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ゲームに三国志の武将が封印されていたから解放するために戦ってみる (旧題:三国志~武幽電~)  作者: 伏(龍)
第2章

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47 布石

 周瑜が完全に振り向く前に孫仁の声が響く。その声と同時に孫仁の突き立てた剣に青い光が蓄積されていく。そして剣を握り締めた孫仁がその剣を天へと向けて斬り上げると 剣に蓄積された青光は氷となって地面を走り周瑜へと襲い掛かっていく。

 同時にそのあとを追うように孫仁が駆け出していく。


「く、甘いぞ!孫仁! そんな技をわざわざ受けてやるほどお人よしではない」


 周瑜がとうとう姫の呼称までをも棄てて叫び、地を走る氷から身をかわそうとする。


「レン! 今よ!」


 茜の声が響く。


『控えなさい! 周瑜!』


 一歩を踏み出そうとした周瑜に孫仁の凛とした声が響く。そして、中空にプレイヤーにしか見えないエフェクトが出る。


【孫呉の威光】


「はっ!」


 そう叫んだ周瑜の動きが一瞬、ほんの一瞬だけ止まる。それが、孫仁の特殊技能『孫呉の威光』の力だった。

 敵対武将が呉の国に属したことのある武将だった場合、連続した戦闘中に一度だけ相手の動きを一瞬だけ強制することができる能力。相手が限定的なうえに、その効果は本当に一瞬。しかし、1対1の戦いにおいて一瞬でも動きが止まることは致命的である。

 そしてこの一瞬こそ孫仁と茜が欲しかったもの。


「く! 何故!」


 自分の不可解な動きに戸惑いの声を上げた瞬間、周瑜の足元に氷が到達した。


 ビキキキキキキ!!


「うおぉぉ」


 周瑜に命中した氷は足元から一気に駆け上がり周瑜の腰までを氷で覆う。完全に機動力を奪われた周瑜に孫仁が急迫する。

 孫仁の技、『氷縛乱武』は氷で足止めした敵に対して連続攻撃を加えるところまでが一連の流れであり、この攻撃は孫仁の意思ではとめることはできない。また、技の補正能力なのか、常の孫仁ではできないほどの速度の連続攻撃になる。

 

 1撃! 2撃! 3撃!


「く、く!」


 周瑜がまだ自由に動かせる剣でかろうじて捌く。


 4撃! 5撃! キィン!


「う!」


 しかし足捌きが使えない状態では、いくら腕力が弱い孫仁の攻撃でも凌ぎきれるはずはなく剣が弾かれた。


 6撃! 7撃! 8撃! 9撃!


 そして、残りの攻撃が全て周瑜の身体を切り刻んでいく……

 

 なすすべもなく9撃までをその身に受けた周瑜はすでに抵抗する気配はない。孫仁は一拍を置いたあと、最後の一撃を周瑜の身体の中心に突き立てた。


 10撃!!


 パキィィン!


 周瑜を拘束していた氷が一斉に粉々になって弾け飛ぶ。その弾け飛んだ氷片がキラキラと宙を舞い、周瑜と孫仁を覆い隠す。茜の視界からはその氷片が光を乱反射して二人を確認することはできない。


「レン……」


 茜のの心配そうな声が聞こえる。しかし、勝負はついたはずだ。


「ぐぅ……な、ぜ」


 孫仁は周瑜の身体を貫いたまま、頭を周瑜の胸に預けるようにして答える。


「この世界では動き回ることによる疲労はないのです……周将軍」


 周瑜の目が見開かれる。


「……な、なるほど。おもいあた、る」


 なぜ関羽があれほどの傷を負いながらも、孫策の猛攻を耐えていられたのか。なぜ孫仁が女人としての体力であれほどの攻撃を長時間続けられたのか。同じようになぜ、孫策があれほど執拗な攻撃をし続けていながら息切れしなかったのか。

 気付ける要素はたくさんあった。しかし、必殺技を使ったときの疲労が周瑜自身にあった。傷ついた関羽も疲労していたし、孫策の猛攻を受けて動きも徐々に鈍っていた。

 そこまで考えた周瑜の目が見開かれ、視線が僅かに関羽へと向く。


「関羽……」

「そうです。関将軍が私のために布石を打ってくださいました。あえて策兄上の攻撃を受け続け、疲労があるかのように演じることで女の身の私の体力が長くは続かないとあなたに思い込ませるために」

「くくく……私を逆上させようとしたあの論戦も、私の思考をそちらへ向けないた……めでしたか」


 周瑜の身体がゆっくりと反り返っていく。


「周将軍、あなたの勇姿は呉にいたときの私にとって憧れでした」


 倒れゆく周瑜に視線を向けず孫仁は目を閉じた。


「姫、強くなられ……ましたね」


 地に倒れた周瑜が一人呟いたそのとき。 


「ぬおぁぁぁぁ!」

「伯符!」


 壮絶な叫びを聞いた周瑜の目に力が戻る。死に向かいつつある体を必死の思いで動かした視線の先には窮地に追い込まれようとする孫策の姿が映る。


「お前を死なせる訳にはいかない!」


 周瑜は無意識に腹部を抑えていた右手を握った。


◇ ◇ ◇


 ここでしばし、時はさかのぼる。


「……ま、まだです! きゃ!」


「孫仁! ……そうか! 関羽!」


 孫仁が弾き飛ばされた姿に玄は一瞬動揺するが、それが茜たちの作戦の一部だと気づき関羽へと声をかける。

 しかし、玄が声をかける前に既に関羽は動き出していた。


「ふ、ふざっけんな! なんでぼろぼろのお前が『虎身』を使ってる俺より速いんだよ!」

「ふん、まだわかっていなかったのか?」

「あぁ?」


 先ほどまでとは完全に攻守が逆転し、孫策は守勢に回っている。


「単なる力の差だ」

「なんだとぉ!」


 小馬鹿にしたように告げる関羽に孫策が激昂する。しかし、実際には関羽と孫策のデータ的な武力には大きな差はないだろう。むしろ、身体的な能力だけで言えば『虎身』を使っている孫策の方が優れているはずだ。だがそんな孫策にも孫仁と同じ欠点があった。


 圧倒的な戦闘経験の不足。


 関羽は30年以上も常に最前線で戦ってきた。しかし孫策は僅か26歳で他界。仮に15歳から戦場に出ていたとしても戦闘経験は関羽の3分の1にも満たない。

関羽が戦いの半生で研磨してきた武、圧倒的な戦闘経験に基づく無意識の予測。そういったものが、単純な身体的能力の差を覆してしまった。さらに戦いが長引けば長引くほど、戦いかたの引き出しが多い方が徐々に有利になっていくのは仕方がない。

 つまり関羽が孫策に挑発のように投げかけた言葉は正しい。過去の経験を持ち越し、全盛の肉体で戦えるこの世界だからこその力の差だった。

そして疲労の演技というストッパーを外した関羽は、残りの力を振り絞って孫策を一気に押し返していく。


「くっ……そったれ!」


 急に動きのよくなった関羽に圧倒的有利だった立場を覆された孫策の動きがだんだんと雑になってくる。この辺も経験の差なのだろう。関羽はどれだけ劣勢になってもうろたえたりすることも、無駄に焦ることも、やけになることもなかった。常にそのときの自分にできる最善のみを尽くして戦っていた。

 勿論、そのうえで負けてしまうという可能性はあっただろうが、そのときは自分の力が足りなかっただけ。そう思い定められるだけの人生経験が関羽にはあった。


 そして、動きの荒くなった孫策を逃がす関羽ではない。さらに一歩を踏み込み、力強い一撃で孫策の剣を弾いて体勢を崩すと腰に差していた槍の残骸のひとつ、その槍先を鎧がカバーしていない右脇の下へ突き立てる。


 ガキン!


 だが当然、孫策の鎧は胸当ての位置から変形してその一撃を防ぐ。しかし、その動きは想定済みであり、関羽は流れるような動きで即座に左脚で強烈な膝蹴りを繰り出す。その攻撃を態勢を崩している孫策も、より危険な攻撃を防いでいる鎧も防ぐことはできない。


「うごぁ!」

 

 関羽の膝は孫策の鳩尾に綺麗に入り、苦痛の呻き声を上げる孫策を後方へ吹っ飛ばした。


「が、がはっ!」


 横隔膜を突き上げられ、呼吸を乱された孫策がうずくまる。そして、孫策の足を止めた関羽が静かに剣を構える。

 一度正眼に構えた剣を大上段に振りかぶり、そのまま右肩に乗せる。すると関羽の体から青白いオーラが立ちのぼり、関羽の口が静かに言葉を紡ぐ。


「……青竜斬」


 前回の典韋戦で使ったときは玄の操作によるものだったせいか演出過剰なほど豪快な技の名乗りだったが、今回は関羽の意志なので静かに深みのある技の名乗りだ。勿論効果に変わりはない。


 立ちのぼったオーラは両手を伝って武器に流れ込み、流れ込んだオーラは竜を形作る。 そして関羽は大きく一歩を踏み出して孫策へと剣を振り下ろす!


 今回は罠を潰す必要もない、技の全てが孫策へと向かっていく。


「ぬおぁぁぁぁ!」


 そして孫策の叫び、孫仁対周瑜の決着がついた直後だ。


 目の前で必殺技を放たれるのを見るしかなかった孫策だが、ようやく腹部の衝撃から立ち直ったときには既に青龍は眼前に達しようとしていた。


「くそがぁ! 『熊身(ユウシン)』」


 かわせないと察した孫策も必殺技を叫ぶと両手で首から上を覆って急所を守る。しかし、青龍の攻撃は水属性による衝撃とその余波に付与された斬属性によってダメージを与える。

 まともに受けたら耐え切れるようなものではない。しかも、関羽は技の発動と同時に駆け出している。仮に受けきられた場合すら考えての行動だ。


「……急げ、関羽」


 一連の戦闘を見ながら玄は関羽に聞こえないように呟く。玄の視界にある関羽のライフゲージは既にレッドゾーンを突破し、微かな部分だけが白く点滅している。この状態になれば、その白い部分はもうなにもしなくても減っていき、いずれ気絶モードに至る。

 もちろん一撃でも攻撃をうければ敗北だ。


 そして、体力が限界だということは関羽の疲労度も最大になっている。本来なら立っているのも辛いはずの疲労感を感じているはずだった。危険を回避するためには青龍斬で決まって欲しい、それが玄の願いだ。


 そんな玄の祈りを乗せて関羽の青龍が孫策にその(あぎと)で襲い掛かる。


「ぐぁぁぁぁぁぁ!」


 孫策の絶叫。孫策に命中した青龍はその衝撃の全てを孫策へと注ぎ込み、その余波は水刃となってさらに孫策を切り刻んでいった。そして、そんな渦中へと関羽は臆せずに飛び込んでいき、短くなった槍を左手で握り孫策の頭部へと突き出す。


「ぐおぅりゃぁ!!」


 青龍の攻撃を凌ぎきった孫策が自らの剣で槍を払う。

 

 キィン!


 しかし、孫策は青龍のダメージから、関羽は疲労と短い槍という武器の性質上から同時に武器が宙を舞う。


 ここで二手。

 

 そして関羽には右手に持った剣がある。


「これが三手目だ」

 

 関羽が呟き、その剣を振り下ろそうとする。関羽の技に鎧の防御能力を使い、武器をも弾かれた孫策にはもうかわす(すべ)はない。


「ち、ここまでかよ……」


 孫策の小さな呟きごと断ち切るように最後の一閃が振り下ろされる。


だが、とどめの一撃を放とうとした関羽がその剣の軌道を突如として変え、何もない空間を切り払う。


「むぅ!」

「関羽!どうして!」


 玄が叫ぶ。ここで孫策を倒せなければ自分が負けるとわかっているはずなのに関羽が攻撃を外す訳はない。

 

「む、その気概見事なり……周瑜」


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