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ゲームに三国志の武将が封印されていたから解放するために戦ってみる (旧題:三国志~武幽電~)  作者: 伏(龍)
第3章

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58 覚悟

「玄殿それは!」


 関羽が呻き、孫仁が非難の声を上げた。しかし、玄はそのすべてを受け止めてさらに続ける。


「孫仁も聞いておいて。これから蜀に向かえば玄徳公に会える可能性は増します。でも、普通に再会を喜べるような形になるとは限りません。玄徳公を操作するプレイヤー次第では玄徳公の意思を無理して、強制的に関羽や孫仁に斬りかかってくることも考えられます。そうなったときにどうするのか……抵抗せずに斬られるのか、やむを得ず応戦して倒すのか、それとも別の方法をとるのか……それを考えておいて欲しいんです」


 玄は厳しい目を関羽たちへと向ける。関羽と孫仁も玄の言葉をしっかりと聞いている。いざ、その可能性を突き付けられてみると思うことがあるのかも知れない。


「あと、これだけは言わせてください。俺は関羽や孫仁のためにできるだけのことはするつもりです。だから玄徳公が悪いやつに操られてふたりを害そうとするようなら……関羽を強制的に操作してでも玄徳公を倒します」

「玄……」


 玄の決意に満ちた目を見て茜は思う。一番冷静そうに見えていた玄、その玄こそが昨日の事件に一番傷ついていたのだと。

 玄は優しい。一歩間違えば逆に欠点になるのではないかと思うくらいに優しい。昨日の可哀想な姉妹の件は、ふたりを斬るしかなかった関羽や孫仁のことも含めて深く傷ついていたのだ。

 だからこそ玄は最悪の場面を想定し、いざそのときがきたならば自分でその罪を被ろうとしている。


 劉備玄徳と戦うことになれば、関羽や孫仁は劉備を殺すことはできない。玄がそう考えていることに茜はなんとなく気がついていた。

 

 でも、茜たちはこのゲームをなんとかしたい。劉備玄徳に会うまでがゴールだと考えていない。ならば、劉備に会ったとしても負けるわけにはいかない。関羽たちにできないのならば自分がやるしかない。仮に恨まれ、憎まれたとしても……自らの意思で劉備を斬らせるよりはいい。玄はそう考えたのだろう。


「……ったく、そこまで関羽さんたちの気持ちがわかるなら、少しは女心も理解しなさいよ」


 苦笑しつつ小声で呟いた茜が、膠着状態の場の空気を切り裂くように手を上げる。


「レン、私も玄と同じよ。もしも、あなたが操られた劉備さんに黙って斬られるようなら強制操作してでも劉備さんを倒します」

「茜!」


 驚愕して茜を見た玄の目に飛び込んできたのは、自分を真っ直ぐに見返してくる強い目だった。それを見た瞬間、玄は理解した。自分が考えていることを茜はすべて承知の上だということを。


「……ありがとう、茜」


 ただ感謝の気持ちを伝えるしかできない玄に茜は優しく微笑みを返す。


「く、くっくっ……これは参りましたな、奥方様」


 噛み殺すような低い笑い声と共に関羽が呟く。


「……はい。ですが、嬉しゅうございます」


 孫仁も口元を隠しながら微笑んでいる。


「「?」」


 玄と茜にしてみれば、それなりに重大な決意を込めた申し出だ。ふたりを強制操作して劉備を倒してしまえば、以後二度と協力関係など築くことはできないと覚悟していたのだから。

 それがふたりから笑われるというのは些か拍子抜けだった。


「すまんな、主らのような子供(わっぱ)にいらぬ決意をさせた」


 関羽が顎鬚をしごきながら笑う。


「え?」

「わたくしたちもこの世界の決まりに詳しくなってきているのです」

「我らの間では既に、その可能性は検討されていた」


 関羽と孫仁が玄と茜に暖かい眼差しを向けて告げる。


「わたくしたちは、確かに玄徳様に再会するのが望みです。ですが、この世界の決まりに照らせばわたくしたちが思い描く最良の形の再会などは無いと考えたほうがいい」


 孫仁が悲しげに目を伏せる。


「もともと、このようなことに巻き込まれでもしなければ、お互いに死した身で再会などあり得ることではなかったのだ」

「そのとおりです、あの方と会えるかもしれない。その一点だけは感謝しています、ですが」

「うむ、このようなことはあってはならぬ。その気持ちは我らもお主たちと同じ気持ちなのだ、玄」


 関羽と孫仁の声には決意がにじんでいる。


「私たちは、自分たちの自己満足のためにあの方に会おうとしているだけなのです。あの方に会い、一言……たった一言だけでいい。伝えることができたのなら、それでいいのです」

「レン……」


 茜には同じ女として、孫仁の気持ちがよく理解できる。自分のしたことは劉備に対する裏切りだと己を責め、それでも抑えきれない気持ち。そんな自分勝手な気持ちを罵られても鼻で笑われても構わない。それでも自分の思いを伝えたいのだ。


「玄よ、この関雲長にとっては……兄者が何者かに意に沿わぬことをさせられていることこそが、なによりも許しがたい。もし、我が兄者への対応を誤るようなら遠慮なく我を使え」

「茜、あなたもですよ」

「関羽……わかった。ありがとう、そしてごめん」


 玄は小さく頭を下げる。


「わかったわレン。あなたの信頼に私もちゃんと応えるから」


 茜も孫仁に向かって微笑む。


「今日ここでこうして話すことができてよかった。これで俺は西へ向かうことになんのも不安もなくなった。すぐに出発しよう」


 関羽たちと話合い、思いがけず全員の覚悟を知ることができたことを玄は素直に喜ばしいと思った。その覚悟はどれも悲しい結果を想起させるようなものではあるが、その覚悟はきっとこの先を戦っていく自分たちにとって絶対に必要なものだと思うから。


「もちろん、異論はないわよ」


 茜が。


「わたくしもです」


 孫仁が。


「うむ」


 関羽が仲間でよかった。心からそう思った。


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