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お題「悪魔」「フクロウ」「いてつく幼女」

ジャンルは「ミステリー」


フクロウがなく。

こおりついたドア。

なかでいてつく幼女。

開けることができない。

何故?

それは……開けるのが怖いから。

知ってしまうのが怖いから。

自分の中の悪魔が壊してしまえと煩いから。

だからもう見なかったことにしよう。

そうすれば楽だから。


ーーーー

私は作家だ。小説家だ。

本を書く。それが仕事だ。

しかもミステリーで一発当てた。

だからこそ今回は許してくれなかったらしい。

「分かってますか? あなたは新人。私の言うことを聞けないなら書くのをやめてもらいますよ?」


私はそのミステリー小説が売れたことでミステリー以外を書くことを禁じられた。

それこそ力のある作家なら出版社を別に変えることだってなんだってできる。

それで成功した先生も知っている。

だけれども、私は知っているのだ。

自分がどうしようもなく才能がない、運で成功した奴だなんて。

だからミステリーのネタをもう一度は出せず、他のネタで書くも才能がないから担当から怒られお前の仕事はこんなことではないと言われるのだ。

きっと他の人なら上手くできたんだろう。

出版社は私みたいな人は嫌いだろう。

本当は早くして欲しいのに待ってくれて、迷惑をかけて、もう自分が嫌だ。

変わりたい。

「あなたは言いなりになっていいんですか?」

「なんでこの仕事をやってるんですか?」

「あなたは何故」

「なんでなんでって煩い! もう構わないで!」

「構わないでってあなたの中にいるんだからあなたの意思ですよ?」

「本当煩い! 黙れ!」

「心に鍵をかけて逃げるのを続けるならあなたはまた1人だ」

心が痛い。半分欠けているのに。

分かっているよ。

あなたの言うことも。

でもね。そんな綺麗事もはけないよ。もう。

助けてくれようとしたんだろうけど。

ダメだよ私なんて。


「黙ってないで聞けよこのクズが! 一発当てたからっていい気になんなよ! 編集部のだしたお題で書けないなら要らないんだよボケ!!!」


ーーーー


「おいお前担当だろ。さっさと原稿ださせろ!!」

「……すみません」

俺はこの上司が嫌いだ。

いや、この持ち場が大嫌いだ。

自分さえよければいい。自分が大事。そんな奴らだ。変わってない。環境が変われば変わると思ってた。

けど結局何一つ変わってない。

だから辛くあたりすぎた。

それは分かる。けど。

俺は自分のことを抑えられない。

こんな苦しんでいるのになんでお前の所為なのになんでへらへらして逃げて、できない?プロならやれよ!!馬鹿か?できねぇなら辞めちまえよ。

俺の出世の邪魔だ。失せろ。


ーーーー


自分の元担当してた作家は実は気になる。

今は元気かなぁとか。あいつまたしくってねぇよなとか考える。

やはり甘いのか、ジジ臭いのか、子離れできてないのか、いい親ぶってんのか。

俺の担当した作家は25人。一人で多くの作家を担当するこの会社ではまだまだ少ない。

仕事には慣れてはきたが実力があるわけでもない。

部署が変わってしまい今は編集ではなく事務の作業を手伝わせてもらってるがいずれ戻してもらうつもりだった。

てか編集部3つもあんのになんで会計に移るのさ……。

急に編集部も担当も変わっちまったあいつは大丈夫かな?

他の奴らは元の編集部でやってくれてるが無理やりあいつは成功したからっていう理由で移った。新人なのに他の編集部で大丈夫だろうか?

……心配しすぎか。

自分の元の編集部じゃないから、知り合いじゃないからっていう……いや自分が羨ましいからって自分の会社のことこんな思うのはだめだな。

でも……あのたった一作を書いただけなのにまだ7ヶ月も本を出さないのは不安だ。


ーーーー


クッソむかつく。

また上司に怒られた。

マジ許せねぇ。

ん……あの人は確か。

「すみません! 柳さんでしたよね!」

「はい? どちら様……」

「私第二編集部の田中と言います! 今お時間よろしいですか?」


ーーーー


「てなことがあったんです! 本当プロのくせに意識が低いというか……情けないなと思わないんですかね」

田中というこの編集者は編集部の愚痴、そして自分の担当していた船橋にかなりイラついていたらしい。

愚痴を吐くにも編集事情を知っていてなおかつ言わない、言えない立場の理解できるやつなんて確かに俺ぐらいしかいないだろう。

そして彼の言い分も分かるところには分かる。しかし……。

「……やっぱ上に言うべきだったな」

「そうですよね! やっぱ話のわかる人は違うわー! 今からでも行ってきます! 編集長に直ぐに辞めさせるよ」

「あ? 勘違いしてんなやボケが?」

「……へ?」

「お前らの事だよ。そして俺のことだ」

「な……何を? ま、まさか俺が悪いって言いたいのか!!!」

「それ以外に何がある。今からでも遅くないだろうな俺も」

「じょ、冗談じゃねぇよ!! それにそんなことをすればあんただって」

「あ? 俺なんざどうでもいい」

「っ!!」

「お前らみたいなクズが俺の担当してた作家の担当だったなんて吐き気がする。失せろ」

立ち上がり玄関を見る。

「ま、待ってくれ! お金ならいくらでも払うし」

「金じゃねぇボケが!!!」

「ひっ!!」

「編集者だからって弱い作家に威張ってんなやクズが!!!……金置いてく釣りなんざやる。二度と俺の前にくんな」

外に出たら直ぐにある携帯をかけた。

「もしもし? ああ……久しぶりだな。ちょっと今いいか?」


ーーーー


「船橋さん今回忙しい中わが社に来ていただきありがとうございます」

「……」

私は今、書いている会社のライバル社と言われている大手の出版社になぜか来ていた。

私は専属作家のため他社に呼ばれるなんて情報がないことも含めて有り得ないはずだが。

「そう硬くならないでください。事情は聞きました。辛かったでしょう?」

「え?」

「それに関連するのですがーー私どものところで書いてみませんか?」

「え……」

「実は内緒なんですけどあっちの会社であなたが苦しんでいるから助けてやってくれっていう私の友人がいたんです。あなたもよく知っていると思いますよ」

「誰……」

「名前を教えると怒られちゃうんです。だからヒントだけあなたの初めての人です」

「それだけ聞くと誤解……されそう」

でも誰か直ぐに分かった。

あの人だ。

「私どもの会社では印税は他社に比べて安いです。しかしインターネットを使った自由な形を求めています。だからペースもある程度なら遅くていいし作風もジャンルもなんだっていい。考えてみてください。それだけです」

「……ありがとうございます」

「礼なら私ではなく彼に言ってください。あと気持ちの落ち着き次第ご連絡ください」

「わかりました。ありがとうございます!」

あれ、涙が止まらない。こんな場所でいい大人がみっともない。

前からハンカチを渡された。

「使ってください。私は用事があるので行きますが、いつ出てもいいので気にせずにいてください」

優しいな……こんな人にあったのはいつぶりだろうか。


ーーーー


「柳さん!!」

後ろから呼ばれたその声は聞き覚えがあった。

「船橋!? お前ちょっと来い!」

そういって使われてない資料室に連れてきた。

「お前今来たら編集に見つかるかもだろうが!! なんで来た!」

「なんでって……だって柳さんでしょ? 電話したの」

「っ! あいつ話すなって言ったのに」

「やっぱり! 柳さん聞いてください」

「……なんだよ?」

「柳さん。ご心配をおかけしました。そしてありがとうございます」

「気にすんなよ……てか異動した俺のせいもあるし」

「柳さんは変わってないですね」

「なんだよいきなり」

「優しくて頼りになってとても素敵なところです!」

ああそうだ。あの頃から変わってない。


「おい。疲れただろ。ケーキ買ってきたから休むぞ」

「休みたくないです……ってわぁ! ここって今人気の店のじゃないですか! いいんですか?」

「あれ? お前休みたくないとか言ってたろ? 俺食うからいいよ」

「食べます食べます!」


「ここはもっと変えたほうがいいな」

「例えば?」

「例えばこのセリフ『私の何が分かるっていうの!』を『私のことなんて何にも知らないくせに!!』これに変えるだけで文の流れが変わるだろう? こういう感じで変えて欲しい」

「わかりました!」


「やったな! 10万部突破だ!」

「柳さんのおかげです! ありがとうございます!」

「バカ。お前の実力だよ。この調子で頑張っていこうな」

「はい!」


「本当あの頃から変わってないなーー」

「船橋、こっちの道を行けば外に気づかれずに出れるはずだ」

「柳さん?」

「あ? なんだよ。時間ないから早くし」

「柳さん本当にありがとうございました!」


ーーーー


「あの子も大きくなったね」

「あれからまだ2年しか経ってねぇけどな」

「君の指導の賜物だね」

「俺は何もしてねぇよ」

「潜り込んできたのに?」

「潜り込んできたのにだ」

そんな会話を旧友としてると段上が明るくなった。

スクリーンに彼女の名前が映る。

「お待たせしました!第78回茶川賞受賞作は『君の見える街で』船橋由香里!」






ミステリーはどこいったんだよ俺?


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