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ゲームに三国志の武将が封印されていたから解放するために戦ってみる (旧題:三国志~武幽電~)  作者: 伏(龍)
第1章

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23 同盟

 関羽はおもむろに立ち上がると、目が見えていないにも関わらず正確に孫仁の前に片膝をついて頭を下げた。


「お久しぶりでございます」

「そんな! 関将軍、顔をお上げください。結果としてあの方の下を離れてしまったわたくしに礼を尽くされる必要はありませぬ」


 孫仁は慌てて関羽の肩に触れて身体を起こそうとする。


「そうはいきませぬ。確かに奥方のなされたことは浅慮だったかもしれませぬ。しかし、殿より奥方のことを頼まれていたにもかかわらず、むざむざと呉の偽計に嵌まってしまったのはそれがしの責任」


 想像していた状況と全く違う。玄は想定外の成り行きに、あっけにとられて状況を見守ることしかできない。


「そうではありませぬ! あれはわたくしが悪いのです。あの方と長く離れ、心のどこかに寂しさや不安が募っていたのです。そんなときに母の話を聞いて、つい会いたくなってしまったのです。そして、関将軍に一言の相談もせずについ荊州を飛び出してしまったのです」

「違いまする。そのお気持ちに気づかなったことこそが、それがしの怠慢。それがゆえに、奥方には辛い想いをさせ申した」

「おやめください! 関将軍! いっそ……いっそ責められた方がどれだけ楽か」


 孫仁が袖で顔を覆う。呉の国に帰ってから以降ずっと胸のうちに溜まっていたものが、思いもかけぬ関羽の言葉に一気に溢れてきてしまったのであろう。

 おそらく関羽が激昂して、責め立ててくることには覚悟はできていたはずだが、あの関羽が自分を労わり謝罪してくることなど夢にも思わなかったに違いない。


「奥方……なぜそれがしが奥方を責められましょうや。確かに殿と仲睦まじくされるおふたりを見て、天下の志はどうした! と殿を責めたくなることもありましたが……いきさつはどうあれ、殿が奥方を大切に思っておられたことはこの関羽、承知しておりました」

「関将軍……」

「なればこそ、それがしはなんとしても守らねばならなかったのです。それにも関わらずそれがしは奥方だけではなく、荊州までも失い……結果として殿を、兄者を死地へと追い詰めてしまいもうした」


 玄は孫仁と同じように、関羽もまた深い後悔に苛まれているのだと始めて理解した。

 玄の前では心を許さず、また武人として後悔を口にするなど誇りが許さなかったのだろうが、劉備の妻という孫仁の立場、そしてまた孫仁も後悔に苛まれていたという事実につい関羽も心情を吐露してしまったのだろう。


「玄……私、なんだか少しわかった」

「茜?」


 隣にいた茜が声を少し震わせながら言う。

 玄が茜へと視線を向けると目を潤ませながら茜が三国時代の二人の英雄を見つめている。


「あなたが言ってた『本当の戦い』の意味。武将の生き様を感じろってこと」

「……そうだな。俺も武将の生き様なんて言ってただけで関羽たちに出会うまで何にもわかってなかったんだと思ったよ」

「なんとかしてあげたいわよね」

「ああ……なんとかするさ」

「かなりやる気出たかも!」


 そう言って、目元を拭った茜は沈黙していた二人の武将に向かっていく。


「はじめまして、関羽さん。私の名前は森崎茜。偶然だけどレンと組んでこのゲームという名の戦いに一緒に関わることになったの。既に玄から少しは話を聞いてると思うけど、私たちはあなたたちを何とか劉備さんたちに会わせてあげたいし、こんな状態のあなたたちをなんとかしてあげたいと思ってる。そのためには目的が同じ者同士、助け合っていきたいの。レンと関羽のふたりに聞くわ。私たちが同盟することに同意してくれる?」


 こういうとき、玄は必要なことをためらわずに言える茜をうらやましいと思う。


「奥方?」


 関羽は不躾とも取られかねない、まっすぐな茜の言葉に顔を孫仁へと向ける。


「関将軍、わたくしも是非、力を貸して欲しいと思っています」

「……わかり申した。この関雲長、今度こそ奥方をお守りし、我が殿と引き合わせてみせましょう。全てお任せあれ」


 立ち上がって関羽が力強く頷く。


「お待ちください。関将軍、茜は同盟しようと言ったのです」

「?」

「わたくしは生前の地位や、女という身分を言い訳にして、関将軍にただ守ってもらうだけなのは嫌なのです」


 孫仁が関羽を見上げてきっぱりと言い放つ。


「ですが、奥方」

「あの方と出会った頃のわたくしに戻りとうございます。そして、自らの力でこの戦いを乗り越えねばあの方に合わせる顔がございません」

「……わかり申した。奥方がそうまでおっしゃるのであれば、それがしもそのつもりでお助けいたします」


 関羽は静かに頭を下げる。


「すみません。わたくしなどは後ろに隠れていた方が関将軍が自由に戦えるのは承知しています。それでもわたくしは戦場に立ちたいのです。弓腰姫と呼ばれていたとはいえ、それは周りが面白がってのこと、わたくしの武芸など将軍たちの足元にも及びません。迷惑をかけると思います。ですが、()のわがままを助けてください」


 孫仁の目は決意に満ちている。少し前までの儚げな雰囲気はもはやない。


「承知」


 関羽が頷くのを見て玄は内心で胸を撫で下ろした。もっとぎすぎすとした場面を想像していただけに、思いがけずあさりといい方向に予想が外れたことは嬉しい誤算だった。


「ヘルプ!」

「はいよ~!」


 同盟の合意がなされたと判断した玄はヘルプを呼び出す。


「まあ、別にいいけどね……おまえがどんな格好してようとさ」


 のんきな声で現れたヘルプの顔には「三萬」と書かれ、雀牌の背中からは4枚の光る羽が生えている。

 三萬の三の両脇にある黒い●が目のようだ。


「なに言ってやんでい! 玄が妖精をうらやましそうに見てやがったからちょっとアレンジしてやったってのによ」

「ぷっ、玄の何それ」


 滑稽なヘルプの姿に思わず吹き出す茜を、故意に無視した玄は呆れた顔のままヘルプに告げる。


「はいはい、もういいから。今ここで同盟を結びたいんだ。手続きをしてくれ」

「はいよ、同盟ね……って、ぬわ!」


 虚空からメモ帳を取り出して普通に手続きに入ろうとしたヘルプの視界に関羽と孫仁の姿が目に入る。


「まじ? 日本全国に100本しかないのにリアルで同じ場所に2人の武将が?しかも、レン姫……ってか? 玄の縁を結ぶ力とでもいうのかね、面白くなってきたやん」

「あら? その呼び方……」


 ぶつぶつと呟くヘルプの言葉を耳にした孫仁がぷかぷかと浮かぶヘルプに視線を向ける。


「お~しゃ!! さ、同盟すっぞ! 同盟」

「な、なんだよ突然大きな声出して! わかったから早くやってくれよ」


 孫仁の言葉を遮るようにメモ帳を振り回しながらヘルプが手続きの説明に入る。


「おう! 同盟の手続きなんてのは、俺が申請すればそれで終わり。それで、ふたりの勢力は一体化される。あとはそれ以外の君主たちに勝利すればいい。ふたりがそれぞれ行ったことのあるエリアは共有されて全て到達エリアとして扱われる。本来ならフィールドで出会うはずだから、ふたつのエリアは繋がるはずなんだが……リアルで同盟を結ぶなんて可能性は考えてなかったからな。多分飛び石で到達エリアが表示されるはずだ。だからフィールドで合流できるのは、そのエリア同士が繋がってからってことになる」


 ヘルプが一気に同盟時の注意事項をあげていく。


「なるほど、現実世界でプレイヤー同士が出会う確率なんてほとんどないはずだもんな。でも、そうすると場合によっては孫仁も最初は一人で出陣しなきゃいけないことになるかもしれないな」


 玄はさっそく今後の行動について思考を始める。


「あとは、同盟者同士で協力して戦ってもいいし、いやになったら破棄もできる。だがその際は自分で行ってないエリアは到達エリア扱いじゃなくなるから気をつけな」

「でも、同盟する利点ってエリアを共有できるってことと一緒に戦えるってことしかないの?」


 茜が疑問を投げかける。


「簡単に言っちまえばそうだ。だが、戦って勝利した武将を仮に仲間に加えたとしても、その能力値はかなり制限を受ける。必殺技や術も使えなくなるし、ステータスも半分程度になると思っていい。だが、同盟なら武将の能力をフルに出して戦える。それは結構大きいと思うぜ」

「なるほどね。それにしても玄のガイドはよくしゃべるうえに、随分なつっこいわね、格好も変だし」

「ふん! ほっとけ。おい、玄! 同盟するんでいいんだな?」


 ヘルプの最終確認に玄は頷く。


「じゃ、締結するぞ」


 そう言うとヘルプは取り出したペンで物凄い勢いでメモ帳に何かを書き込んでいく。 やがて、何かを書き込まれたメモ帳から粒子が溢れ出し関羽と孫仁を包み込んだ。

 光の粒子はすぐ消えたが、特に二人に変わったところはない。


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