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ゲームに三国志の武将が封印されていたから解放するために戦ってみる (旧題:三国志~武幽電~)  作者: 伏(龍)
第2章

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41 窮地

 周瑜の叫びと共に大河の中から水で作られた象ほどもある大きな虎が宙に駆け上り、みるみる氷結していく。そして、氷結しながらも宙を駆けた虎は孫策と激しい打ち合いを続けている関羽へ向けて上空から前足を振り下した。

 そして振り下ろされた足は無数の鋭い爪となって放たれる。虎の身体部分をも削りながら、その体積の全てを氷の爪へと変換しているようで関羽へと襲い掛かる爪の数は数えきれない。ただ見た目ではその数、百はくだらない。


「関羽! 上だ!」


 先ほどまで聞こえていた玄と悪来の会話、そしてかけられた玄の悲痛な叫びに、関羽はだいたいの事情を把握する。


「ふ!」


 関羽は孫策へと強い一撃を加えると上空からの攻撃を避けるべく、鋭いバックステップをくりだしてその場から離れる。

 すると関羽がいた場所へ、一瞬だけ遅れて氷の爪が突き刺さっていく。関羽は孫策と距離を取る方向を意識しながら無数に降り注ぐ氷をかわしていく。

跳ぶ、走る、剣で打ち払う、時には地面へと飛び込むようにして転がりながら鋭い爪の形をした氷を紙一重でかわし続けていく。

 しかし、いかんせん数が多すぎる。避けきれなかったいくつかの爪は関羽の身体を掠めていく。

 傷口が即座に凍結していくので、出血するようなことはないが関羽のライフゲージがみるみると短くなっていく。そして、ここまでライフが減ってくると関羽にも目に見えて疲労の色が濃くなってくる。


「がんばってくれ関羽! もう少しだ!」


 玄が叫ぶ。いつ終わるともなく続く関羽の必死の回避行動によって、玄の視界に映る氷の虎は尻尾付近だけになっている。


 そして、最後の一爪が関羽のわき腹をかすめて地面に刺さった。


「……し、凌いだ?」


 完全に消えた氷の虎を見て思わず呟く玄。


「はい、お疲れさん。さすが公瑾、効果時間ぴったりだぜ」

「な! いつの間に」


 やっとの思いで全ての攻撃をかわしきった関羽の背後にいつの間にか孫策がいて、その剣を振り上げていた。


「関羽!」


 一連の回避に全力を注いだ上に、傷による疲労で動きの鈍った関羽には背後からの一撃をかわすことはできない。玄はなにも考えずとにかく、関羽を回避させるべくコントローラーを激しく操作。とにかく回避が優先、意味のある動きをさせるような余裕もなく操作された関羽は、結果として不自然な動きで倒れこむように転がった。


「ぐぬぅ……」


 だが、この人の動きとしては不自然な回避が幸いしてか、孫策の剣は関羽の背中を浅く斬りつけるにとどまり、動きの自由を取り戻した関羽は今度こそ孫策と正対して確実な距離を取る。


「関羽!」

「騒ぐでない玄」


 肩で息をしながらも関羽は毅然と直立している。


「でも……」


 玄の目には赤くなった関羽のライフゲージが点滅しているのが見える。

 

「おいおい、ここまでやってまだ倒せねぇのかよ」

「氷虎爪舞をかわしただけでも驚きだがな」


 孫策と周瑜が呆れた声で苦笑している。ふたりにしてみれば、いまの攻防で倒しきれなかったのは意外だが、勝負は決したと判断してもいい状況である。


「やっぱり、孫策の技は身体強化だったんだ」

「動きを抑えて好機が来るまで隠し通したのだな」

「うん、普通に打ち合ってる最中なら強化しても関羽なら対処できた。そして、相手もそう思ったんだ」

「悪来は?」

「……脚を深く斬られてる、しばらく動くことはできないと思う」

「命があるならよい。さて、現状を説明してみせよ。ひよこ軍師」


 関羽が慎重に距離を取りながら、この期に及んで笑う。


「関羽……わかった」


 あえて笑う関羽の強さに力づけられた玄は自分もいつまでもうろたえてはいられないと意識を切り替える。


「まず、関羽の体力は危険域まで減少してる。ここまでいってしまうと術や必殺技関係は危なくて使えないし、疲労という形で自覚症状も出てると思う。ただし、いまある傷が今後も体力を奪うことはない。動く時の障害にはなるかもしれないけど……」

「負傷が動き回ることによって、これ以上悪化することはないのだな」

「うん、関羽にわかりやすく言うならそういうことかな。ただし、痛みはあると思うし腱や筋肉を斬られればたぶん動けなくなる」

「それはよい。次」

「周瑜は、立て続けに大技を2発も使ってる。いくら術レベルが高くたってあれだけの技を使えば3発目はないし、かなり疲労してると思う。おそらく関羽と1対1ならいまの関羽でも圧倒できると思う。今後は介入してくるとしても術を使わない物理攻撃になる……つまり剣で斬りかかるとか弓を使うとかそんな攻撃方法になるはずかな」

「得意分野だな、次」

「最後、孫策。彼が一番元気、鎧の特性は把握したといっても本人の力と鎧の力は健在。さっき使った技もコストは低そうだから再度使う可能性もあるし、もうひとつなにか技を残してる可能性もある。ただ、多分だけど残りの技は関羽や典韋が使ってたような力技的な類のもので間違いないと思う」

「奴に関しては今までどおりだな。では方針はあるか」

「……本来なら撤退して仕切りなおしたい。それぐらい現状は不利だと思う……ただ、相手はふたりでしかもここは中州。逃げ切ることはできない」

「当然だな」

「なら、この状況からでもふたりを倒すしかない。一番いいのは、技を使って疲労している上に武では関羽に及ばない周瑜を、一気に撃破して孫策と一騎討ちの状態に持ち込むこと」

「孫策が放っておかないだろうな」

「うん、となればやることはさっきと同じ。周瑜の動向に気を付けながら、まず孫策を倒す」


 静かに結論を告げた玄の言葉になにかを感じ取ったのか関羽が髭をしごく。


「うむ、冷静になったようだな。『今までと同じように戦う』むしろ周瑜の大技に気を使う必要が無い。現状はこんなにもわかりやすいではないか。玄よ、軍師たるものが策の成否に一喜一憂するものではない。百発百中の策などない、破られた場合に即座に次の対応が取れることがよい軍師の最低条件だ」

「わかった。肝に銘じておく…………ありがとう」

「ふ、よい。癪に触るが先ほどの水攻めや孫策の一撃、お前の策や操作に助けられたこともある」

「そっか、こんな俺でも少しは役に立ててるんだ」

「ひよこだがな」

「またそれを言う! わかってるってば」


 関羽の言葉に玄は小さく笑う。切羽詰った時ほど笑うことができるくらい冷静でなければならない。関羽が言いたかったのはきっとそういうことだった。

 しかし、冷静になったところで厳しい現状なのは変わらない。


「玄よ」

「え、何?」


 関羽から話しかけてくることは珍しい。


「私の必殺技とやらは使えないのか」

「……ん、正直しんどいと思う。今の体力から考えると使用したことで体力が尽きることはぎりぎりないと思うけど、使った後はほとんど動けないくらいの疲労を感じるはず」


 関羽は下流方向にいる周瑜と上流方向にいる孫策を交互に眺めている。


「それだと仮に孫策を仕留めても、周瑜と戦う力は残らぬか」

「技を使えば孫策に勝てる?」

「おそらくな。青龍斬を使えば両の武器に加えての3手目になる」


 関羽の言葉に玄は、はっとする。


「そうか……そうだよ! なんで気が付かなかったんだ。こんなに消耗する前にもっと早くに気が付けば」

「違うぞ玄、鎧や孫策の技、なにも知らぬままにその答えにはいきつかぬ」

「……」

「案ずるでない、この関雲長。小童(こわっぱ)どもが二人がかりで来ようとも負けはせぬわ!」


 そう言って関羽は孫策へと向かって歩いていく。


「言ってくれるじゃねぇか」


 にやりと笑った孫策も応じるように間合いを詰めていく。


「伯符! 油断はするなよ」

「分かってるよ。あいつは俺らより強い、だろ。お前こそ気ぃ抜くんじゃねぇぞ! だいぶへたばってんだろうが」

「ば……だからお前はどうしてそういうことを、すすんでばらすんだ! 黙っていれば相手の判断を鈍らせることもできるんだぞ!」


 周瑜の怒声に孫策はかっかと笑う。


「もう気づかれてるよ。関羽のうしろにいるやつは結構切れ者だぜ。だから、お前も対抗心燃やしてついつい余計な皮肉なんか言ったんだろうが。そんなことせずにすぐに技使ってりゃ、最後の一撃まで虎身が保ったんじゃねぇか?」

「ぐ……」


 孫策に図星を突かれたせいか周瑜が言葉に詰まる。

確かにあと1秒孫策の身体強化の技の効果が残っていれば玄の無茶苦茶な回避操作をもってしても孫策の一撃をかわすことはできなかったはずである。


「え? あの周瑜が俺を?」

「くっくっくっ、なんとも愉快だな玄。戦場にもでたことのないひよこをあの美周郎が認めたか」

「え? え!」


 関羽が髯を揺らしながら笑う。


「くはは! ひよこと言えど我が同盟者。あなどれば痛い目をみるぞ!」

「ああ、分かってるぜ。俺たちには、もう慢心はねぇ! どこまでも謙虚にお前の首を取らせてもらう」

「やって見せろ!」


 そして、再び二人の厳しい斬りあいが始まる。だが、今度は孫策は受けに徹している訳でもなく、身体強化の技を使っているわけでもない。しかし、関羽は孫策を圧倒することができない。


「やっぱり疲労で動きが落ちてきてるんだ」


 それでもかろうじて互角の打ち合いをしているところはさすがは関羽だが、自らの弱点をしっかりと認識した孫策の戦い方も当初に比べるとかなり堅実な戦い方になっていて関羽の付け入る隙がない。

 なんとかしたいと思ってもリアルにいる玄にはなにもできることがない。せいぜい周瑜の動向をチェックして関羽に伝えるくらいだが、いまのふたりの戦いに疲労した周瑜が介入するのは簡単ではないだろう。

 それでも、孫策と周瑜の信頼関係があれば、いつどんな形で思いもかけない連携を見せるかわからない。


「なにか、なにかできないのか」


 辺りを見回すが、そこには大河と雑木林が見えるだけである。


「ん? ……あれは」


 玄の視線が雑木林で止まる。関羽が動いて少しずつ視点が変わっていたので、いままで見えなかったが部分の雑木林の隙間から中州の反対側が透けて見えたのだ。


「あれは橋? 対岸には橋があるのか! 橋があるならなんとか逃げられ……」


 そこまで呟いてため息をつく。


「逃げられる訳ないか……」


 おそらく、橋は両端から伸びていた。だが玄たちがきた北側からの橋は周瑜たちが落としたのだ。

 もしかしたら付近にあった船なども、根こそぎ沈めるか対岸へ移動させたのかもしれない。そうすることで北からくる武将たちを高い確率で中州へと誘導できる。

 玄たちは最初から周瑜の策に嵌まっていたのだ。


「くそ! 俺なんてまだまだじゃないか……」


 玄は悔しさに自分が座っているベッドを叩く。

 関羽や、周瑜にちょっとくらい認められたと言っても、いまこうして関羽は危地にいる。それが自分のせいかもしれないと思うと胸が苦しくなって悔しさがこみ上げてくる。関羽が言ってくれたことは嬉しい、だがそれでもそれに甘えるわけにはいかない。


「なにか、なにか……」


 諦める訳にはいかない玄はいまの自分に唯一できること、考えることに全力を注ぐ。


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