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ゲームに三国志の武将が封印されていたから解放するために戦ってみる (旧題:三国志~武幽電~)  作者: 伏(龍)
第1章

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12 賭け

 茜を送り届けて自宅に戻った玄は、さっと入浴を済ませると早々に部屋へと戻る。両親んしてみればそっけないことだが、徳水家ではいつものこと。それに加えて、今日は茜が来ていたこともあり、機嫌がいい両親は特になにもいわない。

 無地のTシャツにハーフパンツという楽なスタイルで、ベッドの上に胡座(あぐら)をかいた玄は、VSを手元におき、深呼吸してからメニュー画面を開く。

 まず、最初に全体のステータス画面を確認すると、数字が86と2に減っていた。


「12人が負けて……とうとう未登録はあと2人か」


 小さく呟いた玄は、一応関羽のステータスを確認してから、画面に映していた関羽を投影モードに戻すための操作をする。操作に反応してVSから淡い光が放たれ、すぐに二メートル近い偉丈夫の関羽が室内に投影される。

 ひゅんひゅんと涼しい音が鳴り響いているのは、関羽がお手製の武器を舞うように振り回しているからだ。

 一心不乱に武器を振る関羽に、横から声をかけるのは躊躇われたので玄は、しばらくその様子を見守ることにする。なにかを想定して動いているのだろうが、その動きはどこか舞を思わせるほどに、速く滑らかで、強く美しい。玄はその動きに見惚れ、飽きることなく関羽を眺め続けた。

 やがて一連の動きをやり通したのか、関羽の動きが次第にゆっくりになり静かに静止した。そして関羽は、ゆっくりとこちらに視線を向けた。


「時間か?」


 短いその言葉に玄は小さく頷きを返す。


「あれから約丸一日経った。待機時間はまだ二日ほどあるけど、どうする?」

「そうか……丸一日、身体を動かしていたにもかかわらず、汗もかかなければ疲れもない。つくづく死人(しびと)だということを実感するわ」


 武器を小脇に抱え、見事な顎髭をしごきながら不敵に関羽は笑う。


「関羽……」

「まあよかろう、わかっていたことだ。結果として、思う存分身体を動かせたゆえ戦うための準備は整った。いつでも戦いに赴ける」


 関羽は、戦いの予感に喜色すらうかべながら、視線で玄に早くその場へ連れていけと訴えかける。しかし、玄はその視線を居心地悪そうに受け止めて口を開いた。


「その前にひとつ提案があるんだけど、聞いてもらえないか」


 玄は、少しでも関羽に理解してもらえるように、なるべく噛み砕いてまず、このゲームの特徴である術や必殺技というものが、どういうものなのかということを細かく説明した。次に術や必殺技があることで、大きく戦い方が変わる可能性があることを、いくつか例とともに伝える。そして、最後に自分にも手伝わせて欲しいと訴えた。


 関羽は、そんな玄を睨みつけるように凝視しながらも、玄が全てを話し終えるまでは何も言わなかった。


「基本的には関羽に全てを任せることに異論はないんだ。ただ、相手が普通で考えれば有り得ない人外の能力を使って攻撃してくる以上は、そういった戦いに少しでも知識のある俺にも手伝えることがあると思う。制御権を渡して欲しいなんて言わない。特殊なことに対する助言と、いざというときの緊急回避の動作だけでいいから認めて欲しい」

「言いたいことは、それだけか……」


 玄は関羽の威圧的な視線に気圧されながら頷く。


「答えは……(いな)だ」

「ど、どうして!」


 関羽の短いがうえに、あまりにもはっきりした拒絶に玄は思わず叫ぶ。


「どうしてだと? ……話にならんな。平和な世に生まれ、人も斬ったことのないような(わっぱ)が、この関羽の手助けをするだと?! あまつさえ、いざというときには私の行動を操作する? ふざけるな! 死人と成り果てたとはいえこの関雲長、武人としての誇りは失っておらぬ! 己の戦にうぬの様ななんの力もないこわっぱの力を借りねばならぬようなら潔く消え果てるまでだ!」


 武人の誇りを傷つけられたと憤慨する関羽、だが興奮する関羽とは対照的に玄は冷めた目で関羽を見つめ返している。


「せめて自分の必殺技と術の特徴を知り、使いこなせるように訓練してほしいと言っても無駄か?」

「無駄だ。我らの誇りはこの鍛えた身体と武器にある。あやかしの術など必要ない」


 関羽は槍に固定させた剣の先を玄の鼻先に突きつける。あまりいい気はしないがそれが自分を傷つけることはできないのだから恐れる必要はない。


「あなたの思惑など関係なく、相手は全ての能力を駆使してあなたに挑んでくる。相手が関羽 雲長ともなればなおさらだ。まともにやって勝てないとなれば、武器などとうてい届きもしない遠方から術を使われて、火に巻かれる可能性だってある」

「火計の罠など何度も噛み破ってきた。いまさら恐れるものではない」


 玄は内心で深い溜息をついた。今、ここで関羽に対して百万言を費やしたところで関羽を変心させることはできないことを確信したからだ。

 おそらく、なんらかの形で自分の力を示さなければ、関羽はその身を預けてくれることはない。そう判断したのである。

 思い返してみれば、玄が得た三国志の歴史のなかでもそうだった。


 蜀の天才軍師、諸葛亮 孔明が魏の大軍に攻められて、初の采配を振るったときである。

 この時もやはり、関羽や張飛といった最前線で身体を張っていた猛将たちは、戦場に出ず安全な本陣で采配を振るうだけの孔明に対して、命令拒否の姿勢を示したのである。

 しかし孔明は劉備の剣を借り、これに逆らうことは主君に逆らうことだと、二人を渋々命令に従わせた。

その結果、孔明の立てた策は面白いように相手を翻弄し、わずかな兵で十万もの大軍を潰滅寸前まで追い詰め撃退したのである。

 その戦以降、関羽は孔明の策に逆らうことはなかった。戦い方は違えども、その実力を認めたからである。

 はたして関羽に認めてもらえるだけのものが、自分にあるのかどうかは分からないが、戦いの中で自分の力を認めさせなければ、関羽は決して玄を認めないだろう。


「分かった。じゃあ、賭けをしよう」

「賭けだと?」

「最初は関羽のいう通り、戦いについて俺は余計な口は挟まないし、動きに干渉することも決してしない」


 関羽は当然だとばかりに頷く。


「ただし、一度でも決定的な敗北の場面を迎えそうになったら、否応なしに退却の為の操作をする。どんなにみっともなくても、関羽が拒否しても関係ない。その上で怪我や疲労を回復したら、次の一戦は俺が操作する。できれば前回関羽が負けた相手がいい、そして俺の操作でその相手に勝てたら……」


 玄はずっと考えていた関羽との付き合い方を躊躇いつつも口にする。


「……俺のことを同盟者、友たちとして認めて欲しい。ときには己を預けられるような信頼できる相手とみとめてほしいんだ。『桃園の誓い』と同じになんていわない。それは関羽たちにとって特別なものだから。でも、それに準ずる形で構わないから、俺と対等の関係になって欲しい。そして俺と一緒にこの戦いを戦って欲しい」


 玄は、関羽の射抜くような厳しい視線を真正面から受け止め、真っ直ぐに視線を返す。


「………」

 関羽は、玄のその視線を受け、わずかに身じろぎをするとゆっくりと顎髭をしごく。


「……私が明らかに敗れたと分かるまでは手を出さないのだな?」


 玄は頷く。


「うん、正確にはその寸前まで。分かってからでは遅いかもしれない」

「ふむ……よかろう。おぬしの提案を受けよう。本来であればその武器によって操り人形の様に扱われるところなのだからな。だが! 私が勝ち続ける限り、こと戦いにおいておぬしから介入は一切しない。それでよいな?」


 自分が無様に負けることなど微塵も考えていない関羽は口元を歪めて笑う。


「構わない。何の問題も無く勝ち続けられるなら、その方がいいに決まってる」


 玄は厳しい表情のままVSを関羽によく見えるように持ち上げる。


「賭けが成立したところで聞くけど、どうする?」


 関羽も掲げられたVSを見て、玄の言いたいことを理解したらしく武器を握り直す。


「よかろう」


 関羽の返答に、黙って頷いた玄はメニュー画面を呼び出して『出陣』の項目を選んだ。 そして……ボタンを押す寸前に、一瞬だけ関羽と視線を合わせると迷わずに1ボタンを押した。


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