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ゲームに三国志の武将が封印されていたから解放するために戦ってみる (旧題:三国志~武幽電~)  作者: 伏(龍)
第1章

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14 接敵

「YO-HO! 心配いらないぜ玄」

「おう! なんだよ、突然現れて。びっくりするだろヘルプ」


 小さな光が弾けるとともに、突然現れたヘルプは相変わらずのハイテンションぶりで、今日は麻雀牌の一索(イーソ)である。一索は孔雀の絵が用いられているため今回は孔雀の顔がそのまま言葉を発している。


「まあ、細かいことは気にすんなって。ちょっと教えといてやろうと思ってさ」


 驚かされた玄が、不満顔なのを軽くあしらって、ヘルプは羽をばたつかせる。


「何を?」

「おう! このマップは、玄の計測したとおり百キロ四方のマップで、十キロ四方毎に一人の武将がスタートすることになってる。つまり、マップのとおり百のエリアで百人てわけだ」


 自慢げに語るヘルプを、あきれ顔で眺めながら続きを聞く。


「そんでだ! それだけの広さを百人で争うのはきついからな。一度行ったことのあるエリアに他の武将が入った時や、一度出会った武将はマップに表示がされる」

「なるほど……てことは全てのエリアに一度足を踏み入れておけば、常に相手の所在地を確認することができるってことか」


 ヘルプの言葉に深く頷く玄。


「まっ、フィールドに出ている武将だけだけどな。それに待機状態から出陣するときには、自分がフィールドから出た時にいたエリアか、隣接エリア(周囲8マス)のなかで行ったことのあるエリア、どちらかを選べるからな。簡単に待ち伏せとかはできないぜ」


 牌の中の孔雀を羽ばたかせながらヘルプが踊る。


「さらに! さ~ら~にだ! 一度出会った武将は名前も表示されるが、それは相手が自分の行ったことのあるエリアで、しかも自分との距離が隣接エリア(周囲8マス)以内の時だけだ。あとはマーカーがされるだけなんだな、これが」


 つまり、なるべく早い内に全エリアを踏破しておけばフィールドに出ている全武将の位置を常に知ることができるということである。これは、相手がそれを知らないとすれば、大きなアドバンテージを握れることになる。


「ただし! いま自分がいるエリアに相手が入った場合はマーカーは消える。そのエリアが点滅するだけだな。その点滅にしたって相手がこちらに気づいて、戦闘準備に入ったら消える」

「ちょっと待って! じゃあ俺たちが知らないエリアに敵がいて、俺たちのいるエリアが敵の知っているエリアの時に、敵が戦闘準備状態で俺たちのエリアに入ってきたら?」


 ヘルプの言葉をじっくりと反芻しながら問いかける。


「当然ながら接近に気づかないこともありうるな。まっ、戦闘準備のまま戦闘しないでいると体力を少しずつ消費していくけどな。ってことでよ~ろしくぅ! YA!」


 言いたいことだけ言って、消えたヘルプには気づかずに玄は考える。ヘルプの言う通りなら、知っているエリアの少ない開始当初は、そういう不意打ちのような作戦が、普通にまかり通ることになる。

 仮にエリアが増えたって、同エリアに入って戦闘準備になれば、後は木に隠れたり、水に潜ったり、相手から見えなければ、いくらでも不意打ちができる。

 そう考えた途端、玄は急に落ち着かなくなり、あたりをきょろきょろと眺め回した。ちょっと目を離した隙に背後から攻撃を受けることだってあり得るのだ。


「何を動揺している。戦乱の世を生きた我らに自分の持ちうる力以外のものがあったと思うか? 戦場(いくさば)で気を抜くことなど有り得ん」

「で、でもいくら関羽でも木陰からいきなり斬りかかられたら!」

「つまりだ……」


 玄の心配などどこ吹く風の関羽は、静かに足下の小石を拾うと前方の木陰に投げ込んだ。


「こういうことだ」


 軽く投擲されたわりには、すさまじい勢いで木陰に飛び込んだ石は、木々に当たるという玄の予想に反してガンッと音をたて堅いものに当たった。


「さすがに関羽、といったところか」


 賞賛の声を上げながら、がさがさと茂みを踏み分けて林道へ出てきたのは、がっしりとした肉付きの武将。基本装備の剣を腰に差し、左手にはどうやって手に入れたのか丸い盾を持っている。先ほど投擲した石はこの盾に止められたのだろう。


「おぬしは……」


 木陰に潜んでいた男は、全身からただならぬ雰囲気を漂わせながら静かに剣を抜いた。問答無用らしい。


「久しい、というべきか? なあ、関羽よ。我は悪来(あくらい) 典韋(てんい)。いざ、参る」

「な! 典韋!」


【典韋】 

 漢の帝を擁し、力をつけて魏の国を興した曹操孟徳の近衛をしていた豪の者である。

 曹操が長繍(ちょうしゅう)軍と戦になった際、張繍軍の軍師賈詡(かく)の策にはまる。危機に陥った曹操を救うために、獅子奮迅の戦いを繰り広げ、果敢に戦うが壮絶な最後を遂げている。


 直接関羽とは戦場でまみえた事はないはずだが、関羽は劉備とともに一時期曹操の下にいたこともあるため、面識があったとしても不思議はない。

 静かに名乗りをあげ、ゆっくりと間合いを詰めてくる典韋に、関羽も手製の薙刀を構え名乗りをあげた。


「関雲長、参る」


 関羽は、間合いを詰めようとする典韋に向かって小さく牽制の突きを繰り出す。典韋も序盤から、無理に間合いを詰めるつもりはないらしく、それを軽く剣で弾きつつ飛びすさり、懐に飛び込む機会を窺っている。


 様子見程度の、軽い一合の交錯にもかかわらず、それは紛れもなく実戦の音……ここが戦場である証、部屋中の空気全てが重苦しい。

 一瞬の状況の変化。しかし、完全に雰囲気に呑まれていた玄は、その変化についていけず、息をすることも忘れる程の緊張感のなか、ただ固唾を飲むばかりだった。


 じりじりと互いの位置をずらしながら、にらみ合うふたり。

 剣と薙刀では得意とする間合いが違う。中・長距離で戦えば薙刀、近距離で戦えば剣が有利なのは誰でもわかる。もちろん、いま対峙しているふたりも、そんな武器の利点や欠点は熟知している。互いに自分に有利な距離で戦う為に、どう戦えばいいのかという戦術など、身体に染みついている。

 肌を刺すような張りつめた緊張感、そして、吸い込まれそうな静寂が周囲を支配する。

 

 永遠に続くかと思われるような、その戦いの静寂を打ち破ったのは典韋であった。いままでの慎重さはなんだったのかと思うほどに、関羽との間合いを真正面から無造作に詰めて突進していく。

 その早さたるや、第三者として見ている玄ですらかろうじて目で追えるかどうかというほどである。


「え? いま……」


 文句の付けようのない、突進を見せたはずの典韋の顔に、一瞬だけ驚愕の表情が走ったような気がした玄は、思わず首をかしげる。だが、戦闘中に自分から攻めに転じ、まだ相手に攻撃をする前、そんなタイミングで驚く要素はない。


「気のせいか?」


 玄がそう漏らした時には、既に典韋は関羽に上段から斬りつけていた。

 関羽は薙刀の柄で、剣の軌道を滑らかにずらして受け流すと、薙刀の石突き(本来は槍の穂先)の部分で典韋の肩口を切りつける。

 典韋は軽く舌打ちをしながら、振り下ろした剣の勢いを殺さずに、むしろさらに一歩を踏み込んで体を捻ると、関羽に背中ををあずける形で更に間合いを詰めた。


「え、鉄山靠(てつざんこう)?」


 鉄山靠とは、八極拳で有名な背中で体当たりをする技で、玄も格闘ゲーム等ではよく使う技である。もちろんそのもの、というわけではないのだろうが。

 典韋の体全体を使った当て身を、関羽はびくともせずに受け止め、そのまま薙刀を振り下ろすが、間合いを詰められていたぶん石突きで典韋を捕らえられず、柄の部分で典韋の右肩を激しく打ち据えたにとどまる。

 その衝撃に典韋は一瞬顔をしかめるが、それでも流れを止めることは無く、振り切った剣を自分の脇の下から背後の関羽に向けて一気に突いた。この密着した間合いでは、その攻撃を薙刀で捌くことができないと、瞬時に判断した関羽は素早く後ろに跳びすさって間合いをあけた。


 そして、引いたと同時に踏み込み、薙刀の鋭い突きを典韋へと繰り出す。典韋も背後から関羽の気配が遠ざかるのを感じると同時に、素早く剣での攻撃をキャンセルして体勢を整え関羽と正対している。

 激しく打ち据えられたはずの右肩には、なんのダメージも感じさせず関羽の突きを剣で払うと、薙刀の柄を伝うように身体を回転させて一気に間合いを詰め、関羽の顔面に左手で持った盾をバックブローで叩きつける。

 しかし、関羽はそれを避けようとせずに、顎を引いて額を前へ突き出すことで間合いを外して受け止め、逆に至近に迫っていた典韋の腹部へ強烈な膝蹴りを入れる。


「ぐっ!」


 典韋は思わず呻きを上げたものの、強烈な一撃に浮かされた身体を関羽の身体に足をかけ、踏み台にすることで無理矢理に制御し蹴った勢いで再び距離を取った。

 そして、そこで再びふたりは動きを止めて対峙する。


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