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ゲームに三国志の武将が封印されていたから解放するために戦ってみる (旧題:三国志~武幽電~)  作者: 伏(龍)
第1章

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30 悪来

「く、何を!」

『火鏢乱舞』


 関羽の抗議の声と穴の底から響いた典韋の声が重なる。同時に炎をまとった無数の小柄が穴に飛び込んでいる途中で回避の態勢が取れない関羽へと襲いかかる。その技は関羽が敗北した日に典韋から受けた技だ。

 自身のサブウェポンの小柄を罠の一部として使用していた典韋は、罠を無効化されたときに穴に飛び込んでいた小柄を拾うためにわざと穴に落ち、それを追ってくる関羽を狙い撃ちにしたらしい。

 だが、穴に落ちたとしてもすぐに小柄を手にできるとは限らず、即座に関羽が後を追ってくることを考えれば、うまく技に繋げなければ敗北は必至だっただろう。

 あのままの形で戦い続けても自分の勝機が薄いと悟った典韋は、このまま不利な態勢で戦うよりも、うまくいけば戦況をひっくり返せる可能性に賭けたのだろう。


「まさか……」


 その賭けは完全に関羽の想定外であり、ある意味成功したといえる。だが、穴に落ち必殺技を放った典韋自身も、落下の衝撃と技の対価でかなりダメージを負っている。


 このゲームでは基本的に動き回ることによる疲労はない。だが、ライフゲージの減少については疲労感として動きに影響を与える。そのためライフが減ってきた典韋は襲ってきた疲労感のため肩で息をしている。しかしながら上体を起こして立ち上がろうとする典韋はどこか嬉しそうに口角を上げる。


「あの状況でかわされるとはな……」

「……」


 典韋の視線の先では、不自然な姿勢で穴に落下した関羽がゆっくりと立ち上がろうとしてた。関羽にしてはぎこちない動きをする右足には、ぶすぶすと煙を上げる小柄が刺さっている。


「あの一瞬で拾えた小柄は手元の4本と合わせて7本……俺の投擲に狂いはなかった。狙い通り全て急所に命中するはずだったんだがな」

「……そうだな、お前の攻撃は見事だった。私ひとりならば当たっていた矢も知れぬな」


 関羽はそう言いながら、刺さった小柄を抜いて投げ捨てる。本来であれば出血を助長しかねない行為だが、火属性の技だったためか、はたまた別の理由からか傷口から出血はしなかった。


「ほう……なるほどな。あの不自然なまでの強引な回避はそういうことだったか」


 典韋もまたゆっくりと立ち上がる。


「さて、関羽よ。そろそろ決着をつけようではないか」


 典韋が盾を投げ捨てると、楽し気に笑いながら両手で剣を握る。


「うむ、よかろう」


 典韋の提案に関羽も髭を揺らしながら頷いて薙刀を構える。


「関羽よ、お前は俺が追い詰められていると考えていないか?」


 典韋が言いながら両手で持った剣を正眼に構え続ける。


「確かにここは胸ほどもある深さの穴の底だ、逃げ場はない」


 ゆっくりと剣を振り上げる典韋の身体が白い光に包まれていく。


「だが、それはお前とて同じこと。お前も俺からは逃げられないということだ!」

「まずい、関羽! 相手の必殺技が来る。距離を取って!」


 しかし、慌てる玄の声に関羽は小さく首を振った。


「無理だ……あやつの言うとおりこの狭い空間では逃げ場はない。穴から出ようとすれば無防備な背中を晒すだけだ」


 関羽は静かに答える。


「そのとおりだ、どうもこの技は威力がでかい代わりにタメが長いらしくてな、よっぽど状況が整わないと使えない」

「くそ! 誘われたのは俺たちの方か!」


 玄は舌打ちをするとVSを握りコマンドを入力し始める。


「関羽、典韋の技をただ正面から受け止めるのは危険すぎる。こんな至近距離じゃ普通に受けても受けた武器ごとやられかねない」

「……」

「逃げられない以上、迎え撃つよ! こっちも必殺技で」

「ほう……よかろう! それがここでの戦い方なのだな。玄! 此度のいくさでのおぬしの采配は見事だった。おぬしとの同盟、今ここで受諾する! 存分に我を使い見事あやつの技受けきって見せよ!」


 高らかに笑いながら関羽が天に向かって叫ぶ。


「関羽……今、俺の名前を……」


 関羽の言葉に玄は、身体の底から湧き上がってくる歓喜を抑えきれず、思わず口元がゆるむ。しかし、そんな歓喜もこの危機を乗り越えられなければ意味がない。

 玄は気を引き締めなおし、VSに残りのコマンドを入力する。


「行くよ関羽!」

「応!」


 関羽は薙刀を構え典韋を見据える。典韋の身体からの放たれる光はさらに光を増し、全てが剣へと注ぎ込まれていく。

 

「おおおおおおおおおおおおおおお!」


 典韋のうなり声が響く中、関羽の身体からもうっすらとほの赤い光が立ち上る。


『火旋撃』


 呟いた関羽の声に呼応するかのように光は勢いを増し、薙刀の周りを炎となって取り巻いていく。


「いくぞ! 関羽! これが俺の最後の攻撃だ! 『剛刃』」


 輝く剣と一体となって典韋が関羽へと大上段から切りかかってくる。


「な、なんて威圧感だ……きっととことん武器特性に特化したパワー型の必殺技」

「臆するな玄! 臆せばその威力を減ずるぞ」

「お、おう! わかった、ぶちかませ! 関羽!」


 玄の言葉に、にやりと笑った関羽が雄たけびをあげ、炎をまとった薙刀を典韋の攻撃に合わせて同じように上段から振り下ろす。


 カッ!!


 ………………………………………


 ふたりの攻撃がぶつかり合った瞬間、白光が全てを覆い隠し全ての音が途絶える。


「か、関羽!」


 光にくらんだ目をこすったり、瞬きしながら視力を素早く回復させた玄が見た光景、それは武器を正面で打ち合わせた姿勢のまま、彫像のように動かない関羽と典韋の姿だった。

 関羽の背後は激しく地面が抉られており、典韋の技のすさまじさを物語っていた。


 しばし、ふたりは交えた武器越しに睨み合っていたが、やがて……同時に膝を落とす。


「俺の、負けだ」


 かしゃぁぁん 


 と、典韋の手から滑り落ちた剣が地面に落ち音を立てる。同時に典韋はゆっくりと関羽に身体を預けるようにして倒れていく。関羽は持っていた武器を離すと、典韋をしっかりと受け止め、静かに横たえた。


「よい勝負であった」


 関羽のライフゲージもレッドゾーンまで減っていた。平気そうに振舞っているが、今も全身には耐え難い疲労感が襲っているはずで、決して楽な戦いではなかった。

 典韋の剛刃を関羽の火旋撃がある程度相殺したのだろうが、どちらにしろ二つの技は正面からぶつかってふたりのライフにダメージを与えた。あとは直前のライフが関羽のほうが僅かに多く残っていただけ……そんな戦いだった。


「こんな形になってしまったが、お前と思う存分に戦えたことは俺にとって無上の喜びだ」

「典韋。お互い怪しい術など使わず互いの武のみで戦いたかったものだな」

「……いや、これでいい。今ある力を全て発揮し……そして勝つ。戦とはそうい……うものだろう」


 典韋のダメージは見た目以上に重い。徐々に言葉に力がなくなっていく。


「典韋! 聞こえる?」


 玄はその様子を見て、慌てて典韋へと声をかける。勝負がついた今なら典韋にも声は届くはずだ。


「う……む? そなたが関羽の主……か」

「典韋、聞いて。俺はあなたたちの現状をある程度理解してる。だから、なんとかみんなを元の状態に戻したいと思っているんだ」

「ほ……う……」

「配下にするには、あなたはダメージを受けすぎているみたいだけど、本来ならあなたに勝った関羽はあなたをなにかに変えて自分のものにできる。でも、あなたたちを解放したいと思ってる俺たちはこのまま、あなたを見送ることもできる。だから、意思を聞かせて欲しい。このまま眠りに着くのか、それともなんらかの形で関羽の力になってこのゲームの武将たちを救うために一緒に戦うのか」


 必死に典韋へと語りかける玄を身ながら茜は、そんな玄の行動はまだるっこしい手続きだと思う。玄たちは命を懸けた勝負の勝利者として、否応なくアイテムに変えることができるのだ。ならばそうしてしまえばいい。そのほうが『武将たちを解放する方法』という答えに行き着くために大きな力になる。

しばらくアイテムとしてゲームに縛り付ける状態になってしまうことになるかも知れないが、最終的に答えに行き着けば皆が解放されることになるのだから。

 なのに、馬鹿正直に意思確認をしてしまう玄。そんな玄を茜は誇らしくも思う。


(やっぱり玄はかっこいいよ)


 茜は玄に聞こえないように呟く。


「我ら……を、解放する、だと? く、くくく……関羽よ、これはまた面白いやつにあたったな」


 典韋が身を震わせ笑う。


「ふん……否定はせん」

「よか、ろう。この身、何かの役に立つのなら持ってゆけぃ!」


 典韋が最後の力を振り絞るように叫ぶ。


「ありがとう、典韋。関羽、俺に考えがあるんだ任せてもらっていいかな?」

「よかろう。玄の好きなようにするがよい」


 関羽の返答を聞いて玄は急いでヘルプを呼び出して典韋になってもらいたいものを告げる。その要望に無意味なハイテンションで応じたヘルプは、すぐに爪楊枝のようなステッキを典韋に向ける。すると、典韋の身体が白い粒子に分解されていく。

 そして、分解された粒子が徐々にまた形を取り始め……




「なるほどな、お主の選択は悪くない」


 関羽が満足げに髯をしごいている。


「このゲームはなるべく序盤にたくさんのエリアを回る必要があるし、少しでも早く孫仁と合流もしなきゃならないからさ」


 照れくさそうに頭を掻く玄の目の前には、真っ黒な毛並みの見事な軍馬が佇んでいる。


「どうやら、俺もしゃべれるみたいだな」

「そうか、生物型のアイテムはしゃべれるってヘルプが言ってたっけ」


 その黒馬へと近寄ると、おそらく無意識なのだろうが関羽は馬の首を撫でながら口を開く。


「典韋よ、なんの因果かこのようなことになってしまった」

「いうな関羽よ、これも勝負の常。遠慮することはないから俺に乗れ。きっと俺は、お前の赤兎よりも速く走れるぜ。それに、どんな形にしろ俺はまだ戦場を駆けられる、悪くない」

「承知した」


 関羽は僅かに髭を揺らしながらそういうと鞍もつけない馬に一呼吸で跨る。


「うむ! 見事だ典韋。乗っただけで名馬であることがわかる」

「かかか! 当たり前だ、俺様は悪来典韋だ。ん……そうだな、これからは俺を典韋と呼ぶのはよせ。軍馬を人扱いしていては隙を招きかねん。俺のことは悪来と呼ぶがいい。そしてあくまで馬として扱え、しゃべる馬だ。もともと馬はしゃべるものだしな」

「え!馬ってしゃべるの?」


 悪来の言葉に茜が驚いて声を上げる。


「厳密には違うな、だが馬は元々頭がいい。きちんと世話をして向き合っていれば人の言葉も解するし、何を言いたいのかこちらもわかるようになる。それすらできないような奴は馬に乗るのは10年早い」


 茜の言葉に珍しく関羽が答える。


「そ、そうなんだ…」

「戦場で命を預けるんだからね。武将たちの馬に対する想いは強いんだよ、一番近くにいる戦友だから」


 玄が茜に説明をしていると景色が流れ始める。


「ちょ、ちょっと待って関羽! どこ行くの!」

「決まっている! 南だ。奥方に合流せねばならん」


 馬に乗った関羽は手綱もないのに見事に悪来を乗りこなして南へと進んでいく。

 まだ林を抜けてないのでさほど速度は出ていないようだが……。


「駄目だ! 今、あなたは傷ついてる。今は戻って休まなくちゃ駄目だ」

「なんのこれしきの傷。怪我のうちに入らんわ」


 しかし、関羽は聞く耳を持たない。


「関羽! 同盟者としてそれは認められない! もし、あなたになにかあれば孫仁だってこれから苦労することになるんだよ」


 玄の叫びを聞いた関羽がようやく馬足を緩めた。


「む! ……そうであったな。それに玄、お主と同盟を結んだ以上はお主の言葉を無視することもできんな」


 関羽はそういって馬を止めると、馬から降りた。しかし、降りた瞬間にほんの僅か着地が乱れたことを悪来は見逃さなかった。


「玄とやらの言うとおりだ関羽。俺との戦いが厳しいものだったと少しは自惚れさせてくれ、お前が休んだ分の遅れはこの俺が取り返してやる」

「悪来……そうだな。お前を破った私が万全でない状態であっさり敗北するようでは、お前に申し訳ない」

「ありがとう、悪来」


 玄の感謝の言葉に悪来は嘶きで返す。


「戦闘を避けるという条件付なら6時間。それだけ待ってくれれば、少しなら移動しても大丈夫だと思う。悪来のおかげでね」

「承知した、ここはお主の言葉に従おう」


 関羽が頷く。


「うん、ありがとう。それから……関羽」

「なんだ?」

「同盟の件、ありがとう」

「なんだ、そんなことか。お前は私に力を示して見せた。その力を私が認めた、それだけのことだ」


 関羽のそっけない言い方が玄にはくすぐったく感じる。


 きっとその言葉が全て。彼らの言葉には虚飾がない、だからこそ心に響く。


 そんなどなぜか初々しく感じるふたりのやりとりを聞いていた悪来が冷やかすように嘶きを上げた。


改稿版 第1章はここまでです。

ストーリーは変えずに描写などの改稿が主でしたが、以前のものよりも面白くなっていたら嬉しいです。

第2章はまた作業がある程度終わった段階で連続投稿していきたいと思います。



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