藤咲くんと杉田くん
「……あ、あの、私…藤咲くんの事がすっ、すっ、好きです!」
「……。」
高校2年生、春
突然呼び出されて告白をされた。
正直、目の前で顔を真っ赤にしているこの子の顔も名前も知らなかったけど(彼女いわく昨年同じ委員会だったらしい)
「つまりっ、私は便利です!!」
「…。」
よくわからないけど、ただなんとなく付き合ってみることにした。
理由は特にない、彼女いわく便利で俺にとって損のない存在になると言っていたからだ。
「いやぁー、にっしても驚いたなあ」
「…なにが」
「彼女だよかーのーじょ!お前がまさか俺より先に恋人を作るとは…っ!」
「…。」
この目の前のうるさいのは同じクラスの杉田 純平。よほど暇なのか俺によく構ってくる
ていうか、こいつに彼女ができたとか言ったっけ…?
「そりゃあなー藤くんよ!俺は杉田純平だからな、大体のことは知ってるぞ!」
…今声にだしてないんだけど、心でも読めるの
「で?で?相手は誰なんだ?こーんな恋愛に興味なさそうなお前を虜にしたのはどこのだれなんだ??」
「は?別になんとなく付き合ってみただけであって、虜とかなってないし…ていうかいまいち付き合うとか言われてもピンと来ないし」
「ほーぉ」
なんだか面白そうな目でみてくる杉田を無視して席を立とうとすると突然、藤くんよぉ、と声がかかる。…今度はなに
「よくわからねぇなら話さなきゃだめだな!」
「………は?」
話??
「用も無いのに何を話す必要があるわけ」
俺がそう返すとにやにやした杉田がちっちっちっと指をふる…うざい
「わかってないねぇ藤くんは。なにも用事のない会話こそ恋人との関係を築く上で大事なわけよ!」
「………具体的にはどうするの」
はぁっとため息をついて諦めてこいつの話に付き合うことにする
するとまってましたとばかりににやっとした杉田が嬉しそうに言う
「まずは第一歩、一緒に帰る!!」
「…なんで」
「だーから!さっきから言ってるだろ、話すんだよ、色々と!!お互いを知るには同じ時間を共有するのが一番だ」
「…はぁ。」
力のない返事をするとやる気出せ!と怒られた。…本当こいつは何がしたいのかわからない
「…で、なんでこんなことに。」
気がつけば3組の教室の目の前。
後で行こうとしていたら〝今すぐ行け!〟と杉田に頭を叩かれたのだ。
なんでわざわざこんな所まで来なくちゃならないんだろう。
もうとっとと帰りを誘って自分の教室へ戻ろうと急ぎ足で3組に入ると
「前々から思ってたんだけどさ、あんたあれのどこが好きなの?」
「えっ、え?!」
すぐに彼女は見つかった、あのふわふわとした髪は間違いない。友達と話しているみたいだけど…これは声をかけていいのか?
「え、とまずはとてつもなく格好良い!!」
「…可愛いの間違いじゃないの?」
一体なんの話をしているんだろう、彼女は話に夢中になっているのか近づく俺に気づく様子がない
「ふ、藤咲くんは」
ピタッ、と思わず止まる。…俺?
「藤咲くんは委員会とかでもすごく仕事ができて、1年生なのに周りから頼られてて、それに…」
俺からは彼女の後ろ姿しか見えないけれど恐らく照れているのだろう。
…ものすごくわかりやすい
「私なんかにも気を配ってくれて仕事も教えてくれた…すっごく格好良いんだよ!」
それを聞いて完全に動けなくなる。…今なんて言った?格好良い…?
「ほんっとうに大好きなのね」
「うん、大好き」
友人の少し呆れたような問いにも即答
ため息をつきたくなった、
もうすぐ目の前まで近づいたこの子はなんですぐ照れるくせにそういうのは断言するのかな。…本当に理解できない
「ありがとうりんちゃん!」
「あのさ」
会話が切れた頃合いをみて声をかけるとものすごく驚かれた
口がパクパクと動いている、さっきまであんなに話していたのにどうして急に言葉が無くなるのか
「…あんた金魚にでもなったの?」
少し呆れながら問うとものすごい勢いで謝られた…いや、そんなに怒ってないんだけど
言い方?そういえばここに来る前に杉田にうるさいくらいに散々言われた気がする。お前はもう少し愛想をつけろと
…愛想ってなに。
そんなことを考えていると彼女の方から声をかけられた、何か用でもあるのか、と
〝あるよ、なんのためにここに来たと思ってるの〟
そう言いたかったけどなんか悔しくてつい顔を歪める。ていうか、なに
「…用がなくちゃ俺はここに来ちゃいけないわけ?」
「…え?いっ、いいえいいえ!まさか!そんなことないです!」
あー…また言い方?間違えたの?
本当にわかんない、めんどくさい
すると突然照れ出した彼女の口からとんでもないことが飛び出る
「わ、私に会いに来てくれたんですか?…なーんちゃって」
図星。
まさにそれ、思わず言葉につまる
それからゆっくりと息を吐き出す、とりあえず落ち着こう。俺は別にこの子に会いに来たわけじゃない、ついでだ、ここのクラスのやつに教科書を借りにきた。
「別に、あんたに用が無いって意味だけど」
「で、ですよねぇ」
言うと彼女はあからさまに落ち込む。…だから、いちいち分かり易すぎるんだってば
なんだかうまくいかなくてイライラしていると、突然彼女はわたわたと席を立って教室を出ようとする。
「は?」
いや、冗談じゃない。なんのために叩かれてまでここに来たのか
思わず目の前にある彼女の腕をつかむ。これには予想もしていなかったのか大きな目をこれでもかと広げてこちらを見てきた。
「…郁、私先にいってるから」
「え、ちょっ?!」
空気を読んだのか気まずそうに立ち去る友人。それをみて彼女はさらに動揺をみせる
…なにを言うんだっけとりあえず早く話をして早く終わらせないと
「さっきの…」
「はい?!」
「あんたぐらいだからね、あんな変なこと言うの」
言ってからしまったと思った。なんでこの事を話したんだ…
目の前の彼女はよくわからないみたいでさっきから〝?〟を浮かべている。
あぁもう、なんでわからないかな
「だから!!……その、格好良い…とか」
「え?!」
口に出すとものすごく恥ずかしかった。よくさっきの彼女は平然とそれを言えたものだ
ふ、とみるとまさかきかれてたとは思わなかったのか顔を真っ赤にさせているのが見える。…恥ずかしのはこっちだってば
顔を見せたくなくて俯いているとまた謝られた、何故かと聞くと気分を害したかと思ったと言われた。…そんなに不機嫌そうな顔してたのかな
…ダメだこのままじゃいつまでたっても終わらない。ただ用件を伝えるだけだ、さっさと
決意して彼女を見るとビクッと肩をゆらされた
「今日、帰り…一人?」
「え、はい。大抵一人ですが」
…じゃあ大丈夫か
「放課後玄関で待ってて。…」
彼女はまだよくわかっていない様子だったけど、それだけだから、と別れを告げて立ち去る。これで目的は果たしたし杉田にも怒られずに済むだろう
あぁ、疲れた
そう思いながら3組の友人の元へ向かう
「…教科書かしてくれない?」
「お?いいよ、なんの教科書?」
あれ、次の授業なんだっけ
「ごめん、やっぱいい」
バカだ、それくらいみてくればよかった
「おう、別にいいけど…お前大丈夫か?」
「は?」
「いや、顔、真っ赤だぞ?熱でもあんの?」
「…っ!ないよ、多分気のせい」
そう言って足早に3組を出る、自分の頬を触ると確かにあつかった、
慣れないことをするからだ、疲れたんだきっと
「……あぁもう、最悪」
呟きながら自分の教室へ戻ると杉田にまで顔が赤いと爆笑されたのでとりあえず殴っておいた。さっきの仕返しだ
今回は藤咲くん視点で書いてみました!かなり口数が少ないというか大事なことを言わない彼の頭の中はこんな感じです(笑)
次からはまた主人公である郁さんに戻ります(´・∀・)