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ゲームに三国志の武将が封印されていたから解放するために戦ってみる (旧題:三国志~武幽電~)  作者: 伏(龍)
第1章

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29 青竜斬

 木々の間を進んでいた関羽が、玄が推測したとおりの木が生えていない空き地のようなスペースに到達したことを告げる。林の中にぽつんと出現した空き地はほぼ円形。その広さはざっと直径20メートル弱といったところだろうか。

 関羽はゆっくりとそのスペースに足を踏み入れてすぐに立ち止まる。


 そして、関羽の視線のには空き地の反対側には既に剣と盾を構えた典韋が射抜くような視線をこちらへ向けている。


「関羽よ、俺から無様に逃げたお前がまたも俺の前に立つのか?」


 典韋が前回の関羽の失態を嘲笑う。


「むぅ!」


 あからさまな挑発に関羽の赤みがかった顔がさらにその赤さを増す。


「俺に潰された目が見えていないのではないか? だから間違えてここに来てしまったというなら見逃してやる。失せろ!」

「く……ぉのれ! 典韋! この関雲長を侮辱するか!」

「侮辱? 勘違いするなよ関羽。俺はお前に『情け』をかけてやってるんだ……無理することはない、『また』逃げればよいではないか」


 度重なる典韋の挑発に関羽の怒りが膨らんでいく。だが、その怒りのボルテージとは対照的に関羽の表情が消えていき、その足が一歩前へと進もうとする。


「関羽! まさかあんな安っぽい挑発に本当に乗ってる訳じゃないよね?」


 玄の焦ったような言葉に、ぴたっと関羽の足が止まる。


「う、うむ……無論だ」

「そう、良かった。典韋のあの態度からもこの広場には罠があるということがはっきりした」


 広場といってもそこは森の中のスペースであり、張り出した根が落ち葉や雑草で隠されていて足場は悪い。だからこそ、玄は自分の推察が間違っていないと思えた。

 一見して草むらに見える典韋との間の地面、ここに罠が張られているとすればどうやって典韋との間合いを詰めるか。それを玄は考える。


「どうした、関羽。さっさと俺の視界から消えないとまた熱い炎をお見舞いするぞ」


 関羽を罠に引き込みたい典韋は挑発を繰り返している。さっきは玄の言葉に冷静さを取り戻した関羽だが、もともとプライドが高い関羽である。これ以上我慢をさせると思いがけない行動を取りだす可能性を危惧した玄は、すぐに行動を起こす必要があると判断した。


「よし、やってみるか。関羽!」

「いいだろう」

「しょっぱなに俺のほうで一発かます! そのあとの流れはひとまず任せる。俺の操作が入る可能性を忘れないで」


 玄は関羽に声をかけながらVSをしっかりと握りなおす。隣では茜が息を呑んで成り行きを見守っている。


「かます? 何をだ」

「いいから! いくよ」


 玄は不審がる関羽を無視してコマンドを入力する。と、同時に眼前の関羽が武器を構えた。手製の薙刀を大上段に振りかぶって柄を右肩に乗せる。すると関羽の身体から青白い光が立ち上って、関羽の口が勝手に言葉を紡ぐ。


「ぬぉぉぉぉ! 青竜斬!」


 立ち上った光は両手に集約し、武器に流れ込む。そして流れ込んだ光は蒼い竜を形作る。剣呑の雰囲気を纏ったその薙刀を関羽は、大きく一歩を踏み出して眼前の地面へと向けて振り下ろした。

 

 地面へと振り下ろされた薙刀が纏う不可視の力が地面へと叩き付けられた途端、前方の地面が大きく陥没して土砂を巻き上げた。同時に渦を巻きながら解き放たれた蒼い竜が典韋へと向かう。

 その途中、蒼い竜は巧妙に張られていたらしい細い糸を切り、その先にしかけられていた小柄が左右から飛来するが、小柄は実体のない竜をすり抜け、そのまま蒼い竜は典韋へと襲いかかる。


「ぐおっ!」


 眼前に迫る蒼い竜を典韋は、頭部を盾で防御しながら横へ跳んでかわす。目標を失った形になった蒼い竜はその(あぎと)を大樹の幹に喰い込ませると激しい水飛沫を上げて消えた。

 関羽が放った『青龍斬』は水属性のついた必殺技であり、命中すれば水圧と圧縮された水の刃が敵に襲いかかる。その威力は水飛沫が収まったあとの大樹が、その幹の半ばにまで至る鋭利な切断層を見せているほどである。


「くそ! せっかくの罠が!」


 地面に転がった典韋が素早く体勢を立て直そうとしながら、素早く関羽がいた位置に視線を向けるが、そこはまだ吹き上げられた土砂が舞っていて姿を確認できない。


「いかんな」


 典韋は呟くと、態勢を立て直すために林の中へと逃げ込もうと(きびす)を返す。

 

 ひゅん


「うお!」


 しかし、林に駆け込もうとした典韋は反射的にうしろに跳びのく。その鼻先をなにかが小気味良い音を立てて通り過ぎた。それが関羽の攻撃であり、すでに回り込まれていたことに気が付いた典韋は、さらにうしろへと下がり落とし穴だったものがあった陥没地帯の縁まで下がる。


「ふん、癪だがここまではあやつの言うとおりということか」


 振り下ろした薙刀を再び正眼に構えなおしながら呟く。一撃を放ったあとの関羽はその土砂のカーテンに紛れ、罠部分を迂回して典韋の背後へと回りこんでいた。


「さすが関羽の必殺技だな……技を出すまでの隙がちょっと大きいのが気になるけど、使い方次第では大きな武器になる。使用するライフも10%に満たないみたいだし、属性は『水』と『斬』ってとこか。火旋撃も使える機会があればいいんだけど、とにかく勝つのが優先。とりあえず、罠の類は今の一撃であらかた片付いた。こっからが本当の勝負だな」


 技の威力や特性をしっかりと記憶しながら、玄は関羽たちの動きを見逃すまいと更に集中を高める。


「くっ、見ろ! 下手に策などを弄するからこんなことになる!」


 悪態をつきながら典韋が立ち上がり関羽と正対する。その状況は前に関羽、後ろは陥没した地面。関羽が間合いを詰めてくれば横への移動もままならないという窮地。もはや典韋には正面から関羽と打ち合い、有利なポジションを勝ち取るしか道はない。


「典韋よ、先ほどの悪口雑言の落とし前をつけさせてもらうぞ」


 関羽は薙刀を構え典韋の動きを牽制しつつじわりじわりと間合いを詰めていく。


「くくく、関羽よ。あの程度の挑発に腹を立てるとは、俺よりも長く生きたくせに、青い青い」


 典韋は慎重に剣と盾を構えながら、この期に及んでなおも関羽を挑発する。


「ぬかせ! 武人ならば1対1の戦いに姑息な罠など使用せぬ」

「ぐ」


 典韋が言葉につまる。おそらく先ほどの悪態から想像するに典韋自身は罠などを使用せず関羽と戦いたかったのであろう。こんな罠を仕掛けようと提案し、典韋に準備をさせたのは現実世界にいるプレイヤーであるはずだ。

 しかし、典韋はそんなことを言い訳するような漢ではない。


「大人しく縛につけぃ!」


 関羽が薙刀で突く。典韋は後ろへ下がれば体勢を崩すし、左右へ避けても関羽の攻撃が払いに転じて追撃をかけられるだけで逃げ切れない。

 地の利を活かした攻撃である。


「くっ」


 典韋はその突きをあえてかわそうとはせず、盾と剣をフルに活かして攻撃の矛先を反らすと身を低くして関羽の右脇をすり抜けようとした。


「ふん!」

「ぐふ!」


 しかし、関羽はその動きに素早く対応し脇をかすめる典韋に対して左手を武器から離して典韋の背中に強烈な肘を落とした。関羽の体勢は十分ではないが、典韋のほうはさらに不十分な体勢であり、典韋は地面にうつぶせに叩きつけられることになる。


「ぬぉ!」


 叩きつけられた衝撃は軽くはないはずだが、典韋はすぐさま身をひねると関羽の追撃をかわすベく地面を転がる。その素早い反応を見て、関羽はあえて深追いはせず、位置取りを優先して典韋を追う。


 結果、典韋が息を乱れさせながら立ち上がった時には、先ほどと同じく陥没した地面の縁に背に立つ典韋と正対する関羽の図式になっていた。

 関羽は静かな闘気を湛えながら再び典韋との間合いを詰めていく。


「く……」


 それを受け典韋の表情が曇る。行動範囲を制限された上で関羽の攻めを受け続けるのは難しい。


「悪いが勝たせてもらうぞ典韋」

「くく、それは気が早いぞ関羽。できるものならやってみるがいい」


 典韋はそう言うと構えを解き、盾と剣を持ったまま両手を広げる。

 

「ふむ……ならば我の渾身の攻撃を受けてみるがいい!」


 関羽の身体がふっと沈み、姿が霞むほどの神速の突きが典韋の身体の中心へと伸びる。


「ははは!」


 しかし、大声で笑声を上げた典韋はそれを受けるでもなく左右にかわすでもない。ただ、そのまま身体を反らして後ろに倒れこむことでかわしたのである。だが、後ろは腰より深く抉れている穴。

 後ろに倒れこめば関羽の次の攻撃に対して致命的な隙を生むのがわかっている。だからこそ関羽も、常に典韋が悪地形を背負うように立ち回っていたのだ。


「血迷ったか典韋!」


 一瞬視界から消えた典韋の姿を追い関羽は薙刀を構え、すかさず穴に飛び込む。

 

「ば! 関羽待っ……」


 典韋の不自然な行動に疑問を覚えた玄が制止をする間もなかった。玄は直観に従って、反射的にVSを操作、空中での関羽の体勢を無茶な操作でわざと崩すことで身をひねらせた。


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