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ゲームに三国志の武将が封印されていたから解放するために戦ってみる (旧題:三国志~武幽電~)  作者: 伏(龍)
第1章

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24 力試し

「終了だ。と、いってもさっき伝えたこと以外は変わらないけどな。せいぜい、フィールドに出たときの名前の上に玄秋同盟って入るくらいだ」

「君主登録名の一文字目を繋げたのね。どうせなら玄茜の方が……ってそんなことはどうでもいいことか」

「あとは……同盟した以上はなるべく二人で動いた方がいい。となると、まずはふたりがフィールド上で合流することが先決なんだけど」


 玄は茜のVSと自分のVSを操作してフィールドマップを呼び出した。前回、関羽が居たエリアのマスから4マスを挟んだ5つ下のマスが光っている。つまりこのマスが同盟者である孫仁のスタート地点ということになる。

 1マスは10キロ四方、距離にして40キロ以上ある。フルマラソンの選手なら3時間もあれば着くのだろうが、関羽たちの場合は舗装された道路ではない。フィールド上は山あり、森あり、川あり……そして敵あり。そう簡単に行き着けるものではない。

 そして、茜のVSを操作して出した孫仁のステータスは。


『孫仁

 体力:100

 武力:46

 知力:62

 技能: 武器2/馬4/指揮1/術3(風3・水4)

 必殺技: 水花燕舞(術)/氷縛乱武(術・武)

 特殊技能: 孫呉の威光』


 女性にしてはかなりの能力だろう。しかし、三国志の猛将たちを相手にすることを考えれば、数値的にはとても太刀打ちできるとは思えない。

 孫仁の待機日数は初期段階の持ち時間である3日。3日はあるとはいっても、距離を詰めるべき関羽は、ずっとフィールドにいる訳ではないし。そもそも明日の夜まで関羽の怪我は完治しないのだ。そう考えると、関羽が孫仁の待機時間内にそのエリアに到達できるかどうかは微妙なところだろう。


「待機したままで合流するのは、ちょっと厳しいかもね……数時間くらいはフィールドに出る必要が出てきちゃうんじゃないかな。レンの必殺技や特殊技能次第では戦闘もできると思うけど……」

「……そうだな。いずれにしろ、一度はフィールドに出て、そこでの雰囲気と必殺技の試しうちをしておいたほうがいいかもな。実際、短時間の出陣でも待機時間は結構回復するから、なるべく戦闘を避けて早めに戻るようにすれば……」

「関将軍。お願いがあります」


 玄と茜が合流までの問題について、検討を続けていると黙って聞いていた孫仁が突然口を開いた。


「なんでしょう奥方」

 

 主君の妻に対する態度を崩さない関羽は、即座に孫仁の言葉に応える。


「私に稽古をつけてくれませんか?」

「なんと……」


 さすがの関羽もそんなことを頼まれるとは思っていなかったのか、驚愕に髭を揺らす。しかし孫仁の眼は紛れもなく本気であり、関羽もその決意を雰囲気から感じているようだった。


「しばらく剣を握っていなかったものですから、勘が鈍っていると思うのです」

「ですが奥方……」


 関羽にしてみれば大切な主公の伴侶である。実際に戦闘などさせたくはないのだろう。関羽にしてみれば、孫仁を無事に劉備の下へ送り届けるというのは生前に出来なかったことであり、いわば積み残しの課題のようなもの。今回は失敗する訳にはいかない。


「将軍、今の玄殿や茜の話を聞いてらっしゃらなかったのですか? 関将軍とあちらの世界で合流するためにはいくらかの時間(とき)が必要になるとのことです。その間は私ひとりで、その世界で生き延びなければならないのです。ならば、生き残るためにはやれるだけのことをしなければならないでしょう?」

「ですが!」


 孫仁の決意はもっともであり、その覚悟も潔い。しかし、関羽の渋面は晴れない。


「まだわかりませんか?」


 孫仁がふっと息を吐いて微笑んだ……と思った瞬間。


 ひゅん!


「え?」


 茜の間の抜けた声が部屋に響くよりも早く事態は動く。孫仁が今までの優しげな雰囲気とは一変、厳しい表情を見せ驚くほど早い抜き打ちで関羽に斬りかかった。

しかし、関羽は眼が見えていないにも関わらず、喉下を薙いできた孫仁の刃を軽くスウェーして避けた。


「やはり、関将軍はお強いです。私の全力を感じてください!」


 孫仁は一歩引いた形になっている関羽にさらに素早く踏み込むと、下から剣を振り上げ関羽の足元から股間へと切り上げる。


「ひゃ!」


 間近で真剣が振られる、という異常事態に動転した茜が反射的に逃げようとしてバランスを崩して倒れこむ。


「む!」


 そんな外野の動きなどまったく意に介さず、関羽は孫仁の切り上げを更に1歩引いてかわす。


「私は、剣を握ると少しだけはしたなくなるのですわ!」


 かわされた剣の勢いを殺さぬまま、さらに間合いを詰め、そのまま剣と同じ軌道で関羽の股間を蹴り上げるべく左足が伸びる。


「……」


 関羽は無言のまま膝を寄せ、孫仁の蹴り足を止める。だが、孫仁も止められることは承知のうえだったらしく、今度は止められた足で体の流れを抑え、切り上げた状態の剣を1テンポ早く振り下ろすことに成功。大上段から関羽の頭上を狙う。

 対する関羽は蹴り足を止めるために、膝を寄せ重心を落としているためフットワークで避けることができない。


「ふん!」


 関羽はいち早くそうと悟ってか、振り下ろされた剣の腹を右手の平で優しく叩く。剣はそれだけで関羽の頭どころか肩の位置よりも逸れ、床へと叩きつけられる。

 そして、そこには先ほど倒れこんだ茜と玄が……


「きゃぁ!」


 茜が避ける動作すら取れずに小さな悲鳴を上げて目を閉じ何かにしがみつく。しかし、剣は茜をすり抜けていき、その勢いで身体ごと前に回転した孫仁が浴びせ蹴りで関羽の頭部を蹴り砕こうとする。

 関羽はその蹴りを右手の甲で受け止めると、逆に力を込めて押し返す。孫仁はその力に逆らわず、むしろ流れに乗って身体を反り、今度は後方へ一回転して間合いを取った。

 とても、女性の動きとは思えない。素早く柔らかい動きがとまることなく、ひとつ防いでもその動作がまた次の攻撃へ繋がっていく。裾や袖口の広い服装は、その滑らかな動きを阻害しそうにも思えるが、孫仁の大きな動きで袖や裾は随所で広がって相手の視界を幻惑し、自分の急所をわかりにくくしている。

 今の関羽は目が見えていないため、惑わされることはないだろうが、実際に対戦する相手は戦いにくいだろう。


「落ち着け、茜。関羽たちの攻撃が俺たちに当たることはないから。むしろ、彼らの動きにこっちが過剰に反応しちゃうと、どっかにぶつかったりして危ない。さっきも孫仁の剣はすりぬけただろ」

「う、うん……」


 おそるおそる顔を上げて目を開けた茜の視界では関羽と孫仁が向き合っている。


「それに……ちょっと苦しい」

「え?」


 玄の声が下から聞こえる。茜はまさかと思いながら、ぎりぎりと上げていた顔をもう一度下に向ける。


「わ! ななな、なんで玄が私の下にいるのひょ!」

「ひょ! じゃない。自分からぶつかってきておいて……兎のぬいぐるみとでも間違えたんじゃないのか?」

「あ、あはあは。そそそ、そうかもね。ごめんね、びっくりしたでしょ」


 慌てて玄から離れた茜の顔は暗がりで見えても明らかに赤い。


「ま、まあな……とにかく落ち着いてくれ。絶対俺たちが傷つくことはないから」

「わ、わかった」


 玄は茜の頭を優しくポンポンと叩くと、対峙したままの二人に視線を向けた。


「孫仁! その辺にしてくれ、関羽はまだ目が見えないんだ。まかり間違って怪我でもしたら……」

「玄殿? それはとんだ思い違いというものでしょう。今の攻防が見えていなかったのですか? 相手はあの関将軍ですよ。私ごときの相手をするのに、たとえ目が見えなかったとしてもさしたる障害にはなりません」


 孫仁は嬉しそうにそれでいて物騒な笑みを浮かべると、剣を握りなおして再び間合いを詰めていく。今度は態勢を低くしての足元への横なぎの斬り払い。

 関羽がそれを一歩下がってかわすと、さらにその勢いのまま身体を回して今度は右足で足を払いにいく。


「!」


 続けざまの足元への攻撃に関羽は、今度は軽く宙に跳んで蹴りをかわす。


「さすがの関将軍でも空中ではかわせません!」


 跳んで逃げるしかないことを読みきっていた孫仁は、宙に跳んで逃げ道のない関羽に向かって腰につけていた小弓に素早く矢をつがえ、一番避けにくい胴体の中央にまったく躊躇わずに放った。容赦のない至近距離からの一撃。


「ふっ!」


 しかし、関羽はその矢すら空中で掴み取って見せた。


「うそ!」


 茜の驚愕の声。無理もない。玄自身も、いまの攻撃は関羽に命中すると確信していた。それ程に計算された攻撃だった。それなのに、孫仁の攻撃はまだ終わらない。 

 孫仁は自分が射った矢の結果を確認もせずに、弓を投げ捨て再び剣で関羽の着地を狙って裂帛の突きを繰り出した。タイミング的に着地してからの回避は間に合わない。

 しかし、いつも関羽は玄の常識では考えられないような動きをする。


 このときの関羽は、孫仁の突きに対し避けられないと察するや、先ほど掴み取った矢の(やじり)で孫仁の渾身の突きをはじいた。そして、体勢を崩した孫仁の袖口をそっと掴んでふわりと投げたのである。

 もちろん、そんな投げでどうにかなる孫仁ではなく、優雅に体を捻って着地を決める。そして、ほつれた髪をさっと直すと妙にすっきりとした顔で微笑んだ。


「やはり、まったくかないませんでしたね」

「いえ、この関羽。正直奥方をみくびっておりました。その動き、戦術いささか我流の感はあれど、ひとかどの武将に劣らぬものでござった」


 関羽の声もどこか清清(すがすが)しい。先日の敗戦でもやもやしていたものが孫仁との打ち合いで解消されたようだ。


「ただ最後は突きではなく、もう一度流れのある技を仕掛けるべきでしたな。奥方の技のよいところは、変幻自在の動きと円の動きによる連続攻撃。相手に手傷を負わせ、本当にとどめをさせると確信できるとき以外は、うかつに隙の多い技を使うべきではないと思います」

「はい、それをお教えください」

「む!」


 その言葉に優しく微笑みながらそう返した孫仁に、すっかり乗せられたことに気づいた関羽は髭を揺らして苦笑する。


「……やむをえません、訓練の指導をお引き受けしましょう。確かに、奥方と合流するまではなにがあるかわからぬゆえ、護身の術は必要です」

「ありがとうございます、関将軍」


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