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ゲームに三国志の武将が封印されていたから解放するために戦ってみる (旧題:三国志~武幽電~)  作者: 伏(龍)
第1章

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15 典韋

「ぷはぁ~!」


 あまりの緊張に息をするのも忘れていた玄もようやく息をつぐ。いまのほんの一瞬のやりとり。典韋は右肩と腹部に打撃を受け、関羽は鉄山靠による当身を受け、さらに額に一撃を受けている。

 しかし、いずれも打撃による攻撃であり、斬撃によるものではない。ふたりの猛将たちにとって(いくさ)とは本来、敵をひとり倒して終わりというものではない。より多くの敵を倒し、軍を勝利に導くのが戦なのだ。

 ひとりと戦い大きな傷を負ってしまえば、次の相手に不覚を取りかねない。将として戦線を離脱するような、大きな怪我をしてしまうことは軍の士気を下げ勝敗を左右してしまう。


 典韋が最初に受けた右肩の打撃も下がって避けようとすれば、薙刀の間合いからは逃れられず、致命とはいえないまでも今後の戦いに差し障る程の傷を負っていたかもしれない。 関羽にしても、剣での攻撃には確実な打ち落としや回避を選択するが、相手の攻撃方法によっては、あえて受けきることで相手の隙を突こうとしているように見える。

 結果として、ふたりには多少のダメージはあるもののこれからの戦いには影響がない。むしろ今までの戦いは小手調べであり、こここからが本番ともいえる。


「これが命の懸かった戦い……」


 玄は圧倒されつつも目が離せない。きっと不謹慎なんだろうと思っていても、湧き上がる熱いものが身体を震わせてしまうのだ。

 そんな玄を尻目に、再びふたりは裂帛の気合とともに激しくぶつかりあう。その戦いは激しいながらも、流れるように自然で、一連の流れに全く淀む部分がない。

 その様はまるで、ふたりで決められた演武をしているかのようである。しかし、実態は一瞬の判断ミスが命取りとなる生命を懸けた戦い。それはまさに死合い。


 互いに激しく攻防を入れ替えながら、典韋は盾で押し返し、ときには剣で受け流しつつ隙を窺い、関羽は素早い突きで相手を翻弄したかと思えば、大振りの一撃で相手の体勢を崩そうとする。どちらも決定打を出せないままに、二十合以上も打ち合ったころでどちらからとも無く再び間合いを取り、十歩の距離で動きを止めた。あれだけ激しく動いたのに二人の息が切れている素振りはない。

 それが鍛錬のたまものなのか、システム的な理由かは分からないが、きっとどちらでも同じことだ。


「もう一度言おう。さすがだな関羽」

「ふん、まさかお前と戦う日があるとは思わなかったぞ、典韋」

「俺はずっと、戦ってみたいと思っていた。お前だけではなく、張飛や趙雲(ちょううん)、そして呂布(りょふ)。豪傑とうたわれていた奴らとな。俺はまだまだ戦い足りん」


 曹操を守る役目についていた典韋は、戦場でその力を存分に発揮する機会を多く与えられることがないまま命を落してしまった。曹操の護衛として、主君の命を救ったことは誇るべきことだが、ひとりの武人としては悔いの残る生涯だったのだろう。


「よいのか? せっかくの機会、早々にこの関雲長を相手に選んでしまっても。瞬く間に再びあの世に旅立つ事になるぞ」

「戦って果てるならそれもよし。幸い現世の恨みはここで果たせたことだしな」


 そうして左手に持った丸盾を掲げてみせる典韋の表情はどこか誇らしげだ。


「見ろ! これが俺たちを罠にかけた張繍(ちょうしゅう)のなれの果てだ」

「なんだと? ……どういうことだ?」


 関羽が怪訝な声で聞き返す。


「知らんのか? 我らは戦いに敗れれば、敗北した相手に絶対服従を強いられるか、もしくは相手の望む物に変えられてしまうことを」

「………」


 黙り込んだ関羽に動揺は見られないが、その言葉を聞いた玄は落ち着かない気分になる。 ヘルプよりシステムのレクチャーを受けたときに、玄はその事実を知っていたからだ。

 別に隠すつもりはなかったのだが、負けたら終わりのこの世界に挑むのに、負けた後のことを知らせても仕方がないと考え、あえて伝えてなかったのである。


「変えた道具は、もとの相手の能力が高ければ高いほど性能のよいものに変わる。まあ、賈詡(かく)がいなければ何もできないような奴だ。こいつもたかが知れてるがな」

「なるほど、ならば貴様を倒せば、土間を掃く箒くらいにはなりそうだな」


 関羽が顎髭をしごきながら典韋を挑発する。


「この俺を雑魚扱いするつもりか……」


 典韋の目に剣呑な光が灯る。身につけた自分の力を存分に発揮できずに、表舞台から退いてしまった典韋には、挑発だと分かっていても聞き捨てならない挑発だろう。


「ふん、この関雲長にしてみれば全てが雑魚よ!」


 傲慢とも取れる言葉を言い放ち、即席をおもむろに振りかぶって、袈裟に振り抜いた。


「ぬおっ!」


 関羽の振り下ろしの剣風は、十歩離れた典韋の所まで強く届く。しかし、典韋の表情は一瞬の驚愕の後、歓喜に変わる。


「ふははははっ! これだ! この感じ、俺はこういう戦いを思う存分にしたかった!」


 叫んだ典韋は、玄の目には霞みそうな速さで関羽との間合いを詰めて斬りかかる。関羽はその上段の斬り下ろしを、再び槍の柄の部分で受け流す。正面から受け止めてしまうと場合によっては柄ごと斬られてしまうからだ。

受け流した体勢から素早く関羽は攻撃に転じ、鋭く典韋の脇腹を突く。典韋はそれを丸盾で防ぐと力で押し返し、更に斬りかかる。


 斬り、払い、突き、そのどれもが凄まじい速さで、虚と実とを織り交ぜて繰り出される。 史実における典韋の勇猛さが今! ここで! まさに玄の目の前で証明されている。

 関羽の身を案じながらも、その戦いを間近で見れていることに玄は、再び湧き上がってくる感動を抑えきれず身震いする。そして、何よりも玄を驚愕させ、胸を熱くさせているのは、そんな典韋の猛攻を受けている関羽の動きにまだ余裕が見られることだった。


「……凄い」


 一瞬たりとも目の離せない二人の攻防に夢中になりながら、本当に関羽は自分の力だけで目的を達成するのではないかと思い始めていた。だが、関羽にも伝えたとおりそれならそれで構わなかった。一度負けることが前提の賭けなんか成立しないならそれにこしたことはない。


 そんな二人の攻防に変化が起きたのはさらに十合ほど打ち合った頃だった。関羽の大上段からの振り下ろしを、素早く身を捻ってかわした典韋が、自分の背中を通り過ぎて地を打った関羽の武器を後ろ向きのまま蹴ったのだ。


「ぬっ!」


 その結果、短い呻きと共に関羽の手から薙刀が飛んだ。


「やばい!」


 関羽の戦いぶりにすっかり油断して、VSから手を離していた玄は慌てて手を伸ばすが、伸ばそうと思った時には、関羽の胸めがけて典韋の剣が真っ直ぐに突き出されていた。


「!」


 思わず目を閉じてしまった玄が、慌てて目を開けたときそこには……。


「え? 何で典韋の方が倒れてるんだ?」


 関羽の斜め前方で、尻餅をついた典韋が盛大な歯ぎしりをしながら関羽を睨みつけている。そこでは自分の胸の前で、両手に挟んで持っていた典韋の剣を、関羽が持ち直している所だった。


「……つまり、典韋のあの突きを白刃取りして、なおかつ剣を握ったままの相手を剣ごしに投げ飛ばして剣を奪ったってこと?」


 いったい、どういう鍛錬をすればそんなことができるのか。というよりそんなことが可能なのか。しかし、現実は目の前にある。関羽は持ち直した剣の切っ先を、体勢を崩したままの典韋へ向ける。


「ここまでのようだな……典韋」


 思いがけない戦いの成り行きに一時呆然としていた典韋だがゆっくりと間合いを詰めて

くる関羽に不敵な笑みを浮かべた。


「確かにそのようだな……しかし」


 素早く後ろに倒れ込んだ典韋はそのまま後転し、その勢いで大きく後ろに跳んだ。


「なにもなかった、あの時とは違う!」


 叫んだ典韋は迷い無く関羽に背を向けて走り出し、緩やかに右に曲がる道に消えた。典韋がその生を終えたとき、典韋は敵の策にはまって愛用の武器も、防具も手元になかった。

しかし、曹操の身を守るためには引く訳にはいかず、徒手空拳のまま押し寄せてくる敵兵を迎え撃った。そしてそんな状態でも数多くの敵を打ち倒したことで、結果的に曹操を守ることになったのだ。

 しかし、今は守るべき主君がいる訳ではない。ひとつところに縛られた戦いをする必要はない。


「む、逃げるか典韋!」


 関羽も典韋を追って駆ける。手には蹴り飛ばされた薙刀ではなく典韋の剣を持ったままだ。この戦いは軍勢を率いての戦いではない。武器を失った典韋を深追いしても、伏兵に囲まれたりする可能性はない。そして、武器のない典韋に追いつけば勝敗は決するだろう。

 関羽は長年の経験からくる勘のようなもので、それを無意識に理解したのか即座に後を追った。だが、典韋を見失うまいと道を曲がった瞬間視界が光に包まれた。


「うぬぅう!」


 関羽の顔は衝撃に仰け反り、目元を熱と光が襲った。関羽はたまらず剣を取り落とす。顔を押さえながら、呻いて膝を着いてしまった関羽には、なにが起こったのかがわからない。典韋の気配はまだ先。他に敵の気配は感じられなかった。


「まずい!」


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