い武将たちに常に言い聞かせていたことだ。


 勝てぬと思ってやる戦など、勝てる訳は無い。

 勝ちの定義をしかと見定め常に勝つ。

 敵を打ち破るだけが勝ちではない。

 退却戦なら損害を少なく退くことが勝ちである。

 足止めならば十分に時間を稼げば勝ち。

 そのとき取りうる最善の結果を勝ちと見定め、勝ち続けることが兵を強くし将を育てる。


 それが夏侯惇流の戦術理論だった。


「よいか、妙才。いま我らがやらねばならぬのはあの化物の足止め、そして孟徳との合流だ。倒す必要はない。すぐに追えぬだけの傷さえ与えればよい。その間に我らは離脱し、孟徳と合流。孟徳とともに次の策を練る」

「おお!」


 夏侯惇の言葉に力強く頷いた夏侯淵は背負っていた矢筒を下ろす。矢筒自体は細長く容量は小さく見える。それなのに中には数十本の矢が入っているように見え、凝視するとその違和感に頭がくらくらしそうになるほどである。もちろんこの矢筒も普通の矢筒ではなく倒した武将が変化したもの、矢が無限に湧き出てくる矢筒である。


 夏侯淵はその矢筒に右手を伸ばす。その手は淡く光を帯びており、すでになんらかの技が発動しているのがわかる。

 そして、夏侯淵は矢筒の中にある数十本の矢を右手で全て掴めるだけ掴む。するとその手の中にあった無数の矢が夏侯淵の手に合わせてみるみる凝縮していき、最後には一本の光る矢に変わった。

 夏侯淵はその矢をゆっくりとつがえる。同時に手と矢の光が弓全体へと拡がり発光していく。

 夏侯淵の準備が整うのを確認した夏侯惇は小さくうなずくと短く呟く。


蒼炎(そうえん)


 夏侯惇の言葉に反応して、夏侯惇の全身から蒼い炎が立ち昇る。しかしこれは夏侯惇の必殺技なので蒼い炎に包まれつつも夏侯惇は平然としている。夏侯惇だけに無害な灼熱の蒼い炎、それが【蒼炎】だった。


 各武将にふたつずつ設定されていると思われがちな必殺技だが、例外もある。その理由は多岐にわたるのだが、最も多いのはゲームバランスを考える上で必殺技の効果・威力と武将の力量を合わせたときにその武将が強くなり過ぎる場合である。

 そして、夏侯惇 元譲に与えられた必殺技はこれひとつのみであった。


「ゆくぞ、妙才」


 夏侯惇の声に合わせて蒼炎が長戟へと集約して行く。


「おう!いくぜ『滅多撃ち』」


 叫んだ夏侯淵の弓から光る矢が放たれる。

 放たれた矢は尾を引きながら狙い違わず真っ直ぐに敵の胸元へと向かう。その矢に対応しようとした敵が、巨大な方天戟を構えようとした瞬間。


「おりゃぁ! 『爆裂』」


 夏侯淵の吼え声と同時に宣言された必殺技が発動、凝縮されていた数十本の矢が今度は分裂しながら拡散。目の前で突然数十に分裂した高速の矢をかわす方法など普通なら無理だ。 

 矢一本の威力は小さくはなるが、目前で広範囲に広がる夏侯淵の『滅多撃ち』はあらかじめ知っていれば射撃と同時に大きく身をかわすことで回避も不可能ではない。しかし、なにも知らずに受けようとすれば、完全回避はほぼ不可能という強力な必殺技だ。

 目の前で発動されてしまえば、受ける側は急所だけを防御しダメージを最小に抑えることしかない。この技を使う夏侯淵が自ら考えた対処法では、それが一番被害が小さくなる対処法だった。

 それなのに漆黒の化物は直前で弾けた無数の矢を方天戟で撃ち落とすべく目の前で回転させる。


「け! 間に合うもんかよ!」


 次の行動に移りながら夏侯淵が叫ぶ。夏侯淵は矢が分裂し始めてから回避動作にうつったのでは遅い。仮に幾本かは叩き落とせたとしても、ほぼ同時に着弾する数十本の矢を方天戟のみでカバーしきれるはずがないと確信している。

 

 ブゥォン!


 放った矢が敵に刺さる姿を脳裏に描いた夏侯淵の耳に鈍い風きり音が聞こえる。


「なんだと!」


 夏侯淵が目を見開く。なぜなら風切り音とともに敵の持っていた方天戟が消えたからだ。 風切り音と消えた方天戟、ふたつを合わせれば答えはひとつしかない。


 夏侯淵が放った数十の矢がすべて弾き飛ばされていく。


「な……馬鹿な! あの巨大な方天戟を一瞬で、矢の通る隙間も無いほどに高速回転させたというのか!」

 

 あのタイミングでは方天戟を回すために武器を持ち替えたり、反動をつけたりしては間に合わない。もし回すとするならば指の力だけで回すしかない。しかも生半可な回転力ではすべての矢を退けることはできない。

 だが、あの化物は片手の指だけであの二メートルをゆうに超え、柄の直径も数センチはあろうかという方天戟をおそらくは一瞬で数十回転も回転させたのだ。


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