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ゲームに三国志の武将が封印されていたから解放するために戦ってみる (旧題:三国志~武幽電~)  作者: 伏(龍)
第2章

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33 大波

◇ ◇ ◇


「悪来、大丈夫?」

「問題ねぇ、首が長いってのは結構便利なもんだ。体が沈んでも息継ぎには困らねぇ」


 玄の心配そうな声に対して悪来の返答は軽い。無理をしている様子はないので、どうやら本当にまだ余裕があるらしい。とはいっても関羽たちはようやく中州までの距離の半ばを過ぎたところである。いまのところVSへの反応もなく、水の中からなにかが襲ってくるようなお約束もないが、まだまだ油断ができるような状況ではない。


「このままなにもなければいいけど……」

「玄よ、それは楽観にすぎるな」


 思わずこぼれた玄のつぶやきに、右手で手製の薙刀を左手で悪来のたてがみを軽く握りながら川を渡る関羽が答える。腰まで水に沈み、水の抵抗や波に晒されているにもながらもその騎乗姿にはまったく危なげがない。


「え?」

「おぬしのいう、ルールとやらを戦術の中に組み入れて現状を考えるならば……次のエリアとの境界は中州の中央付近になる」


 玄は関羽には見えないことは承知の上で頷く。


「そして、そのあたりは木々が繁っていてこちらからは見晴らしが悪い。そこへ兵を伏せておけば、相手に存在を気取られぬのではないか?」

「あ……そうか、確かに。本当なら新エリアに入るときは、なるべく目視で安全を確認できるところから入るのが安全な方法だけど、今回はあの中洲を迂回することはできない……なぜなら中州を経由しないで渡河をするのはもっと大きな危険をともなう。でも、もし襲撃者が渡河する人たちのそんな心理にまで考えが回る人物だったとすれば……」

「この機会を逃すはずはなかろうな。おそらく悪来も無意識に危険を感じたからこそ、私を背に乗せたまま行こうとしたのだろう。どうやら悪来もわが義弟に似た直観力を持っているのかも知れんな」


 関羽が悪来の首を軽く叩きながら苦笑を浮かべる。


「でも、ちょっと待って。ということは、もし俺が逆の立場だったら」


 玄は腕を組むと考えを巡らせる。


「まず……相手を渡りきらせるのは得策じゃない。でもあまりに早く手を出して引き返されても意味がない。ということは、引き返すには進みすぎていて、目的地にはまだ遠い。そして長い距離を泳いで疲弊し始める頃、そして弓を持っていた場合の射程」


 玄がぶつぶつと呟きながら必死に考えている様子を感じたのか、関羽は少しだけ口角を上げて髭を揺らす。


「つまり……中州まで残り半分を切ったいまからが徐々に危険区域ってこと?」

「まあ、そんなところだろうな。無論、可能性の話だ。しかし、このあたりを根城に戦っている者がいるとすれば、ここは攻めるに難く、守るに易い。唯一の有効な手段である兵糧攻めがここでは通用しないということもある」


 フィールド上の武将たちは、基本的に戦闘をしてダメージを負わなければ疲労も空腹も感じないため、食糧や休息などの補給は必要ない。


 ダメージ適用の例外としては水や火、岩などの罠属性があるものが絡んだ場合は体力を消耗する可能性がある。たとえば水に潜ったり、泳いだりすることはこれに該当する。水の罠に嵌まり洪水に巻き込まれればダメージを受けるように、状況が似通っているだけでダメージが適用される可能性がある。

 ヘルプの説明によれば、山道を登っててもダメージは受けないが、崖をよじ登ればダメージを受ける。水に浸かってもダメージは受けないが、潜ったり泳げばダメージを受ける。 火に関しては現実と同様で、触れればダメージを受けてしまう。

 ただ、いまの関羽の状況は水に浸かってはいるが、泳いでもいないし潜ってもいないためライフは減少していない。


「そっか、周りが水に囲まれてることは不利にならないのか。補給は考えなくてもいいし、大人数との戦いじゃないから周りを取り囲まれて退路を失うこともない……」

 

 玄と関羽が警戒を強めている間にも、悪来は力強く水をかき続けとうとう中州まで数十メートルというところまで到達していた。


「ふむ、頃合だな」

「え?」

 

 キンッ!


 呟いた関羽の言葉に玄が疑問符を返した瞬間、甲高い音が鳴り響く。


「むう! この弓勢(ゆんぜい)ただごとではないな」


 ちょぽんという音の出どころを探ってみれば、折れた矢が川の中へと沈んでいく。どうやら先ほどの甲高い音は、中州の木々の間から放たれた矢を関羽が薙刀で撃ち払った音だったようだ。

だが、同じように周囲を警戒していたはずの玄には、放たれた矢の速度が速すぎてまったくその姿を捉えることができなかった。いくら玄が戦を知らず、目も体も鍛えていないと子供だったとしてもあまりにも異常な速度だった。


「悪来!」

「おうよ!」


 関羽の声にこたえた悪来が泳ぐ速度をあげ、岸との距離をみるみる詰めていく。その間にも鋭い弓なりの音と、関羽が武器を振り回し矢を弾く音が繰り返されている。

 放たれる弓の狙いも、撃ち落とす関羽の動きも恐ろしいほどに正確で、ほぼ全ての矢が関羽に近い所に飛んできて、その全てに関羽は対処をしている。

 

 関羽は飛沫を上げながら薙刀を操り、悪来に当たる可能性のあるものまで正確に叩き落しているが、やはり不自由な状態に加えて相手の力量の高さが関羽を苦しめている。

 典韋と戦っているときですら、ここまで余裕のない表情はしていなかった。

 

 だが、いまの状況では玄にできることはなにもない。少しでも早く水からあがり、自由に行動が取れるようになることを祈るのみである。

 

「よし、関羽。足が着き始めた、もう少し粘ってくれ」

「うむ、確かにただならぬ腕前だが、一矢ずつの攻撃ならばそうそう遅れはとらぬ」


 関羽と悪来の息のあった動きは、敵の攻撃を食い止めつつ確実に距離を稼いでいる。あとは岸に上がりさえすれば、悪来の機動力を活かして一気に距離を詰め、相手を見つけ出して接近戦に持ち込める。


「よし! 行ける」


 悪来が自分の足が川底をしっかりと踏みしめた感触に喜色の声をあげた。関羽もわずかに頷き、薙刀を構えなおす。


ところがいざ悪来が川底を蹴り一気に岸へと上がろうとしたときだった。


「なんだ? 関羽! 波が!」


 いつの間にか、いままで緩やかに流れるだけだった川面が激しく波打っていた。玄たちは関羽や悪来が動き回っていたせいで気がつかなったが、よくよく見てみれば全く関係のない離れた水面までもが大きくうねっている。


「悪来!」

「分かってる! だが、足に波が絡み付いてきやがる! 進めねぇ!」


 関羽たちが立ち往生している間にも波は高くなり、やがて大人の三倍ほどもあるような波が上流から関羽たちに向かってくる。


「やばい! 川でこんな波はあり得ない、不自然だ! 多分誰かの術、でも……川を氾濫させるなんて」

「おいおいおい! どうするんだ関羽」

「むう」


 悪来の焦った声が響くが、さすがの関羽も川の水相手では戦いようが無い。


「悪来!」


 玄はとっさにVSを操作しながら悪来に指示を飛ばす。しかし、その指示を聞いた悪来は抗議の嘶きをあげる。


「おい! そんなことしたら!」

「いいから! タイミングを見計らって一気に行くんだ、早くしないと間にあ」


 玄の叫びが終わるか終わらないかの内に更に高さを増した大波が関羽たちの真上から叩きつけるようにのしかかっていく。


 ドドドォォォ…


 真上から叩き付けるような大波に関羽たちの姿はあっけなく飲み込まれていった。


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