目標達成…?
「郁っ!」
聞こえてきたのは必死な声、私の大好きな声。
「…て、え!?藤咲くん!?」
突然腕を掴まれて驚いて振り向くと、そこには息を切らした藤咲くんが居た。
「…この、こに…はぁ、なにかっ、用?」
腕を掴まれたものの、藤咲くんはこちらを見ることなく目の前の男の人に意識を向けていた。
「え、いや、あの」
「なに、この子ならぼーっとしてるから簡単に連れて行けると思った?」
…て、あれ?
ここでようやく私はこの状況の妙な違和感に気付いた
そしてすごい剣幕で男の人の顔を睨んでいる彼の腕を掴む
「誤解!誤解ですよ藤咲くん!!」
「…え?」
藤咲くんの目がやっと男の人から離れ、私を捉えた
「この人!!ただ私のことを妹さんと間違えてしまっただけなんです!」
「………は?」
***
「「…。」」
園内にあるベンチに座ること早10分。
…お、怒ってらっしゃる
チラッと隣の様子を確認するも顔を背けられてしまっているのでどんな表情をしているのかすらわからない。ただ一つ、わかるのは今藤咲くんは機嫌が良くない。
次に一体どんな呆れた言葉が来るのか、ビクビクしているとそれに気づいた藤咲くんが口を開いた
「…ほんと、あんたなんなの」
…もはや存在を呆れられてるっっ!!
「小学生に間違えられるとか…高校生としてどうなの…」
「…おっしゃるとおりです」
うな垂れた藤咲くんの柔らかそうな髪が風にふわっとゆれる。よく見ると首筋に汗をかいていた
…もしかして
「藤咲く…」
「…焦った」
「…え?」
彼がまっすぐこちらを見る、綺麗な目に私のマヌケな顔が映る
「全然戻ってこないし」
「す、すみません」
「かと思ったら知らない男の人に腕掴まれてるし」
「…すみません」
「しかもそれは小学生の妹に間違われての事だし」
「…………すみません」
う、耳が痛い、申し訳なさすぎてまっすぐ藤咲くんの目がみれない
「…まぁ、あんたがそういうのに巻き込まれやすい子だって知ってたのに油断した俺も悪いけど」
そう言って立ち上がると私に手を差し伸べてきた
「…?」
よくわからず同じように手の平を上にして差し出してみると、ふぅ、と藤咲くんにため息を吐かれた。
「逆」
そうして手を掴まれて手の甲が上になるようにひっくり返されたかと思ったら藤咲くんの手の平の上にぽんっと置かれた
「!?」
そうして訳も分からないままぐっと引っ張られ立ち上がり、彼を見つめるとバツが悪そうに目をそらされた
「…また探すの嫌だから、これなら平気でしょ」
「は、は、はいっ」
藤咲くんに手を取ってもらっているような状況に自然と頬が熱くなるのを感じる。まるで王子様みたいだ…なんて、乙女のような事を考えてみたり
て、そうじゃなくて
「あの…」
その前に言わなきゃいけない事がある。
私は握ってもらっている藤咲くんの手をもう片方の手で包み込むようにぎゅっと握った
「っ!」
「あ、ありがとうございました。…その、探していただいて」
さっき首筋にみえた汗はおそらく私の元へ走ってきてくれたときのものだろう、あの時藤咲くんは大きく息を切らしてくれていたから。…そう思って大きく見開かれた綺麗な目をみながらそう告げると眉間に深くシワを刻んでぶっきらぼうに、なにが…と返された。
「ふふ」
私は思わず笑ってしまった。顔が赤い藤咲くんを見たら、なんとなくくすぐったい気持ちになる
「…なに笑ってるの。ほら、行くよ」
「わっ」
少しゴツゴツとした手に引かれて再び園内を歩く。いつも私に合わせて歩いてくれる藤咲くんだけど手をつなぐとさらに距離が近くなるものだから心臓がいつもの倍以上うるさい
あ、そういえばこれは目標達成…てことでいいのかなりんちゃん
手を引かれている、と手を繋いでいる、ではなんとなく大きな溝がある気がしなくもないけど…まぁそこは見逃してもらいたい
そういえば書き忘れましたが、郁が間違えられたあの迷子の小学生の女の子ですが迷子センターで無事に出会えたそうです。めでたしめでたし




