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ゲームに三国志の武将が封印されていたから解放するために戦ってみる (旧題:三国志~武幽電~)  作者: 伏(龍)
第2章

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45 舌戦

「関将軍お待たせいたしました」

「このような運びになり申し訳ございませぬ、奥方」

「よいのです、私も戦うと決めたのですから。むしろ関将軍のお力になれて幸いです。ただ……悪来殿にはかなりのご負担をおかけしてしまいましたが」


 そう言った孫仁の視線の先には孫仁を届けると同時に気を失い、地面で荒い息をつきながら横たわる悪来がいる。


「わかり申した、お力をお借り致します。玄! 説明せよ」


 軽く頭を下げた関羽が玄へと声をかけてくる。


「わかった。孫仁、正直状況は厳しいけど、なんとか勝って明日へつなごう。そのために、孫仁には周瑜と一騎打ちをして倒してもらわなくちゃなりません。孫策は関羽がなにがなんでも倒します。ただ、いまの関羽ではその時点でまともに動くことはできなくなると思います。だから周瑜との戦いには関羽の助けは一切ないと思ってください」


 玄の声に孫仁は小さく笑う。


「ふふ、このわたくしがあの周将軍をひとりで打ち破るのですね……それは爽快ですこと」

「でも、周瑜は既に大技の術を2回も使っているのでかなり疲労してます。それと……」

「奥方、私との訓練で何度も教えたことを忘れてはおりませぬな?」


 玄の言葉を遮って関羽が孫仁へと声をかける。


「はい」

「ならば、私からはなにも言うことはありませぬ」


 そう言って関羽は孫策へと正対する。


「お任せください、必ずお背中をお守りいたします」


 孫仁も周瑜へと正対し、関羽と背中合わせに立つ。


「玄殿、一つだけ確認したいのですが……」


 周瑜を見据えながら孫仁がか細い声を出す。


「はい……さっきの孫策の言葉ですね」

「ではやはり……」

「……孫策の剣が孫堅文台、鎧が孫権仲謀ということらしいです」

「……わかりました。劉玄徳の妻としてあるために、孫呉三代のしがらみを打ち破れということなのでしょう」


 そう言い放つ孫仁の目には強い決意の色が浮かんでいる。


「では、奥方。参りましょうぞ」

「はい、関将軍」


 ふたりは同時に駆け出す。

 孫仁は右手に剣を握り、持ち前の身軽さでもってあっという間に周瑜との間合いを詰めると鋭く斬りかかっていく。


「姫! あなたは呉の人間だ、なにゆえに関羽の味方をするのです。そもそも戦場へ出るなど! どうかご自愛ください」

 

周瑜は若干、肩で息をしながら孫仁の鋭い斬り込みを自らの剣で弾き返していく。


「これは異なことを。周将軍、私を政略結婚の道具に利用したのはそなたではないのですか?」


 孫仁は周瑜の首を斬り付け、受けられると同時に身体をひねり足首を払う。跳ばれてかわされたあとは、さらに回転を活かして胴を薙ぎにいく。

 自身の力がないのは自覚している孫仁が、自らの体格に合わせて学んだ武である。全体の流れを常に円の動きに乗せ、速度と攻撃回数、そして変幻自在の攻めでもって相手を翻弄していく。


「そ、それは確かに私の策です。しかしそれは孫呉のため。それを恨みにお思いか」


 孫仁の攻撃は俊敏にして精緻、その攻撃を会話しながら受けていく周瑜もやはり智だけの武将ではない。


「ふふふ、勘違いなさらないでくださいませ、周将軍。むしろそなたには感謝しているのですよ」


 そう言って微笑む孫仁は戦時にもかかわらず見惚れるほど美しい。


「な!」

「私をあの方と引き合わせてくださったことをです! 私はあの方と出会い、あの方の生き方に触れ、あの方の愛に包まれ、呉では寸時すら得られなかった安らぎを得ました。あの方に嫁いだ時から私は! 今も変わらず劉備玄徳の妻なのです!」

「くっ」


 苛烈さを増していく孫仁の攻撃をかろうじて凌ぎながら周瑜は呻く。


「……私としたことが、劉備を女漬けにして骨抜きにするつもりが、逆にこちらの手駒を籠絡されるとはな……なんとも浅薄な策を打ったものよ」


 周瑜の挑発とも取れる辛辣な言葉にも孫仁は微笑みを絶やさない。


「それは違います。あなたの間違いは私のような愚鈍な女を見誤ったこということではありません。あなたの間違いは……劉備玄徳と言う漢の器を計り損ねたことです」

「はっ! 笑わせないで頂きたい。たかが草鞋(ぞうり)売りの成り上がりごときの何を計れというのですか!」


 もともと劉備玄徳はタク県楼桑村で産まれ育った。暮らしは貧しく、母とふたりで(むしろ)や草履を編んで、それを売り生計を立てていた。

 そんな環境にもかかわらず、漢の国を憂いた劉備は関羽や張飛といった豪傑たちと運命の出会いを果たし、国や民のために立ち上がるのである。当初は志のある農民あがりの若者たちを集めた義勇軍から始まった劉備軍は、長い年月と苦難の連続を乗り越えた末にようやく蜀漢の国を興すに至るのである。

 そんな劉備の出自(血筋自体は漢の帝室に連なるとされる)を周瑜はあげつらう。


 しかし、孫仁はその言葉に取り合わずさらに言葉を続ける。


「あなたは仕えるべき相手に恵まれなかった。確かに策兄上も権兄様もひとかどの人物。英傑と呼ぶにふさわしい人たちでした。しかし、ふたりともまだ若すぎた。父が生きていればまた違っていたのでしょうが……ふたりは若すぎるがゆえに、あなたのような俊才を使いこなすための器が完成していなかったのです」


 そうしている間も孫仁の攻めは一時たりとも緩むことは無い。


「な、なにを言っているのです? そんなことは……」

「彼らはあなたに頼りすぎた。あなたもまた、若いこれからの才だったのにもかかわらずです! あなたはその信頼に応えるために無理をして、なにもかもを背負い、誰にも相談せずひとりでやろうとした。それ傲慢さがあなたを戦場の最前線まで運び、あなたの死期を早めたのです」


 周瑜は赤壁の戦いのあとに曹操軍を追撃し、荊州の江稜という地を攻めるさいに自ら陣頭指揮を取った。そして精強な呉兵と、それを運用する自慢の知略でじりじりと優位に戦闘を進めていたのだが、乱戦のなか不運にも流れ矢に当たる。

 周瑜はそれすらも策の一部として利用し、その戦いに見事勝利をするが、そのときの矢傷がもとで病になり、わずか36という若さでこの世を去ることになるのである。


「……」

「もし、あなたがあの方を主と仰いでいたなら……きっとあなたは希代の名軍師として、あの孔明軍師を超えていたかもしれません」


 孫仁の言葉に周瑜の目が細まる。


「言いたいことはそれだけか?」


 周瑜の声に先ほどまでの主君の妹君に対する敬意はない。


「ほほほ、逆鱗に触れてしまいましたか? 本当はわたくしを挑発するつもりだったのでしょうに」


 孫仁は周瑜をことさら馬鹿にするように笑声をあげ、それでも途切れることなく攻め続ける。


「え……と、あの周瑜を論戦で破るってどんだけですか、孫仁」


 その様子を見ていた玄は、緊迫した戦闘のさなかだと言うのに思わず呆気に取られる。無論余裕があるかのようなやり取りも、少しでも戦闘を有利に進めたいという孫仁の必死さのあらわれだ。

 データ化された武幽電上の武力差は少なくても20は離れているだろう。もし、これが本当のゲームなら数値をもとに勝敗が計算され、20の武力差というのは正直絶望的である。だが、このゲームに限ってはそれは当てはまらない。人と人が対戦する以上はミスが皆無ということはない。

 戦っているうちに対応を間違う可能性もあるし、平静さを欠けば隙を見せることもある。現実世界では弱いものが強いものに勝つことなど、さして珍しいものではない。

 ただし、それはいろいろな条件がかみ合ったときだけで、正面からただぶつかるだけではその可能性は限りなく低いままだ。実力が上の相手に本気だ勝つつもりなら、本人の努力はもちろん、策や、運が必要なのだ。そのための駆け引きを孫仁はしている。

 少しでも自分の力を最大限に近づけ、相手の力を最小限に抑えるために。

 

「ふん、確かに弓腰姫と呼ばれただけあって女人とは思えぬほどの武ですが……そんな全力の攻めがいつまでも続くわけがない。力尽きて息を抜いたときこそ、本当にお別れです」


 周瑜が孫仁の攻めを凌ぎながらも余裕をもった呟き。孫仁はその呟きを聞き、戦闘前に関羽が言っていたことの意味を知る。


(大切なのは、常識に縛られない思考)


 孫仁は茜に教えてもらった自分の能力を思い出す。


『孫仁(孫尚香)

 体力 一〇〇

 武力 四六

 知力 六二

 技能  武器 レベル 二

     馬  レベル 四

     指揮 レベル 一

 術      レベル 三

     風  レベル 三

     水  レベル 四

 必殺技 水花燕舞(術)

     氷縛乱武(術・武)

 特殊技能 孫呉の威光』

 

(自分の能力を数値化されたと聞いても何がなんだか全く分かりませんでしたが……玄殿からこれだけは覚えておいて欲しいと言われた必殺技と特殊技能。昨日、茜と共に試してはみたけれど、わたくしにはどのように戦術に組み込めばよいのか判断がつきません)


 孫仁は攻め続けながら、関羽が孫仁のために打ってくれた布石、おそらく一度しか使えないチャンスをどう使えば周瑜を倒せるのかを考える。

 だが、孫仁には自分の力をどう使えばいいのかがわからない。

 それは、決して孫仁の能力的な問題ではない。勿論、孫仁の戦闘経験がないのも大きな理由のひとつだろうが、本当の理由は現実世界ではありえない未知の能力である必殺技や特殊技能の存在である。


 もともと孫仁は呉国の妹姫として、戦闘とは無縁の生活をしていたのだからある意味当然だ。習い覚えた武術も所詮は趣味のようなもので、演武として披露するのならまだしも 実戦でどのように戦えばいいのかなど本来わかりようがない。

 それでもこうして周瑜と戦っていられるのは、短くはあったが濃密でもあった関羽との訓練の成果だった。


だが攻め続けている時間があるラインを越えて長びけば、関羽が作ってくれた布石の孫仁のアドバンテージは徐々になくなっていってしまう。このまま時間を無駄にするわけにはいかなかった。孫仁は意を決して口を開く。


「茜、見ているのでしょう? 聞いているのでしょう?」


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