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ゲームに三国志の武将が封印されていたから解放するために戦ってみる (旧題:三国志~武幽電~)  作者: 伏(龍)
第2章

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35 水底

「間違いねぇ! 関羽だ、覚えてるぜ! 昨日のことのように」


 孫策の震えが大きくなっていく。


「俺の初陣だった董卓討伐の戦。汜水関で猛威を奮っていたあの華雄を一刀の下に斬り捨てたあんたの姿をよ!」

 

 漢の国を混乱に落としいれた、黄巾党教祖張角による黄巾の乱が一応の収まりを見せたころ、宮中で権力を握り、都を牛耳っていたのはのちに魔王と呼ばれた董卓だった。

 帝を傀儡とした董卓の傍若無人ぶりは、都を恐怖で覆いつくし人々から笑顔を奪い去った。そんな董卓を討つべしと立ち上がったのが、のちに魏の礎を築く曹操孟徳であった。

 曹操の檄文により集まった諸侯たちの連合軍は、数十万に及んだ。その連合軍は袁紹という名家の当主を総大将に董卓を討つべく都(洛陽)へと進軍。

 その進路に立ちはだかったのが、汜水関と猛将華雄であった。

 華雄の勇猛ぶりは凄まじく、連合軍の武将たちは次々と討ち取られ、孫策の父孫堅もあわやというところまで追い詰められる。しかし、祖茂という忠臣が身代わりになることでかろうじて難を逃れたほどであった。

 その華雄を当時一兵卒に過ぎなかった関羽は、すれ違いざまの一刀で討ち取ってしまったのである。

 

「正直、当時の俺にはあの華雄はとても勝てる相手には見えなかった。その華雄を歯牙にもかけずに一刀のもとに斬り捨てたあの姿……」

「伯符! 落ち着け! 相手は関雲長だぞ、今までどおり連携して……」


 震える孫策をなだめるように周瑜が声をかけるが孫策はその言葉を遮って叫んだ。


「滾るぜぇぇぇ! あまりの喜びに震えが止まらねぇ! あの時の若造だった頃とは違う! さあ、おっぱじめようぜ!」

 

 孫策は獰猛な笑みを浮かべて剣を抜く。


「伯符!」

「わ~ってるよ! 俺は俺の好きなようにやる、適当に介入してこいや!」


 興奮から頭に血が上り、今にも飛び出しそうな孫策を必死になだめつつ、周瑜は孫策が冷静になる時間を稼ぐべく関羽へと問いかける。


「関将軍、先ほどの洪水。まともに受けたように見えましたが? どのようにしてそのようなところから」


 周瑜も必ずしもあの技で終わるとは思っていなかった。しかし、岸に上がってくるのは流されたあと、つまり下流からだと思っていたのだ。

 あれだけの勢いの水流を、あの状態からこらえきることなど不可能だと考えていたのである。


「ふむ、教えてやる筋合いはないな。それぐらいは自分で考えたらどうだ? 孔明ならばすぐにでも答えに行き着くと思うが?」

「くっ!」


 関羽の挑発に周瑜が唇を噛む。周瑜の人生において諸葛亮孔明という漢は夢の行く手に大きくたちはだかる壁であった。

 そこを突かれるのは周瑜にとってはこの上も無い苦痛である。


 唇を噛む周瑜を馬上から見おろし余裕を見せている関羽だが事実は違う。

 孫策と周瑜、直接会って話したことはないがその名前と戦場での働きぶりは知っていた。 とても余裕を持って戦えるような相手ではないことは先ほどの攻めを見ても明らかだった。

 そんなふたりが再び連携をして、攻めてくればさすがの関羽でも苦戦は免れないと理解している。さらに言えば、先ほどの攻撃で関羽は少なくないダメージを受けている。

 

だが、裏を返せばあれだけの攻撃を受けてその程度のダメージで済んでいるともいえる。その種を明かせばこうだ。



◇ ◇ ◇


「悪来! 波をかぶる寸前に関羽ごと水中に倒れこむんだ! 一気に川底まで沈むように加減はするな!」


 玄はとっさにVSを操作しながら悪来に指示を飛ばす。


「おい! そんなことしたら!」

「いいから! タイミングを見計らって一気に行くんだ、早くしないと間にあわない! 俺を信じて!」

「わ~ったよ!」


 玄の叫びが終わるか終わらないかのうち、さらに高さを増した大波が関羽たちの真上から叩きつけるようにのしかかってくる。

 悪来はその波に合わせて膝を折り、一気に横向きに倒れこむ。水面に落ちる寸前に何かが顔の周りを覆ったが、直後に真上から激しい圧力が襲い掛かってきたため、思わず目をつぶって息を止めた。

 しかし、その衝撃のあとは大きな圧力はかからず、川底に寝そべり流されまいと力を入れる程度で態勢を維持できていることに気がつく。そこで悪来はこわごわと目を開けてみたのである。

 そこに見えたのは泥が舞っていて、ほとんど先の見通せない茶色い世界。だが体に感じる感触から自分が水底にいるのはわかった。首には関羽の手が巻き付いている感触があり、隣に関羽がいて流れに耐えているもわかった。

 悪来には多少の踏ん張りで耐えられる流れだが、馬よりも体重が軽い関羽にはやや力のいる作業のようだ。そこまで状況を把握して悪来はふと気づく。


「息ができる……」

「ふたりとも大丈夫? ちょっとダメージは受けちゃったけど、なんとかうまくいったね。いま、ふたりの顔の周りを関羽の水術で空気を取り込んだ泡で覆っているんだ。周囲の流れに対しても気休め程度だけど流れを抑制するように術をかけてる。どっちも術のレベルが違い過ぎて長くは保たないけど……」

「あれだけの水量が押し寄せたわりには水中は穏やかなのだな」


 関羽が収まってきた流れにやや力を抜きながら呟く。


「自然のものと違うせいもあると思うよ、術の力を水面近くの水に作用させたんだと思う」


 関羽たちと同じ視点のため部屋が水没している玄は落ちつかない感じで天井=水面を見上げる。


「関羽の術は長くは続かない。水量が増えてて姿を隠してくれている今のうちに上流へ向かって水底を歩くんだ。こうしてる間にも関羽の体力は少しずつ減ってるんだから、これから戦闘になることを考えたら長居はしない方がいい」

「うむ、良い判断だ。悪来行けるか?」

「おう、なんとか歩けそうだ」


 玄の言葉に頷いた二人は流されないよう重心を低く保ちつつゆっくりと上流へ歩いていく。そして、ある程度上流に歩いたところで静かに中州に上陸したのである。


 危機を脱して、体の調子を確認しながら周囲を確認した関羽たちは孫策と周瑜が下流を意識しながら川べりに立っていることに気が付いたのである。

 ふたりは関羽たちにまったく気が付いておらず、その時点で関羽には大きなアドバンテージがあった。相手の初手をうまく凌ぎきったことでうまれたわずかなアドバンテージである。そのアドバンテージを得たことで関羽にはいくつかの選択肢を得た。


 ひとつめはこのまま相手を避けて中州の反対側へ回って逃げること。

 ふたつめは悪来で一気に駆け寄り、油断しているふたりを問答無用で斬り捨てること。

 そして最後は……相手を正面から打ち破ること。


 しかし、冷静に考えて逃げる選択肢はリスクが大きかった。中州の反対側から渡河を試みても、見つかれば再度同じように術を使われる可能性もあるし、今度は背を向けながら渡河することになるため、無傷で凌げるとは思えない。

 ふたつめの選択肢、すなわち奇襲からの攻撃。関羽はこの選択を選ぶのが正解だった。 相手の力量からすれば避けられる可能性はあるが、少なくとも態勢は崩せるしうまくいけば一人を戦闘不能、もしくはそれに近い痛手を与えることができたかもしれないのだから。

 だが、関羽も悪来もそれを選ぶことはしなかった。負けられない戦いであることは関羽も十分に理解している。それでも『無防備な背中に斬りつけるような戦いはしたくない。 それは関羽雲長の戦ではない』そう言った関羽を玄も信じることにしたのだ。


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