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「星」「歌い手」「最悪の城」
ジャンル「大衆小説」
「俺が何でこんなことに……」
俺はただの城の清掃サービス会社『デリバルゆっきゅん』に努めるしがない契約社員の一人だ。名前の通り毎日魔王やら、国王やら、教皇やら、大名やらのいわゆる「城」を清掃する仕事だ。かなり広い城を掃除するという仕事だが、以外にも専門の業者を頼るケースは多いため仕事には困ってない。ただし、財政難の国が多いため(特に魔王。勇者に金品を奪われるから)報酬はあまり高くない。そしてもちろん俺の給料も雀の涙、もとい蟻の涙だった。
そんな俺だがこの仕事は嫌いなわけでなかった。掃除は好きだし、芸能人に会えるし(ちなみに俺があった最も有名なのは織田○奈)掃除しかしなくていいのも好印象だった。
だけど、
「いくら俺でも仕事の途中で酔っ払った王様に呼ばれて歌えなんて言われてもって所なんですよ……」
目の前には諸国の大名、国王、教皇、そして魔王(なんで自国を滅ぼしに来る連中のパーティーにいるんだよ)が子供みたいに目を輝かせて、楽しみにこっちを見ている。
まずい、ここで仕事の契約内容に入ってないとはいえ、これを正直のこの場で言って逃げれば、仮にも目の前の奴らは商売相手、場の空気は白けて仕事が来なくなり倒産してしまう。
そして目の前の先輩たちの圧力がすごい。ここで成功すれば恩が作れると踏んでいるのだろうか。あの社長だから仕事だけが増えるぞ。間違いなく。
さらに言うなら今自分がここで醜態をさらしたら王様が打ち首にするかもしれない。手化する。俺が同じ立場ならする。間違いなく。
まあ、逆にこうして落ち着いていられるのも運命の瀬戸際という異常事態に遭遇したからなのだが。
うっわーめんどくせえ。
だいたい一発芸とかでもなく、なぜに歌という指定が入ったんだよ。おかしいだろ。普段局なんて「○レ晴レユカイ」とか「G○! G○! m○niac」とかがメインだぞ! 俺!無理だろ! しらけるだろ! 完全に積んでるじゃねえか!!
そんななか遅くないかというささやき声が会場内に広がり始めた。
まずい、このままでは問答無用で打ち首コースだ。
ええい、どうせ殺られるなら、殺られるまえにやってやる!!
「どうもーおまたせしましたー。それでは聞いてください。『星』」
はあ、はあ、歌ってやったぜ……どうだシンデレラなガールズのオープニングテーマは……踊りも完ぺきにやってやったぜ。打ち首でももはやいい。はよこの場から去らせろ。
と、息巻いていたが周りから拍手が沸き上がる。なかには涙を流す連中までいる次第だ。ふと肩をたたかれ、横を見ると無茶ぶりをしてきた王が立っていた。無言で手を差し出してきている。握手か? とりあえず握手をするとより拍手が強まった。
それから数か月後、俺は歌い手としてメジャーデビューすることになる。『最悪の悪声の持ち主』『ひどすぎて逆に感動する』といううたい文句で。やっぱあいつ最低最悪な城の王じゃねえか。
ジャンル無視してしまった……。