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ゲームに三国志の武将が封印されていたから解放するために戦ってみる (旧題:三国志~武幽電~)  作者: 伏(龍)
第1章

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25 冷やかし

 なにやら落ち着いた感じの二人を見て、大きな溜息をついた玄はヘルプに問いかける。


「このふたりが、訓練をするためにはどうしたらいい?」

「ん~、そうだな。端末がこうしてふたつあるならさっきみたいに投影モードでやる方法がひとつあるな」


 さっきまでのふたりの暴れっぷりを見て、それならそれでと答える人はそうはいないだろう。


「かんべんしてくれ……」

「やるなら普通はフィールド上で訓練なんだがなぁ……」


 ヘルプがしみじみとつぶやく。しかし、いまだエリアの繋がっていないふたりにはその方法は選択できない。


「しゃ~ないな……特別に倍率を変えてやるよ。玄だけの特別サービスだぜ。ただ、VSは同じ場所に2台必要だからな」

「そっか……じゃあ、今日はここに俺のVSを置いていくか。茜も孫仁と話したいこととかもあるかもしれないしな。でも、音は消せばいいけど、ふたりが動いているのは見える訳だから、落ち着かないかもっていうなら俺が預かって帰るけど?」


 ヘルプの言葉にちょっと考えた玄は、茜に提案する。どちらにしろ関羽は明日までは身動きが取れないので、今日は手元にVSがなくても問題はない。


「じゃあせっかくだから私が預かるわ。まあ、さっきまでの様子を見ると、訓練三昧で話をする時間もあるかどうかわからないけどね」

「了解、じゃあいろいろばたばたして悪いけど頼むな。明日の放課後にはまた寄るから」


 玄は茜にVSを渡すと投影されたままの関羽へと視線を向ける。


「そういうわけで訓練のために、今日はここにいてもらうことになったから」

「よかろう……だが、勘違いするなよ。今回の同盟はそれがしと奥方の同盟。おぬしのことを認めたわけではないぞ」


 関羽の威圧感のある声に玄は毅然と胸を張る。


「分かってる、俺たちの賭けはまだ終わってない。明日……俺のことを認めさせてみせるよ」

「ふん」


 関羽は虚勢とも思える玄のその姿に、僅かに髭を揺らし孫仁と訓練のために戻っていった。


「ヘルプ! 頼む」

「あいよ~」


 気の抜けたヘルプの声と同時に関羽と孫仁は徐々にその縮尺を縮めていく。そして最後には、指人形くらいのサイズまで小さくなる。あとは音を消してしまえば、ふたりが激しく訓練をしていてもさほど気にならないだろう。

 

「玄、さっき関羽さんと話していたのってなに?」


 さっきまでの経緯の説明の中で、玄は関羽との賭けのことまでは触れてなかったので、なにやら緊迫感のあったやりとりが気になったのだろう。


「ん? ああ、俺と関羽の同盟の話か」

「同盟って玄と関羽さんで?」


 玄は苦笑して頷くと、関羽との賭けの経緯を説明した。


「なるほどね……確かに何万って兵士を統率して、ひとつの州を統治していたような人が、私たちみたいな子供に指示されて動くようなことに納得できるわけないものね。レンは戦場には出てなかったから、使う使われるの認識が薄いのかも。そのせいで私と比較的簡単に友人という立ち位置を受け入れてくれたってことかな」

「本来ならそんなの関係なく、VSで操作してしまうこともできるんだけどな。たぶんだけど、そうしているプレイヤーの方が圧倒的に多いと思う。だって、その人たちはこれがよくできたゲームだと思っているんだから……」


 玄は天井を仰いで溜息をつく。実はこのゲームを入手してから溜息の回数が増えたことを本人は気付いていない。


「そうかもね、だからなんとかしてあげたいんでしょう?」

「ああ……」

「じゃ、しっかりしなきゃね」

「おう、任せとけ」


 そういってふたりで顔を見合わせて笑う。


 コンコン


「きゃ……びっくりしたぁ、母さんかな? どうぞ!」


 控えめなノックに茜が返事をするが、なぜか一向にドアが開く気配が無い。


「あれ? どうしたんだろ、母さん?」


 茜が首をかしげながらよっこらせと立ち上がって、ドアを開ける。


「きゃ! びっくりした。あかねちゃん、急にドアを開けるときにはひとこと断ってくれなきゃダメじゃない」


 茜の母が麦茶とお茶菓子を乗せたお盆を手に扉の向こうで固まっている。


「うん、それ意味わかんないから。ノックしたのは母さんだし」

「あら、そうだったかしら。おほほ……それよりあかねちゃん、もう服は着たの? お母さん、すぐに開けたらまずいかと思って廊下で待ってたんだけど……決して、あかねちゃんが慌てて服を着る音を盗み聞きしようとか思ってたわけじゃないのよ」


 母がなにを想像していたのかを瞬時に理解した茜の顔はみるみる赤くなり、ぷるぷると手が震えだす。


「か・あ・さ・ん! 一体『な~に~を』想像して『な・に・を』心配してたのかしら?」

「まあ、あかねちゃん! そんなことお母さんの口から言える訳無いでしょ。もう少し常識で考えなさい」


 真顔で茜に注意をしながら、お盆を円卓においてすたすたと部屋を出ていこうとする茜の母……そして、全身を震わせている茜。その震えは羞恥が半分、怒りが半分。許容限度はとっくに突き抜けていた。


「じょ、じょ……常識がないのはおまえじゃ~!!」


 完全にキレた茜は母親のふくよかなボディに容赦ない右ストレートの一撃を放つ。

【しかし、母のふくよかボディは完全に衝撃を吸収した】


「ほほほ……照れない、照れない」


 まったくこたえた様子がない茜の母は気にもしていない。まあ、吸収されるとわかっているからこその容赦ない一撃なのだろうが。


「あ、玄くん。うちの子に遊びで手を出したらダメよ」

「母さん!!」


 茜の魂の叫びをほほほ、と受け流しながらスリッパの音が階段を下りていく。肩で息をしながらそれを確認した茜は扉を閉めようとして……ため息をついてやめた。いらぬ誤解を受けぬよう開けたままにするつもりなのだろう。まだちょっと顔が赤い。


「ほんとにもう! 母さんが変なこと言うから!」

「まあ、あそこまで飛躍してボケてくれるとちゃんと冗談だってわかるからまだいいんじゃないか」


 玄は笑いながら言う。茜の家族ともそこそこ長い付き合いになってきたが、茜の両親はざっくばらんな性格で、その手の下ネタに分類されるような話も結構出てくる。もっとも、あの明るい感じで言われるので、変ないやらしさや下品さはなく、さっぱりと笑い話で終わるのが茜の両親の凄いところだろう。


「冗談にもほどがあるわよ!」


 まだ怒り収まらぬ茜の語気は荒い。母の言葉で実際に『そんな』シーンを妄想してしまった自分に対する羞恥を怒りに転化しているかのようである。


「落ち着けよ茜。とりあえず、俺が今日来た最大の懸案は落ち着いたし、せっかく来たんだからな、ひと勝負しようぜ」


 玄が茜の部屋にあるゲーム端末を指差す。


「ふふん? いいわよ。今日は負けないわよ! 何から勝負する? ストモン? カチンコ?」


茜が次々とゲームソフトを取り出す。ストモンはストリートモンスターズの略で対戦型格闘ゲーム。カチンコは正式名称カチカチというパズル系の落ちゲーである。

 ソフトを手に不敵に微笑んだ茜は腕を組んで玄を見下ろす。玄はその視線を正面から受け止めるとコントローラーの1つを手に取る。


「ストモンで勝負! 俺はグリフォンを使う」

「甘いわね玄。勝負の前にキャラをばらすなんて、私は伯爵を使うわ」

「あ、きったね! 相性最悪じゃねぇか。まぁちょうどいいハンデか」

「言ったわね! 見てらっしゃい」

 

「あらあら、やっぱりあの二人は色っぽい会話とは無縁なのかしらね~。せっかくちょっと盛り上げてあげようと思ったのに」


 一階へ降りたように偽装して、階段途中で聞き耳を立てていた茜の母は、笑いながら今度こそ本当に台所へと向かう。ドアを開けているせいで階下まで聞こえてくるふたりの白熱した声が妙に微笑ましかった。


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