53 上手
「ただ……」
「ただ? 何か気になることでもあったの?」
玄がネットの海を彷徨って調べていたことを玄の自転車の後ろに乗りながら聞いていた茜は、言いよどんだ玄に声をかける。
このふたり、武幽電を始めて同盟を組んで以来、放課後は自転車に茜を乗せて帰ることが習慣になりつつある。だが、ふたりはそれが世間一般からみれば、明らかに特別な関係だと認識されるということに全く気がついていない。
本人たちの知らないところでふたりが交際をしているという噂は確実に広まっていた。
「……まぁ、な。よくある霊障の相談ページにあった眉唾な書き込みなんだけどさ」
「あぁ……霊を見たとか、金縛りにあったとか、右肩が重いとかそんな感じの?」
「そう、そういったページを眺めててさ……ここ一週間くらいの霊障の相談が増えてるような気がしたんだ……勿論、中身は武幽電とは関係なさそうなものばかりで、物が勝手に動いたとか、いきなり壊れたとか、窓も開いていないのに急に風が吹いたとか? あとは友たちが困っています。とかって書き込みも増えてたかな」
「う~ん、それだとあんまり関係ないんじゃない? ポルターガイスト系の話はよくあるものだし、自分の話を知人の話にして相談するのなんて基本だと思うわ。相談が増えてる気がするのだって……先週特番でやってた心霊番組の影響なんじゃない?」
自転車の後ろで玄の話を聞いていた茜が自分なりの見解を述べる。
「ん? 先週特番なんてやってたのか」
「うん、『自称』占い師とか『自称』霊能者を集めてやってたわよ」
「あぁ、なんとなくどんな番組だか予想がつくな……でもそうすると、やっぱり関係ないか。そもそも武幽電は限定百本だもんな。こんな近くに二本もあることすら奇跡のような確率だよな。そう考えれば、ネットとかに情報が流出しないのもおかしなことじゃないのかもな」
なんとなくすっきりしないものを感じつつも、すぐに答えがでるようなものでもない。玄はそう考えて納得することにしたようだ。
「それより玄。そろそろ関羽さんの傷も癒えるでしょ。今日あたり行く?」
「そうだな、なるべく早くマップは埋めたい。そのためには、できれば孫仁にも早い段階で馬を手に入れてもらいたいし」
「うん、了解。今夜にでも出る? それともこれからうちに来て行く?」
茜の問いかけに玄はしばし考え込んでから口を開く。
「あんまり頻繁にお邪魔するのはよくないか……帰ったら通信を入れるから、そこから一緒に出よう」
「私なら全然構わないわよ。母さんだって喜びこそすれ、迷惑なんて思わないだろうし」
少し残念そうな顔をする茜に、玄は小さく苦笑を漏らす。しかし、それは茜の表情に対するものではなく、確かにあの豪快で愉快な茜の母ならば歓迎してくれるだろうと思ったらしい。
「わかってるよ。でも、だからこそあんまり甘えるのはよくない。明日、あさっては学校も休みだし、お邪魔するなら休日の長くいられる日に行くよ」
「あ、なるほど……確かにそうね! わかった、じゃあ家で待ってる」
長くいられる=長く一緒にいたい
という図式を勝手に妄想した茜がひとり顔を赤くするが、前を見て運転している玄は気が付かない。
「よし、到着。じゃあ、俺はこのまま真っ直ぐ帰るから、あとでな」
「了~解」
家の前で軽やかに自転車から飛び降りた茜は、速度を上げて角を曲がっていく玄を手を振りながら見送ってから玄関を開ける。
「なんか……最近いいかも?」
「…………」
うきうきとした気分を隠そうともせずに、にやけた顔で靴を脱いで顔を上げる茜。
「げ……」
そこにはエプロンをした母がジト目で娘を見下ろしていた。
「茜ちゃん、頭、大丈夫?」
母から見るとにやけた茜の顔はちょっと気持ち悪かったのかも知れない。心底心配そうな顔で問いかける母。
「い、いつから、そこにいたの母さん!」
「最初からよ」
その言葉に茜の顔がさっと朱に染まる。もしかするとさっきの呟きすら聞かれていた可能性があることに思い至ったのだ。茜は顔を赤くしながらも、努めて平静を装いなるべく急いで部屋に逃げ込もうとする。
「……玄くんと最近いいのね? 茜ちゃん」
(くっ、やはり聞かれていたか……)
内心で盛大な舌打ちをしながらも、無視して階段を上がろうとする茜。しかし、ふくよかボディの母は弱みを見せた娘を追撃する。
「ほほほ、やりすぎは身体に毒よ。茜ちゃん」
「な、なんの話をしてるの! 母さん!」
「あらナニの話かしら? ほほほ」
エプロンで口元を隠しながら上品に微笑む母。
「こっの下ネタ主婦め……とにかく! 玄とはそんな関係はまだありません!」
わなわなと拳を震わせながら叫ぶが、ふくよかボディにすべて吸収され母には届かない。
「ほほほ……まだね。母さんはゲームの話をしていたのだけど、いったいなんだと思ったのかしらね、茜ちゃん。ぜひお母さんに教えて欲しいわ」
「(や、やられた!)か、母さん!」
さらに顔を赤くした娘の叫びを全く意に介さず、心底楽しそうに微笑みながら台所へと戻っていく母だった。




