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ゲームに三国志の武将が封印されていたから解放するために戦ってみる (旧題:三国志~武幽電~)  作者: 伏(龍)
第2章

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43 疾走

「玄と関羽さんたち、大丈夫かしら」


 孫仁の移動に伴い、周囲を流れていく景色に酔いそうになった茜が意識を逸らすために呟いた。


「あまり、芳しい状態ではないのでしょう。先ほどの玄殿の会話からは怪我をした悪来殿もこちらに向かっているようですし……」

「一刻を争う……か」


 孫仁の走りは当初から全く速度を変えず、全力疾走が続いている。


「兄上と周瑜将軍……ふたりと戦っているのです。苦戦しているとはいえ、決着がついていないことだけで、さすがは関将軍というべきでしょう」

「そうよね……孫策と周瑜って言ったら、勇将智将で知られた人物だもんね」


 茜が玄から借りた本で出て来たふたりの人物像を思い出しながら答える。


「兄上がなくなられた時は私もまだ小さかった上に、兄上は天下を取ることに夢中でしたから私のことなどはあまり覚えてないかもしれませんね……ですが、幼心に兄上の荒々しい強さは記憶に刻まれています。周将軍に関しては兄上亡きあと、権兄様を補佐しながら呉の軍事権を全て手中にし、赤壁から荊州争奪まで……その知略は恐いほどでした」


 孫仁は当時を思い出しているのかどこか楽しげな雰囲気がある。口調としては事実をたんたんと述べていて、戦いを逡巡している気配はない。


「もともと、あの方との結婚も周将軍の策略であの方を呉に留め置くための政略結婚でしたね。まさか、そのふたりと戦うことになるとは思いもしませんでしたが」

「本当にいいの? レン」

「ふふふ、相変わらず優しいわね茜。茜の暮らす世界が少し羨ましいわ。私たちの生きた時代は、肉親ですら裏切ることもあるような時代でしたから……覚悟はできています」

「そんな覚悟、悲しいね」


 茜の言葉に孫仁は悲しい微笑を返す。


「だからこそ、私たちが犯した過ちを経てたどり着いた『今』をあなたたちは大事にしなければいけないのだと思います」

「レン……うん。そうだね、その言葉、絶対忘れないからねレン」

「ふふ、ありがとう茜。私もそんな考え方ができることに驚いています。私たちが通り過ぎた時間の先に築かれた世界があることを知ることができてよかった。そして、その世界が平和であることを知れてよかった。私たちが必死に生きたあの時間が無駄ではなかったと思えるから……」

「……もう! 駄目よ、レン。すぐそうやって暗くなるんだから! そんな顔で劉備さんに会ったら心配されちゃうわよ!」


 何かというとしんみりしがちな孫仁に茜はわざと明るく話しかける。


「ふふ、そうね。ついつい、いまが未来だと思うと考え込んでしまって。年は取りたくないものね」


 それがわかる孫仁もいたずらな笑顔で答える。


「大丈夫よ、実年齢はともかく見かけは間違いなく20代前半。文句なし美人だから」

「あら、私は喜べばいいのかしら? 怒ればいいのかしら?」


 くすくすと笑いながら孫仁はちょっと膨れてみせる。


「どっちもはずれ」

「え?」


 思いがけない茜の言葉に孫仁がきょとんとしている。

「ただ……あなたは笑えばいいのよ。あなたは精一杯生きて、その生をまっとうしたんだから。それを活かすも殺すもいまを生きる私たちの役目。あなたは『うまくやってみろ』って思いながら『上から目線』で笑って見守ってくれればいいの、もう休んでいいのよ。あなたの気持ちは私たちがきっと受け継いでいくから」

「茜……そうね、本当にそのとおり。私たちは決してうまく生きたとは言えないけれど、何かを残したと思いたい。そしてそれを誰かが受け継いでいく……そうやって歴史は紡がれていくのかもしれませんね」

「頼りないかもしれないけど、笑って見てて。死んでからまで心配かけたくないもの」

「ええ、あなたのような人がいるのだもの。全く心配なんてしないわ」


 孫仁の顔に吹っ切れたような笑顔が浮かぶ。それを見た茜もなんだか嬉しくなって一緒に笑う。


「ただ……」

「ええ、そうね。」


 茜の真剣な声に、孫仁も答える。そしてふたりは同時に同じ言葉を紡ぐ。


『全てはこの戦いが終わってから』


 この、ばかげたシステムを潰す。玄が言い出したことであり、茜は玄が言うならと同意していたこと。しかし、孫仁と付き合っていくにつれ会話を重ねるにうちに、はっきりと自分の意思が固まった。


 やっぱりこんなシステムあっちゃいけない。

  

 うまく使えばいいのかもしれない。あれば便利で良いことの方が多いかもしれない。このシステムに賛成する人の方が多いかもしれない。それでも、これは必要ないものだ。

 孫仁と話していると茜はそう思わずにはいられない。


「茜、見えましたよ」


 一人決意を新たにする茜に孫仁が声をかける。


「え?」

「おそらく、右前方の砂煙は悪来殿だと思います」


 孫仁の示した方向を見ると確かに微かに砂煙が舞っているのが見える。

 VSを確認してみてもマーカーは表示されていないので武将という可能性も薄いだろう。


「でも、ちょっとずれてるみたいね、レン」

「わかりました」


 孫仁は走る方向を変え猛スピードで近づいてくる砂煙の方へと向かう。するとすぐに茜の目にも、砂煙をたて爆走する悪来の姿が確認できた。


「……おかしいですね」


 悪来へと向かって走りながら孫仁が呟く。


「え? 何が」

「いえ、そろそろあちらも私に気づいてもいい頃なのですが……進路が変わらないのです」

「ええ! …………それってどういうこと?」

「意味も分からずとりあえず驚きましたね? 茜」

「いや、あはは……」


 孫仁はそんな茜に苦笑しながら更に速度を上げる。


「既に悪来殿の視界に入る位置に私たちはいます。普通なら悪来殿ほどの方が気付かぬなどあり得ません。それなのに気づかないのなら」

「え? まさか」

「そう、多分意識が無いか、もしくは朦朧とした状態で走り続けているのでしょう」


 壮絶な走りをする悪来を見つめて茜は呆然と呟く。


「……そこまでしなきゃいけない戦いなの?」

「……孫仁、聞こえる?」

「はい、聞こえております玄殿」


 悪来の凄絶さに圧倒されている茜は答えられない。


「悪来の傷は深い。本当なら走れるはず無いくらいに……それなのに関羽のために走ってくれてるんだ」

「わかっております。情けなどかけません。何がなんでも私を関将軍のもとへ最短で届けて頂きます」

「レン!」

「目を覚ましなさい! 茜! 先ほどの決意をもう忘れたのですか」


 この世界に呼ばれてから初めて孫仁は大声を出した。まなじりもきつい。いままで一度も崩さなかった温和な雰囲気を片時も崩さなかった孫仁が本気で怒っている。


「そうじゃない! でも!」

「悪来殿がかわいそうですか?」

「……」

「思い違いもいいところです。彼を侮辱するのも大概にしなさい!」

「え? 侮辱なんて!」


 孫仁の言葉に反射的に言い返そうとする茜を孫仁は視線を厳しくすることで止めた。


「……あなたにそのつもりがないことはわかっています。しかし、悪来殿は誰かに強制されているわけではないのです。軍馬に身をやつしたとはいえ、一角の武人である悪来殿が己がすべきことと思い定めての行動なのです。その行動に対して『可愛そう』だなどとは言わせませんよ。身命を賭しての行動に情けなど入る余地はないのです。私たちにできるのはただその心意気を汲むことだけ」


 既に悪来は目と鼻の先まで疾走してきている、孫仁の必死の走りによってなんとか素通りされる前に前方に回りこめそうだった。しかし、それは近づいてくる悪来がよく見えるということでもある。

 その目に映る悪来はまさに凄惨という言葉がふさわしい姿だった。下半身を血で真っ赤に染め、一歩ごとに血をしぶきながらそれでも全力で前へと走っている。


「納得できないのならそこで見ていなさい」


 そういうと孫仁は悪来の正面に立つ。


「悪来殿! 悪来殿! 目をお覚ましくださいませ! 孫仁でございます!」


 必死に呼びかけるが、悪来の疾走に変化は無い。正面に立っているはずの孫仁を認識できていないのだ。


「やむをえませんね……うまくいくとよいのですが」


 孫仁はそう呟くと疾走してくる悪来を静かに待ち受ける。


「ちょ、ちょっとレン! まさか力づくで受け止めるつもり?」


 狼狽した茜の声に孫仁は答えようとしない。別に答えたくない訳ではなく極度の集中状態にあり、答える余裕がないのだ。

 やがて、彼我の距離が10メートルほどになったとき、孫仁はおもむろに悪来に向かって走り出す。


「レン!」


 ぶつかる! 悪来に跳ね飛ばされるシーンを想像して茜は思わず目を閉じた。


 だが、激しい衝突の音がくると身構えた茜の耳に飛び込んできたのは孫仁が悪来を呼ぶ声だった。


「悪来殿、悪来殿、お聞きください!」


 おそるおそる茜が目を開けると、悪来の背に跨った孫仁が悪来の首にしがみついて耳元に話しかけている。どうやら孫仁はすれ違いざまに悪来の首に飛びつき、悪来の走る勢いを利用してその背へと飛び乗ったらしい。


「……ん? お、おお……姫さんか」

「お気づきになられましたか悪来殿」

「ヘヘ……すまないな、ちょっと寝ちまったみたいだ」


 悪来の視線は未だ定まらないままである。おそらく過度の痛みにより意識が朦朧としているのだろう。


「しっかりなさいませ! まだ私と合流しただけです。急いで向きを変えて関将軍の所へ私をお届けください」

「おお! ……ま、任せろ。そのために来たんだからな。だが、一つ頼まれてくれないか」

「なんでしょう?」

「どうも砂が目に入ったみたいで前がみづれぇ……耳を引っ張って方向を示してくれ」


 しかし、孫仁に頼む悪来の目はしっかりと見開いている。砂に目が入ったというのは誰の目から見ても嘘であるのは明白だった。


「悪来殿……ひとつ貸しです。あとでお返しくださいませ」


 孫仁は泣きそうな顔をしながらそう答えて、悪来の右耳を力いっぱい引っ張った。


「へへ……わかった、わかった。ったく厳しい姫さんだぜ」


 悪来が耳を引かれるままに方向を転換し、来た道を真っ直ぐ戻っていく。その速度が落ちることはない。


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