38 解明
「おほっ! そうこなくっちゃ面白くないぜ」
孫策は嬉々ととして受けて立つ。関羽の攻撃を受け、払い、時には鎧で覆った手で受け止め、防御により体勢が崩れそうなときにはあえて鎧で防御する。
「へ、武神と謳われていてもこの程度かよ!」
得意気に攻撃を受ける孫策を関羽は相手にせず、孫策の頭、首、腕、胸、腰、脚、あらゆるところに攻撃を加えていく。
だがいずれも、鎧による防御を引き出した時点で攻めるポイントを変更していく。
(俺に情報を提供してくれているんだ!)
玄はその意図を正確に理解していた。
(関羽の攻撃は力をセーブしたものだ。そして鎧に当てたい時に一瞬だけ力を出している)
普通に全力で攻撃をすれば、鎧の完全防御でこちらの隙を突かれてしまう。だから関羽は孫策が確実に対応できる速さで攻撃を続け、孫策の反撃ができない体勢まで手数で誘導してから当てるための一撃を繰り出している。
関羽のその技量に改めて感嘆しながら玄はありがたくその様子を目に焼き付ける。
(関羽の攻撃を鎧は変化を繰り返して完璧に防いでいる……その変化のスピード、硬さ、正確さは付け入る隙が無い。そして鎧に攻撃を加えてもその衝撃は装着者には伝わらない。 つまり鎧で受け止めた攻撃では孫策は体勢を崩さない……そう、それがやっかいなんだ。衝撃さえ伝わればカウンター攻撃をある程度防げるし、衝撃のダメージを与えられるのに! どうやったらあの防御をかいくぐれるんだ?)
深く思考しながら戦いを凝視していた玄のでは、関羽が孫策の足首を狙う一撃を繰り出したところだった。
「うお!」
踏み出した孫策の右足の着地を狙い繰り出した関羽の一閃は、狙い違わず孫策の右足首を捉えるかに見えたが脛当てから変形した鎧が足首を完全に覆ってしまう。
しかし、関羽の本当の狙いは左の軸足だったらしく、そのまま右足首を打たずに左手で抜いた槍の残骸で左足首を打った。
がぃん!
「っとぉぉ!」
両足首を狙われた孫策が不安定な体勢だったためたたらを踏んで距離を取った。左足への衝撃でバランスを崩した訳ではないが、体勢を崩した孫策を見るのは珍しい。しかし、いまの攻防とバランスを崩した孫策を見て玄の脳裏に甦った光景があった。
「あ! いま……それに確か、そうだ! あの時!」
玄が叫ぶ。
「ふ、なにか思いついたようだな。言ってみろ」
孫策が距離を取ったため、関羽も一息をつき距離を取っている。何かを伝えるにはいいタイミングである。
「とりあえず、気付いた事がふたつある」
「ほう」
「まずひとつ。今の足への攻撃、あの鎧は右足への攻撃がフェイントだって気が付かなかった」
「ふむ……」
「そして、そのせいかどうかはわからないけど、左足を防御するための変化が若干遅れた気がする。それは多分、右足の変化を解除してからの変化だったから」
関羽の目が僅かに形を変える。
「なるほど、もう一つは?」
「うん、あの衝撃を通さない鎧を着ている孫策がバランスを崩したことが一回だけある。今みたいに自分で体勢を崩したんじゃなく、関羽の攻撃で」
玄の言葉に関羽は孫策との立会いを思い返す。そしてすぐにその場面に思い当たる。
「最初のぶつかりあいのときか」
「そう! 関羽が薙刀の柄を斬られて、攻撃をかわす時に放った蹴り。あのとき鎧は反応しなかった」
「ふむ、ということはどういうことだ?」
「えっと、いくつか考えられるけど……あの鎧は武器による攻撃にのみ反応する。とか、致命傷にならない攻撃には反応しない。とか……もしくは」
「鎧は不意打ちには反応できない、だな」
「うん、多分それが正解だと思う」
玄が思いついた鎧の性質はふたつ。
ひとつは『変化は一箇所のみ』。もうひとつは『鎧には人のような意思がある』。
だからフェイントにも引っかかるし、関羽の思いもかけないような体勢からの蹴りにも対応しきれなかった。弱い蹴りに反応しなったという可能性もあるが、「弱い」や「蹴り」を自動的に判断できるとは思えない。
では意思があると仮定すると、攻撃によってはあえて無視したという可能性も残るが、あの場面では蹴りを防いでおけば孫策が決定的な追撃をすることができたはず。ならば、あえて攻撃を無視したというよりは反応できなかったというべきではないだろうか。
それに、あの鎧がもともと孫権というひとりの人間だったことを考えれば意思があると考えた方がしっくりくる。
「ひとりではなくふたりを相手にしていると思えばよい。そういうことだな」
玄は「ん」と頷く。
「玄、良い洞察だった。ここからは我の仕事だ。後は任せておけ」
「え?」
関羽の誉め言葉に玄は思わず声を漏らす。
「なんだ? 我が信用できないのか?」
関羽が含み笑いをしながら問い返す。
「いやいやいや! そんな訳ない。こと戦闘において俺が心配することなんて何もないよ」
玄は慌てて首を振り力強く答える。
「ふん、では参るとしよう」
「うん、反撃開始だ」




