表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲームに三国志の武将が封印されていたから解放するために戦ってみる (旧題:三国志~武幽電~)  作者: 伏(龍)
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/63

13 林道

 ぱぁっっ


 次の瞬間、白い光がVSから放たれ光が部屋を満たしたと思ったら。すぐに光は消えた……。しかし、そのとき玄の部屋は林の中へと変わっていた。


「すごい……」


 あくまで映像でしかないと分かっているのに、三百六十度全方位に映し出されたその景色はまさに部屋の中にいるという現実を忘れかねないリアルさがある。

 映像ゆえに、吹いている風や温度、木々の臭いなどは感じることはできないし、確かに玄の尻の下にはいまもベッドの感触が確かにある。

 それなのに座っているベッドは見えない。手を伸ばせば壁に触れることもできるのに、目に見えるその場所は何もない空間なのだ。


「こ、こんなにリアルだなんて……いまの技術で本当に可能なのか?」


 壁を撫でながらそんなことを呟きながら、玄はゆっくりと周りを見渡す。どうやら時刻は夜。場所は、木々の間に設けられた細い道、林道のようである。

 耳を澄ませば、遠くから獣の遠吠えが聞こえてくるし、なんとなく林の中には生き物の気配が感じられるような気さえする。

これだけの臨場感をこの小さな機械が作り出しているのかと思うと、なにやら信じられない思いになる。

 同じように、関羽も風に吹かれながら周囲を見回している。

 だが玄とは違って、髭が風に揺られているので、玄には感じられない風も関羽には現実のものとして感じられているようだ。

 そんな関羽の隣に玄は、見慣れたものを見つける。


「関羽、右側に何か見える?」


 問い掛けられた関羽は怪訝な表情で右側に視線を向ける。


「木々が見える。小動物の気配は感じるが人の気配はない。何を感じたのか知らないが、今周囲に危険なものはない」


「なるほど……武将たちには見えない訳か」


 玄は、関羽の頭上に見えている関羽という文字と玄徳水の文字。右側に見えている縦に細長い緑色のゲージ。そして、自分の手元に見える地図を順に見て呟く。


「名前に……ライフゲージに、あとはマップか。一応、中国の形みたいだけど縮尺はどうなってるんだ? まさか実物と同じってことはないだろ?」


 玄の前に浮かんだマップは、現在の中国とほぼ同じ形をしている。違うのはこの地図では、中国を丸ごと切り取った島になっていることである。

 地図はうっすらとした線で方眼紙のように細かく分割されていて、関羽のものと思われる赤い光点が、地図の中央からみて北側の上部付近に点滅している。

 三国時代当時に幽州と呼ばれていた地域の中心辺りだろうか。おそらく、この赤い光点が関羽の現在地を示している。さらに光点のある升目は、他のマスよりもうっすらと明るくなっている。


「どうやらこの地図は、レーダーみたいな役目も兼ねているみたいだ」


 一人で勝手に納得している玄に向かって関羽が不機嫌そうに続ける。


「さらにいわせて貰えば、ここへ来てからおぬしの姿も私には見えていない。声だけがどこからともなく聞こえるだけだ」

「へ?」


 いつもと変わらない、自分の身体を眺め回した玄はしばし考えて頷いた。


「なるほど……俺が動いて移動するシステムだったら、壁にぶつかったりして危ないからな。その点は普通のゲームと同じで、画面を見てプレイする感じなのか」


 ひとりで玄が納得していると、突然周囲の景色が動き出す。玄が驚いて関羽を見ると、南北に伸びる林道を南に歩いていく関羽の背中が見えた。


「ちょ、ちょっと! どこへ行けばいいのかわかってるの?」

「さあな、そんなものはわからぬ。さりとて、ただ突っ立っていても仕方があるまい。取り敢えずこうして道があるのだから歩いてみるというのが筋ではないのか」

「確かにそうだけど……方角はわかってる?」

「そんなものは星を見れば一目瞭然だろう。取り敢えずいまは南に向かっている」


 関羽の言ったとおり、確かに上を見れば綺麗な星空が見えている。そして、関羽の進む方角が、地図上で見た南と一致しているところをみると、星の位置も現実世界と同様に配置してあるということだろう。


「えっと……じゃあ、一応いまわかることだけ伝えておくよ。たぶん、この世界は関羽がいた時代と似せて創られてる。もちろん実際よりも、かなり小さくされているみたいだけどね。いま関羽がいるのは当時の幽州の辺り、このまま南にいけば冀州の辺りに着くと思う」


 玄はなにかの役に立てばと、自分の知っている知識を総動員して考察した結果を、関羽に伝えた。しかし、それを聞いた関羽から帰ってきたのは、取り付く島もないほどの冷淡な言葉だった。


「そんな情報に意味はない。他の者も私と同じ状況でここに来ているとしたら、信用のおけない地理情報をうのみに動く者はいないだろう。どうせ教えてくれるのなら、もっと精度の高い情報でなければまったく意味がない。どこそこに似てるといった程度の曖昧な情報ではなく、どこにどの程度の高さの山があり、どのくらい深い谷があり、どのくらいの川幅でどの程度の水量の川があり、どの程度密度の森がどのあたりまで広がっているのか、風が吹いているのなら、風向きは? 強さは? わかるのか?」


 淡々と自分に向かって、精度の高い情報の必要性をぶつけてくる関羽に、玄はなにもいい返せない。それは紛れもなく正論だったからだ。

 だからといって、関羽が問うような精密な情報など玄には知りえるはずもない。表示されているマップには、ただ土地の形が示されているだけで地形などは表示されていない。


「わからぬのなら余計なことは言わないことだ。どうでもいいような情報でも、耳にしてしまえばいざというときの判断に影響が出るかもしれん。その一瞬の隙が、戦地に赴く者たちにとって致命傷になりかねん。その情報に、己の命を懸けても良いと思えるだけの根拠と裏付けがなければ、こちらも命を懸けることはできん」

「ぐっ……」


 一方的にやりこめられ、悔しくないわけではない。なんとか屁理屈をつけて、なにかしらの反論をすることもできないわけではない。しかし、悔しく思うよりも、どこかゲームだと甘く見ている気持ちが、まだ自分の中にあったことに気付いたことが玄を自粛させた。


 戦場に立つ武将や兵士たちは、自分の命が懸かっている。その命を借りて軍師は策を練り、軍を勝利に導く。誤った情報に踊らされ、間違った策を立てれば、優秀な人材を失ってしまうかもしれない。そしてそれは二度と戻ってこないものなのだ。そのことを我が身のことのように自覚していれば、あんないい加減なことはいえなかいはずだった。


「……わかった………ごめん」


 玄は悔しい気持ちを押し殺して素直に謝罪する。 関羽と対等の関係を築く為には、自分も関羽の感じている世界を身近に感じなくてはならない。つまり、本人たちにとっては命を懸けた戦場であるという、現在の玄にはまったく想像もつかないような世界を、仮想現実(バーチャル)ではなく、現実(リアル)として認識しなくてはいけないということだ。命を懸けている仲間に曖昧な情報を与え、その身を危険にさらさせる行為は充分謝罪するに値する。


 腹が立って、悔しいのは、まだ玄がその世界を外から眺めているからだ。だから、玄はそれを改めるためにも、あえて謝罪の言葉を口にしたのである。


「……わかればよい」

「……」


 何も言い返せないまま黙り込む、玄の前で揺れていた関羽の背中がふいに止まる。


「……別に、なにも言うなという訳ではない。少しでも情報が欲しいのは確かだからな。もし、おぬしが確かな裏付けをもとに自信を持って伝えられるものならばよい」

「えっ……」


 うなだれていた玄が、視線をあげた時には既に関羽は歩き始めていた。といっても、座ったままの玄との距離は変わらないのだが。


(もしかして、少しは気を許してくれたってことかな?)


 そう考えてちょっと嬉しくなった玄は、なにかできないかと考えてふと思いついた。一度画面の投射を解除して、机の引き出しから定規と筆記用具を取りだし、ノートと一緒にベッドに放り投げると定規だけを持って再び画面を投射モードに戻す。


 怪訝な表情をする関羽に頼んで、一歩の歩幅を測らせて貰うと、道がしばらく真っ直ぐに伸びていることを確認して、関羽の現在地のマークを押さえ関羽の歩数を数える。やがて、マークが少し動いたところで、その間を定規で測る。


 関羽の歩幅、歩数、マークの移動距離から計算。その計算結果から、マップの全体の広さを計測しようとしたのだ。やがて計算を終えた玄は、満足気に頷くと関羽に話しかけた。


「ちょといいかな? いま関羽の歩幅から計算したんだ。役に立つかはどうかはわからないけど、どうやらこの世界は百キロメートル四方しかないみたいなんだ。キロメートルの単位は分かる?」

「ふむ……きろめーとるというのはわからんが、なぜかその言葉でも感覚的にわかる」

「そっか、単位の設定は意識の中で自動に変換されるのかもな」

「もし、その情報が正しいのなら、小さな県ひとつくらいの大きさか……狭いな」


 呟く関羽に玄は首を振る。振ってから、いまの関羽には自分の姿は見えないのだと思い出して声をかける。


「そうでもないと思う。この世界には百人しか人がいない。しかも、その全部がいまの時間ここにいるかどうかもわからない。たぶん最初のスタート地点は、百キロ四方を10×10で百分割した地域、その各中心地が武将たちのスタート地点になってたと思う。だけど俺たちがここに来たのは他の武将たちにくらべて遅いんだ。先にここに来た武将たちは、とっくに移動している筈だし見通しのいい平地ばかりじゃないから、他の相手に出会う確率は低いかもしれない」


 先行きに不安を感じて玄がため息をつく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ