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ゲームに三国志の武将が封印されていたから解放するために戦ってみる (旧題:三国志~武幽電~)  作者: 伏(龍)
第2章

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36 孫呉

◇ ◇ ◇


「こまっけぇ~ことはいいだんよ! 俺たちはこのおっさんに一度殺されててもおかしくなかった。そこをわざわざ声をかけてもらっといて、うだうだ言うのはすっげぇかっこわりぃぜ! 公瑾」

「むぅ……確かに我らの意識は完全に下流へと向いていた」


 孫策に言われて初めてその可能性に気が付いた周瑜は言葉を詰まらせる。だからといって自分たちふたりがやすやすと奇襲を受けたとは思わないが、相手はあの関羽である。もしもの可能性は確かにあった。

 周瑜は孫策のその言葉に納得せざるを得ない。大局的な物事を把握して計画を立て、実行するなら自分と並ぶものはそうはいないと周瑜は自負している。しかし対個人においては孫策の直感というか、野性的な感性には遠く及ばない。そして、そんなところに周囲の人間は魅かれるのだ。


「ふ、だてに小覇王と呼ばれていた訳ではなさそうだな」


 関羽は楽しげに笑うと、ゆっくりと下馬して武器を構える。


(悪来、周瑜は頼んだぞ。戦う必要はない、玄の指示があったときだけ邪魔をすればいい。あとはなるべく人語を解することを悟られるな。相手が常識に縛られていれば、それは武器になる)


 関羽の呟きに悪来はわかってるとばかりに小さく嘶く。


「そんな称号知らねぇよ。周りがなんと言おうが関係ねぇ! 俺は俺だ」


 孫策がシャリンと小気味良い音を立てて剣を抜く。その抜き放たれた剣はあきらかに初期装備で与えられる粗末な剣とは一線をかくしている。玄もそのことにすぐに気が付いた。

 しかも、よく見てみれば孫策は全身を軽鎧のような薄い金属で要所を保護した防具も装備している。


「関羽! あの剣と鎧はやばい気がする。まともに打ち合わないほうがいいかもしれない」


 孫策が持っている剣は鞘や柄に煌びやかな装飾がされており、その刀身はガラス細工のように澄みわたって景色を写すほど磨き上げられている。

 軽鎧も華美にならぬ程度に装飾が施され、布部分にも金糸銀糸でところどころ刺繍がされている。普通に見た目だけの防御力としては要所(胸、肩、小手、膝下)に薄くした板金や革を貼りつけただけでさほど高くないように見える。そして、関羽も同じような印象を受けていた。


「ふん……業物には見えぬな。問題あるまい」

「関羽! ここがどういう場所なのか忘れたの? あの装備が初期装備じゃない時点であれは誰か他の武将が変化させられたものであることは確実なんだ。そして、このゲームを作った人がいるなら、プレイヤーを楽しませる為には強力な武器や防具は、視覚的に楽しめるものでなきゃダメなんだ。勿論意味もなく華美にしただけのネタ装備の可能性もあるけど、孫策がああして自身満々に構えているんだから疑ってかかったほうがいい」


 玄の言葉に関羽はしばらく沈黙していたが、やがて頷く。


「よかろう、まずは様子を見ていく」


 関羽は無造作に距離を詰め、孫策との間合いぎりぎりで薙刀を構えた。


「へへ……やべぇぜ。向き合ってるだけで肌がぴりぴりしやがる」


 やばいと言いつつも孫策の表情は喜悦に溢れている。いまの間合いはぎりぎり関羽の薙刀の間合いの外、関羽なら一歩踏み込めば孫策へ届くだろうが、孫策の持つ剣ではあと2歩~3歩を詰める必要があるだろう。

 関羽は孫策から注意を逸らさずに、孫策の後ろにいる周瑜に意識を向ける。


(今のところ動く気配はなさそうだな)


 相手が1対1の戦いをしてくれるなら関羽にとっては願ってもない状況である。周瑜が戦いに参戦する前に孫策をどんな形であれ無力化できれば数の不利を考えないで済む。


「ゆくぞ!」


 小さく呟いた関羽は大きく一歩を踏み出し、薙刀を上段から振り下ろす。速度も威力も申し分ないその攻撃を孫策は横に飛んでかわす。しかし、それこそが関羽の狙い。

 振り下ろされた薙刀の威力をそのままに空中で軌道修正し、孫策が逃げた方向への横なぎの一撃に変化させる。しかも、加減していた振り下ろしよりも格段に速い!

 完全に虚を突かれたうえに、身をかわしたばかりの孫策はその動きに対応ができない。


「むぉ!」

「伯符!」

 

わざと一撃目の速度を抑えて孫策の油断を誘っての一人時間差攻撃、並みの武将なら軽いフェイントにしかならない攻撃も関羽ほどの武将が使えば必殺の一撃足りえる。

 周瑜が咄嗟に孫策の字を叫ぶが、外からの助けが間に合うタイミングではない。関羽の薙刀の刃は正確に孫策をトレースし、その胴体をふたつにするコースを走っている。


「うお! こりゃ避けきれねぇや! はっは~! 権! 頼むぜぇ」


 孫策はいまにも自分が両断されそうなのにもかかわらず、高らかに笑いながら着地と同時に関羽へと踏み込む姿勢を見せる。


「馬鹿が! 血迷ったか、ふん!」


 関羽はその無謀な動きに一瞬眉を寄せるが、タイミングは必殺。動きを変える必要は無いと判断し、孫策が前に出ようと踏み込むと同時に刃が孫策の胴を捕らえた。

 

 キィィィン!


「なに!」


 胴を断ち割るはずの一撃が甲高い音と鈍い手応えを関羽に返して来た。鎧のある部分は避け、確実にわき腹へと斬りつけたはずの一撃だったのにもかかわらず想定外の結果に関羽の動きが一瞬止まった。


「なんだ? いまのは」


 完全に決まったと思った瞬間に垣間見えた不思議な光景に玄も驚きを隠せない。しかし、二人が驚愕している暇はない。関羽の一撃を凌いだ孫策が既に間合いに入り込んでいる。

 孫策は長身の関羽が相手だからなのか、低い体勢から関羽の懐にもぐりこみ一気に剣を切り上げてきた。常であれば下がってかわすところだろうが、攻撃を弾かれた驚愕で動きのテンポが遅れていた関羽はその鋭い攻撃をかわせないと判断。


「むん!」


 回避を諦めた関羽は、股間から切り上げてくる剣を手に持った薙刀を両手で水平に構えて、下からの剣を上から押さえ込もうと力を込める。潔く受けを選択し、回避と迷わなかったため、関羽の防御はぎりぎり孫策の剣に間にあった。


 スパ!


「!!」


 だが、止めたはずの剣の衝撃がまったく無い。


(切られただと?)


 本能で武器が切られたことを理解した関羽は、条件反射的に渾身の力で体を後ろへと反らせた。剣を受け止めるための武器が切られた以上、孫策の剣が襲ってくるからだ。 


「関羽!!」


 玄が叫ぶ。


「く…」


 後ろに倒れこむようにして身体を投げ出し、かろうじてその一撃をかわした関羽は倒れざまに孫策の身体を蹴り飛ばしていた。そしてその勢いを使って後方へと転がって距離を取る。


 関羽に蹴られて体勢を崩されたため、追撃はできなかったが孫策にはダメージはない。


 お互いにゆっくりと立ち上がり再び対峙する。


「邪魔な髯が少し短くなってさっぱりしたんじゃねぇか」


 孫策が不敵に笑って関羽を挑発する。先ほどの一撃が関羽の顎鬚を数センチ切り落としていた。


「ふ、お前が切りたかったのは髯なのか?」


 関羽はその挑発に乗ることなく中程で断ち切られた薙刀から標準装備の剣を取り外し、斬られてしまった槍は2本とも腰帯に差した。

  

「言ってくれるぜ……確かにあれだけハマった攻撃で髯先のみとはな」


 孫策が握った剣をくるくると回しながら忌々しげに呟く。


「関羽! 見た?」

「何をだ」

「さっきの関羽の一撃を防いだものだよ」

「鎧に当たったのではないのか?」


 関羽にしてみればそれしか考えられない。確実に防具のないい脇腹を狙ったつもりだが、相手も動いている。狙い通りに当たらないことなどはむしろ当たり前だ。


 関羽が驚いたのは仮に鎧に当たったとしてもその衝撃で孫策を吹き飛ばせる自信があったからだ。


「鎧に当たったのは間違いない。でも……あの鎧は動いた」


 そう、あの瞬間玄の角度からは胸の部分を覆っていた金属が溶け出すようにわき腹に流れ込んで関羽の武器を防御したように見えたのである。常識であれば考えられないことだが……。


「何を馬鹿なことを。鎧が動くわけ無かろう」


 関羽のその感想は常識に照らせばもっともである。


「でも、確かに見たんだ……」

「あ? 動くぜ。これ」


 玄と会話する関羽の呟きを聞いた孫策が鎧の胸部分を親指でコツコツと叩きながら何でもないことのように答える。


「伯符!!」


 あっさりと秘密をばらした孫策に周瑜が非難の視線を向けるが孫策は笑ったまま手を振って周瑜を黙らせる。


「いいじゃねぇか別に。カリは早いうちに返しておいた方がいいんだよ。それにな」


 終始楽しそうな表情を崩さなかった孫策が初めて真顔になる。


「親父と権、そして俺。孫呉三代の力の結晶を見せびらかしてぇじゃねぇか」

「伯符……」

「まさか! あの鎧が孫権であの剣が孫堅っていうこと?」


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