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お父さん逃亡

 家に着くとすっかり日が暮れていた。

 日曜日の1日が過ぎるのは早い。

 怒涛の休日を過ごした2日間だったので、どっと疲れた。

 明日には仕事に行かなければいけないかと思うとげんなりするが、父のせいで巻き込まれた彼の方が大変なのだ、と自分に言い聞かせてなんとか持ち直す。

「ただいまー」

 玄関の扉を開けて声をかける。

 奔放な父は家にいないことが多かったので、家に帰ると1人であることが常だったけど、父が帰っている時は声をかけるようにしていた。

 いつもならのんびりとした父の声が、おかえりーと返事を返してくるのだが、今日は全く返事が返ってこなかった。

「どうした?中に入らないのか?」

 私の後ろで荷物を抱えたゼノヴァルトゥールが、訝しげに声をかける。ううん、何でもないよ、と暗に告げるように首を横に振って家の中へ入った。

 そこで違和感に気がつく。

(え、なんか家の中真っ暗なんだけど…)

 どこもかしこも灯りが点いていなかった。嫌な予感がする。

 私は廊下を駆け出した。

 どうした!?と慌てた彼の声が後ろから追いかけてくる。

 まさか、まさか、とはやる気持ちを抑えて、リビングに駆け込み、灯りを点けてみた。

 静まり返った部屋は物音一つなく、人の気配が全くなかった。

 テーブルの上にポツリと置手紙があり、私は無言のままそれを手に取る。

 簡潔にさらりと書かれた字面を目にして、どっと肩を落とした。


 旅に出てきます。

 お父さんより


「咲、二階にも父君はいないようだが」

 困惑した顔のゼノヴァルトゥールがひょっこりとドアから顔を覗かせた。

 私が台所へ駆けていく間に二階を調べてくれたようだった。

 が、それも虚しく件の父はもういない。

 諦めの境地に陥りながら、手に持った紙をぐしゃっと握りしめた

「どうした?」と不安そうな声を掛ける彼を振り返り、私は再び頭を下げた。

「ごめんなさい!逃げられちゃったみたい」


 ***


 翌日、私はいつも通り会社へ出勤した。

 朝7:30に家を出て9:00からデスクワーク。

 何の変哲もないOLの日常だ。

 が、この日の私は全く仕事に集中できなかった。

 家に置いてきたゼノヴァルトゥールのことが気がかりでしょうがなかったのだ。

 彼には元に戻る方法を探すために、書架の本を調べてみてくれ、と言ってから出てきた。

 一通りの生活面でのトイレやお風呂など使用方法はざっと説明したつもりだったけど、

 何か伝え忘れたことはないか。

 とか

 家に帰ったらコンロの使い方を誤ったことによる火事になってないか。

 とか

 もしも父が帰ってきたら乱闘にならないだろか。

 などなど

 心配ごとで丸々と膨らんだボールが、あたまの中であちこちにぶつかって跳ね返って忙しなく、私を冷や冷やさせていた。

 そんなだから今日はミスを連発してしまい、最初は怒っていた上司もついには

「疲れてんでしょ。今日は早く帰っていいよ」

 と、言われてしまう始末。

 お言葉に甘えて家に着く頃には、心労でぐったりしていた。

 人って心配ごとでこんなにげっそりできるものなんだな、と実感した。

「ただいまー」

 玄関に入ると、リビングからペタペタとスリッパを履いた足音が近づいてきた。

 熊の顔がスリッパになっており、もふもふと毛のついたかわいらしいスリッパを履いたゼノヴァルトゥールがひょっこりと現れた。

 ちなみにお父さんのスリッパである。

「戻ったのか、咲」

「うん。一人にしてごめんね。すぐ夕飯にするから」

「あぁすまないな…」

 高身長のイケメンは萎れたように眉根を下げた。

 なんだか申し訳なさそうだ。疲れた様子の私を見て思ったのだろうか?

 この人は王子様って話だったけど、何だか庶民的だな…


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