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甘い物は好きですか

その日の午後はだいぶ前から楽しみにしていた調理実習


課題の親子丼と後もう一品、これは各グループで好きなデザートを一品というかなり自由な調理実習だ。


「りんちゃーんこれ盛り付けていいー?」


「あーそれ私やるから郁はデザート取り掛かって」


「はーい」


ちなみに1グループ4人で男女混合だけど自由に組めたので私はりんちゃんと組んだ


私たちのグループのデザートはリンゴのケーキだ。

なんかすごく豪華なデザートに思えるかもしれないけど、リンゴは割といつでも手に入るし、このケーキでは煮詰めないで生のリンゴを生地にそのまま入れるからとても簡単。

簡単だけど豪華に見える!という理由でこれに決まった、味も美味しいしね!


「あ、橋本くんこれ切っちゃっていい?」


「うん、頼んだー」


グループが一緒の男の子は橋本くんと遠藤くん。二人とも料理はよくするみたいで、特に橋本くんはとても器用(玉ねぎ切るのすごいはやかった!)彼の指示に従えば大丈夫だろうと一緒にデザートを手伝うことにした


「あ、佐々木さんそれ切り終わったらここに入れちゃって」


「はーい」


橋本くんは料理も上手だけどそれを人に教えるのも丁寧でわかりやすいので楽しく作業ができた。




それからしばらくして料理が完成。


「おぉー!美味しい!ちゃんと親子丼だ!!!」


「ちゃんとって…当たり前でしょ」


「佐々木は主にデザート担当してたもんな」


「いやいや、やったのは橋本くんでしょ」


「橋本はデザート男子だもんな」


「意味わからんよ遠藤」


こんな感じで楽しく授業を終えた。いやぁ、普段からこんな授業だったら良いのになぁ


「郁、郁!」


「んー?」


お腹がいっぱいになってしまったのでケーキは家で食べようと袋に詰めていた時後ろからちょんちょんとりんちゃんにつつかれた


どうしたんだろう?


「郁、それ藤咲くんにあげたら?」


「え」


それ、と言ってりんちゃんが指差したのは今袋に詰めたばかりのあのケーキ


「え、なんでっっ」


「いいじゃない、藤咲くん喜ぶかもよ?」


…多分喜ばないんじゃないかなぁ


それに藤咲くん、甘い物好きなのかわからないし


私はとりあえず〝検討してみる〟とだけ言っておいた





放課後、


「あ、雨だ」


玄関でいつものように藤咲くんを待っていると突然雨が降ってきた。


「まいったなー傘忘れた」


少し歩けばコンビニがあるけど…わざわざ買うのもだし、


「ごめん遅れた」


「あ、藤咲くん」


と、そんなことを考えている間に藤咲くんが来てしまった。


…ど、どうしよう


「あー雨か…折りたたみしかない」


どうしようもうこれ入れてくださいとか言えないっっ!!!


「あ、えーと藤咲くん!私忘れ物しちゃったから、その、先に帰っててください」


こうなったら…っ、藤咲くんに先に帰っててもらおう!そうしよう!!


「は?気づくの遅くない?待ってるからはやくして」


…無駄でした


「す、すいません気のせいでした」


「は?」


「でも、えーと、あの、その」


「……。」


あああどうしよう、今更なんとも、傘忘れましたとか言えないし、えーと


「何、もしかして俺と一緒に帰りたくないの」


「まっ、まさか!帰りたいです、すごく!!それが一日の楽しみ…」


…って何を言ってる私!!


「楽しみ…なんですけどっ、迷惑はかけられません!!き、今日はお先に失礼します!!」


「は?!」


こうなったら全力で走る!!!


雨は相変わらずザーザーと降っているけど今はそれを気にできないっ、はやく走って駅まで着いてしまおう


「…っ、あんたはっ、バカなの?!」


「ひぁっ?!」


すると後ろにぐいっと手を引かれ、気づくと雨が止んでいた


上を向くと黒い折り畳み傘が


「藤咲…くん?」


息を切らせた藤咲くんが、私に傘をさしてくれていたのだ


「あのっ、私は大丈夫なので藤咲くんが濡れちゃ」


「…あのさぁ」


すると息を整えたらしい藤咲くんが話し出した


「君は、俺のことなんだと思ってるの」


「え」


「最初はパシリになろうとしたし、今は雨の中走って帰ろうとしたし」


「えっと…迷惑をかけるかな、と」


「当たり前でしょ」


ゔっ…わかってはいたけどそこまではっきり…


「別に、友達にだってこれくらいの迷惑はかけるでしょ」


「え」


「ていうか、俺は君の彼氏なんじゃないの、違うの」


「へっ?!あ、あの?」


戸惑っていると藤咲くんは、はぁっと深いため息をついて顔を上げた


「彼氏って友達より迷惑かけちゃいけないとかあるの?」


「…なっ、ないです」


「じゃあ傘くらい入れるよ、ほら、はやく来て」


「……はい」


呆れられてるはずだけど、藤咲くんが何気無く言った〝彼氏〟という言葉とか、こんな風に言ってくれる優しさとか


……どうしよう、嬉しい


「…何にやけてるの」


「はっ、いや、あの」


「はぁ、まぁいいけど…とりあえずもっとこっち寄れない?」


折り畳み傘は小さくて藤咲くん一人が入って丁度くらいの大きさだ


…こ、これ以上寄るって


「あ、あの、藤咲くん」


「何」


「……くっついても良いですか」


「…好きにすれば」


「はっ、はい」


まさかの承諾を得たので横にいる藤咲くんの腕を軽く掴んでそっと傘に入れるくらい寄ってみた


「………」


…近いっっ!!!

これは思っていたよりもずっと近い!うわああ自分でやった事だけど藤咲くんがこんな近くにっっっ


「…歩くよ」


「はっ、はい!」


緊張しながらもゆっくり歩き始めた。


「…」


「……。」


…沈黙がいつもより気まずい


なんだかこの距離のせいか、いつも以上に緊張してしまって頭がうまく回らない、というかそれどころじゃない


けど、せっかくいつもより近くにいれるんだし!なにか、話しておきたい


…そうだ


「あ、あの、藤咲くんって、甘い物とか、好きだったりしますか?」


今日の調理実習の検討を今してみよう、と意気込んでみた


「いや?別に」


けどあっさり終わりましたね!!


「あ、あはは…そうですよ、ねぇ」


うん、なんとなく、なんとなくはわかっていたんだ!けどね、希望は捨てられないじゃないか


「…何、なにかあったの」


え、これは言うべきなのかな


「えーと、対したことじゃないんですけど…今日調理実習をやってケーキを作ったんですけどお腹いっぱいで、もし良かったら藤咲くん食べるかなぁ…と」


「…。」


じーっと藤咲くんがこっちをみてる


「えっ、いやあの、別に家で自分で食べるので!すいません、なんか」


「ん」


「え?」


…突然藤咲くんが傘を持っている手と反対の手を私に出して来た


「……?」


そしてそのまま無言でみつめてくる。…なんだろう?


「こう、ですか?」


ポン、と藤咲くんにお手をするように手を置くと…なんだか険しい顔になってしまった


「……君は犬かなんかなの」


「え、違いましたか」


ハズレだったようで…じゃあ、何?


「頂戴」


「え?」


しびれを切らしたのか藤咲くんが険しい顔のまま話し出した


「ケーキ、俺にくれるんでしょ?」


「えっ!い、いやでもっ、別に無理しなくて」


「いいから、はやく」


「はっ、はい」


ポンと、次は手じゃなくあの袋を藤咲くんの手に置いた


「傘、一瞬変わって」


「あ、はい」


すると唐突に藤咲くんはその袋を開け出した


「?!」


そして中身を取り出して食べ始めたのだ


「え、あ、あの藤咲くん?!嫌いなら無理しない方が…」


「別に嫌いじゃないし、食べないとも言ってない」


お、お腹空いてたのかな


その後無言でモグモグと食べる藤咲くんが濡れないように傘をさし続けながらその様子を見ていた


…なんだろう、なんか、ものすっっごく緊張するんだけど


これで一言〝まずい〟とか言われたらなんか、うん、悲しいよね


そんな事を考えている間に藤咲くんは最後の一口を飲み込んだ


「…美味しかった、ごちそうさま」


「……!」


美味しかった…


「傘変わる…ってなんで肩びしょ濡れなの!」


「あ」


小さい折り畳み傘なので藤咲くんに傾けてさしていたらいつの間にか自分が濡れていたようだった


…でもまぁさっき思いっきり濡れたし、別に


「ちょっと、一回そこの屋根、入るよ」


「えっ、ちょ?!」


そう言ってグイグイ進む藤咲くんに着いていく。

屋根のあるところに着くと藤咲くんは少し大きめのタオルをカバンから出してそれをそのまま私の頭に被せた


「?!」


「あ、これ使って君は肩拭いて」


「あの、藤咲くん、私大丈夫で」


「頭とか、結構濡れてるし…なんで人にばっかさし続けるの、バカなの」


「ば、バカって…」


藤咲くんに頭を拭いてもらっているのですが、その、予想外に近いといいますか、タオル越しの手の感覚とか…匂いとか


…って私は変態かっっ


と、しばらく自分との葛藤に耐えているとパッとその手が離された


「それ、使ってていいから」


「あっ、ありがとうございます」


そしてまた傘が開かれ…改めてくっつくのは、すごく恥ずかしいけどこの際思い切ってくっついて、再び歩き出した


「…あのさ」


「はい?」


藤咲くんから話し出すなんて珍しいなぁ


とか考えていると突然ピタッと止まった…え?なんで?


そして藤咲くんは勢いよくこちらを向く、そして


「…ありがとう、郁」


「〜〜〜〜っっ!!」


そう言って軽く微笑んだのだ


「あ、はい!傘でしたらいつでも持ちますよ!!」


「…そうじゃなくて………まぁ、いいや」


「え?」


すると再び歩き出してしまったので慌てて私も歩き出した


「郁」


「うぇ?!は、はい!!」


名前を呼ばれると今だに照れてしまう、ていうかとても嬉しい


「俺は自分ではあまり食べないだけで、甘い物も嫌いじゃないから」


「…へ?」


そう、なんだ?だからケーキも食べてくれたんだ、良かった良かった?


…と首を傾げながら考えていると藤咲くんは顔を手で抑え出した


「…だから、その、また作ったら頂戴」


「〜っ!は、はい!是非!!」


そうか、藤咲くんは甘い物がもしかしたら意外と好きだったのかもしれない


あれ、もしかしてそういうの恥ずかしいと思って少し照れたのかな




その後しばらく顔を手で抑えている藤咲くんに甘い物好きな男の人も最近多いらしいですよ、と言うと、そういう事じゃない、と怒られてしまった




…うーん、何故だろう

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