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ゲームに三国志の武将が封印されていたから解放するために戦ってみる (旧題:三国志~武幽電~)  作者: 伏(龍)
第3章

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56 非道

 絶句した孫仁が拒絶の言葉を返そうとするが、大喬の目は決意に満ちていた。決して洒落や冗談で言っているわけではない。


「な、なにを…………そんなことできるわけがないでしょう、義姉上」


 大喬の意思に気圧されつつも、なんとか拒絶の言葉を口にする孫仁。関羽はそんなふたりのやりとりを油断なく見守っている。仮に大喬が隙をついて孫仁を害そうとしても、その前に斬り捨てられるだろう。


 ピキンッ


 次の瞬間、甲高い音がして玄と茜の視界にエフェクトが入り目の前に文字が表示された。


『二喬の誘惑』


「え、攻撃?」


 急な展開に茜が慌ててVSを手に取る。しかし、玄は小喬の様子と特殊技能発動後の動きを見て目を疑っていた。


「違う、攻撃じゃない! ……まさか、システムで強制されるのをいいことにそんな設定をしたのか? なにを考えているんだ製作者は!」


 玄の声がわなわなと震え、そのこぶしは固く握りしめられ白くなっている。


「げ、玄?」


茜は様子のおかしい玄を心配して視線を向けた瞬間、思わず硬直した。温和な玄が、これまで一度も見せたことがないような、怒りに満ちた顔をしていたのである。もし、そんな怒りに満ちた顔が自分に向けられたとしたら、おそらく茜は恐怖を覚え腰を抜かしていたかも知れない。


「く……レン。は、はやく私たちを!」


 怒りの表情を浮かべる玄と、それに狼狽する茜の目の前で事態はどんどんと進んでいく。


 特殊技能が発動されてから大喬はなにかを必死で押さえ込むように、小喬を抱き締めていた。


「い、いや! もう……やめて、こ、これ以上は……助けて、公瑾様……いやぁ!」


 口では拒絶の言葉を吐き、涙を流しながらも大喬の手を振り払い、ゆっくりと衣をはだけていく小喬。


「な、なにをしているのです。小喬! ……ま、まさか! 義姉上、これはいったい!」

「わ、わたしたちを……斬り……」

「ぐむ……なるほど、戦う力のないおなごがここにいるのはこの技ゆえか……」


 呟いた関羽がよろめきながら偃月刀を地に突き刺し、なにかを耐えるように呻く。


「関将軍?」


 関羽の言葉に孫仁がどういうことなのかと視線で関羽に問いかける。その視線を受けた関羽は一度目を閉じ頭を振ると大きく息を吐いた。そして再び目を開けたときにはいつもの表情を取り戻している。


「おそらくは強制的な誘惑をおこなう技だと思います。奥方になにも変化がないところをみると男限定なのでしょう」

「!」


 関羽の事実のみを述べた言葉に目を見開いた孫仁が再び姉妹を見る。大喬は必死に抗っているのだろうが、体は勝手に動き白い肩を露出し、細い足を裾の間から露出している。

 小喬に至っては涙を流しながら衣を脱ぎ続け、すでに小ぶりな乳房があらわになってしまっている。


「なんということを!」


 孫仁の声が怒りに染まる。


「レン……女のあなたなら……色香に惑わされずに私たちを斬れるはず……です」


 必死に抵抗しながら言葉を紡ぐ大喬。


「ですが! 義姉上」

「三人です! 私たちはこの技で三人を殺しました! しかもその方法は、操者が気の済むまで私たちの体を敵に嬲らせたあと、行為に夢中になっている相手に一撃を加えるのです!」


 大喬の目からも涙が溢れてくる。


「な、なんということ…………を」

「これ以上伯符様や、公瑾様以外の方とは……レン、私たちを助けてください」


 どくん!


「はっ、周将軍」


 孫仁は自らの身に纏った衣が熱く脈打つのを感じた。


 どくん!


「……孫策」


 関羽は握った偃月刀が赤く灼熱し、自らの手を灼くのを感じる。そしてその熱が、僅かに残っていた技の誘惑効果を洗い流していくのがわかる。


「奥方」

「はい……わかっております。周将軍や兄上もそれを望んでいます」


 孫仁は目じりから流れる涙を拭きもせずに無造作に小喬に近づいていく。


「あは、レン姫様だぁ……あそぼ~」


 既に小喬の精神は限界に近づいているのだろう。周瑜を愛するがゆえに狂わずにはいられなかったのだ。そして、虚ろな目で孫仁を見つめ返しながら最後の衣を脱ぎ捨てて全裸に…………と、同時に孫仁は小喬を優しく抱きしめた。

 

 ふわり

 

 孫仁の衣が優しく包み込むように小喬を覆い隠す。


 関羽も偃月刀を握ったまま大喬へと近づいていく。大喬の目は関羽を警戒して睨み返してくるが、関羽が小さく頷いて自分が正気である旨を伝えるとその目は安堵に変わる。

 いっそ自分も狂えてしまえばどんなにか楽だっただろう。しかし、妹を少しでも守るためには自らは、どんなに辛くても自我を放棄する訳にはいかなかったのだ。

 それは勝ち目などない、ただ耐えるだけの孤独な戦いだった。


「……大喬といったか、その戦いぶり見事であった」


 関羽は賞賛の言葉とともに、偃月刀の柄を大喬の首筋にそっとあてる。


「ああ! 公瑾様」

「これは……伯符様」


 ふたりが、孫仁の衣と関羽の偃月刀に愛しい人たちの魂を感じ取り安堵の声を上げた。だが、そんな本人たちの意思とは無関係にふたりの手はいつの間にか手にしていた短剣を孫仁と関羽の急所へと突き刺そうとしている。


「今、助けてあげます」

「愛する者のもとへゆけ」

 

 煌めく二筋の剣閃、孫仁と関羽はほぼ同時にふたりに背を向けた。


「あぁ、ありがとう……レン。今度こそ私も伯符様とともに」

「レン様……公瑾様、怒ってなかったよ……よかったぁ」


 微笑むふたりの姿が白い粒子に変わっていく。そして大喬の粒子は関羽の偃月刀へ、小喬の粒子は孫仁の衣へと向かっていくと吸い込まれるように消えていった。


 淡い光を放ったあとの関羽の偃月刀は、虎の象嵌が鮮やかな青へと変わり刀身も青みを帯びて輝きを増していた。

 孫仁の衣も袖や裾に愛らしい桃の花の刺繍と、曲線を使ったラインが浮き上がり、心なしか艶を増していた。


「悪来」

「おう」


 関羽は偃月刀を持つ手に僅かに力を込めると、静かに悪来を呼び寄せてなにもいわずに騎乗の人になる。そしてすぐに孫仁も、涙乾かぬ頬をそのままに軽やかに騎乗した。


 進むべき方向を見据える関羽たちは、それぞれが抑え切れぬ怒りを胸に抱え前を見据えた。

すぐに悪来が走り出す……。とにかく今は進むしかなかった。それがきっと彼女らのような悲しい犠牲を出さないことに繋がると信じて。


「……義姉上、小喬。もう二度とあなたたちを引き裂かせはしません」


 呟いた孫仁の言葉は風を裂いて走る悪来の足音に掻き消され、誰の耳にも届くことはなかった。


 ……それが、昨日のでき事だった。


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