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お出かけ

 額に手をあてて目を瞑る。

 そうすれば少しはこのめちゃくちゃな状況からくる頭痛が和らぐかもしれない。

 そんな私の様子はなんのその、父はくるりとこちらに向き直るとあっけらかんとしてとんでもないことを言った。

「いつまでも彼氏ができない娘へお婿さんにいいんじゃないかと思って!」

 …………………くっ!

 頭が痛い。

 婿…と低い声が近くで復唱する。次いではっと息を呑む音。婿の意味する言葉にカレシという単語が何を意味するのか、ようやく彼は理解したようだった。

 今度は別の意味でうっすらと顔が赤くなる。意外と初心なようである。

「ば、ばかげてる!俺にこいつを娶れと、そういうことか!」

「うん」

 清々しい程父はあっさりと頷いた。「契約した時に言ったでしょ?」

「俺は至宝を与えると聞いたぞ!」

 父は得意げに胸を張る。

「娘は僕の宝です」

 再び抉りこむように父の腹へ拳をめり込ませた。

 ぐへぇ!!と潰れたカエルのような断末魔が部屋に響き渡り、どさりと床に膝をついた父を見た男は、わずかにごくりと息を呑む。

「うおお咲ちゃん…今のは効いたぁ……!」

 悶える父を尻目に、私は男へ向き直って深々と頭を下げた。

「うちの父がとんでもないことをしたみたいで本当にごめんなさい!あなたをちゃんとお家に返せるようにしますから!責任取らせますから!」

 男はおずおずと伺うようにして頷いてから、「あ、あぁ頼む…」と呟いた。


 ***


 そして時間は日中に戻る。

 一夜も過ぎれば多少の冷静さを取り戻したようで、すっかり大人しくなった男は、私の後を忠犬のように付いて歩いている。

 父は家に置いてきた。

 きっちりと始末をつけさせるためにだ。

 喚び方はわかったけど、戻すのはなぁ…と首を捻る父を再び叱咤し、なんとか還す方法を探すようやらせている。

 父とこのゼノヴァルトゥールと名乗った男から聞いた話では、彼は異世界から来た王子で、何でも王家に与えられた試練の旅の最中だったそうだ。その途中で見つけた古文書を開いたところ、声がして、契約を持ちかけてきたらしい。

「その本を開いた時、声がしたんだ。契約をするなら至宝を与える、と」

 すっかり暑さにへばってしまった彼を休ませる為にカフェに入っていた。クーラーの効いた店内は涼しく、アイスティーの氷がカランと小気味の良い音を響かせている。

 すっかり飲み干してしまい氷だけになったグラスを眺めて、彼は恨めしそうにグラスの縁をなぞった。

「王は国で一番の宝を持ち帰った者に王位を与えると言った。俺も焦っていたのだろうな。つい甘言に乗ってしまった。古来より悪魔との契約は代償がいると聞いたことがあるのに」

 父は彼にとって悪魔であるようだ。

 横行闊歩とまではいかないまでも、周りを巻き込むという点において、あながち間違いではないのかもしれない。

「そんなに自分を責めないで。全部うちの父が悪いんだし、焦ってたんなら仕方ないよ。失敗もあるって」

 そうか…と彼は力なく答えた。

「元の世界に戻るまではうちにいて。早く父になんとかさせるから」

「すまない…世話になるな」

 彼は真っ直ぐこちらの目をみて、ぎこちなく微笑んだ。

 まぁ、見れば見る程美形だ。暴れた時はどうしようかと思ったが、大人しくしていれば憂いを帯びた雰囲気に色気さえ出ている。

 思わずマジマジと見てしまったが、青い瞳に私が映っていることに気づいて、慌てて目を逸らし、立ち上がった。

「さ、そろそろ出よっか。早い所服を買っちゃって、家に帰ろう」

 こくりと頷いて彼は立ち上がった。すると服の裾が持ち上がり、ちらりと白い脇腹が見える。

 何だろう、これがチラリズムというやつか。見てはいけないものを見た気がする。

 彼が今着ている服は、全て父のものだった。

 どこで買ったのか黒字のTシャツで、胸元にデカデカと「裸体」と白抜きの筆書きのような文字が書かれており、裾は腰の辺りすれすれで、立ち上がったり、背伸びをすれば簡単に脇腹が見えてしまう。

 ズボンはと言えばこちらも父の着古したスエット生地のもの。

 地はグレーで、両サイドに白いラインが二本づつ入っている。

 こちらはもう足首が見えている有様だ。

 その割にウエストはぶかぶかのようで、ベルトで無理やり留めている。

 悲しいかな手足の長さも完璧な彼には、家にある服では間に合わなかったのだ。

 だからといって、どこのコスプレイヤーさんですか?といった銀の防具姿のままで居させるのも忍びない。

 その為彼の服を買うという目的の元、二人で出かけているという訳である。

 近くの大型百貨店にでもいって、当面の服を2〜3着買えばいいか、と思っていた。

 不慣れな彼を一人で出歩かせるのは不安だし、だからといって父と行かせるのはもっと不安だったので、私が同行したのだった。

 立ち上がった彼と目が合い、どきりとしてしまう。

 べ、別に腹ちらを見たくてみてた訳ではっ…!

 一人で焦っていると、彼は小首を傾げてみせた。

「なんだ?行かないのか?」

「う、ううん!行く!」


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