タオルのお礼(後)
「……い」
…?
「…い、……く」
何だろう?誰かの声
「あ」
声がする、と思って目を開けると
「やっと起きた」
「………」
「あら、起きたの?良かった良かった、気分はどう?」
「っっっ?!?!」
保健の先生と藤咲くんがいました
……いやいやいやいや
え、なんで?!ていうか今何時
「本当によく寝てたわねぇ、もう大分暗いわよ?」
「え、…5、時?」
5時?!
「あの、あれ?私確かここに来たの3時間目くらい…」
「…いくらなんでも寝すぎじゃない」
ぼそっと呟くと明らかに隣から引いたような声。いや、あの私もドン引きですよ
「まぁ、ただの睡眠不足みたいだし今日はもう早く帰りなさい。帰ってちゃんと休むこと」
「あ、え、はいっ、お世話になりましたっ」
「じゃあ、帰るよ。」
「え?!は、はい!失礼します!!」
「失礼しました」
「はいはい、お大事にー」
私は慌てて藤咲くんの後を追って保健室を後にした
え、なにがどうなってこの状況なんだ??えーと、順を追って思い出そう、私は昨日藤咲くんにタオルを返そうと
そこでハッと気づく
「あっ、わ、私、荷物!!」
「はい、それならここ」
ここ、と言って藤咲くんは私の荷物を差し出してくれた
「え?!あ、わ、ありがとうございます!」
「……とりあえず落ち着けば?」
未だ混乱状態の私を見越してか藤咲くんは少し呆れ気味にそう言った。…落ち着きたいのは山々なんですけどね?!
「あ、…え、…えっ…と」
「何?」
藤咲くんはピタッと立ち止まって私の言葉待つように首を傾げた
どうしよう、一体何から聞いたら良いのか
「えーと、あ、藤咲くんは、何で、えーと」
「あそこに居たのかって?友達が教えに来てくれたんだよ、郁が保健室で寝てるって」
り、りんちゃんでしたか。でも良かった、私が寝たままだったら藤咲くんずっと待ってる事になるもんね…て、結局待ってもらったんだけども
りんちゃんには後でちゃんとお礼を言おう
「えーと、あの、それじゃあ」
「あのさ」
「はっ、はいぃ?!」
次の質問を考えていると突然藤咲くんが話をはじめた。そして……え?
「あ、あの…藤咲くん?」
「何」
「何って…え、と」
突然藤咲くんがこちらに身体を向けたと思ったら丁度私と顔が合うところまで屈んできたのだ
「え、…えっと、あの」
う、ち、近いっ!普段顔をあわせることなんて身長的にも無いから、その、ドキドキしちゃって前が…見れない
…もう無理っっ!!
そう思って少し俯いてギュッと目をつむると
ペチッ
「いた?!」
突然おでこに…
「え、え?で、こピン?」
おでこを抑えながら見上げると少しむっとした藤咲くんと目が合った。え、な、なぜ?!
「あんたはさ、バカだよね」
「バッ…!」
なんかつい最近も聞きましたよそのセリフ!!
すると藤咲くんは不機嫌な表情のまま話し出した
「……友達から全部聞いたんだけど」
「ぅえ?!」
ぜ、全部って…まさか
「お礼作ったせいで寝不足になって保健室にお世話になるってバカでしょ、本当になにやってんの」
全部だああ!!本当に全部バラされてる!まだ渡してないのに!!うわああ、すごく恥ずかしいしこんなに呆れられたんじゃお礼のお菓子とか受け取ってもらえないかも、
藤咲くんは眉間にまでシワがよっていた
「はぁ、こっちがどれだけ…」
「え?」
「……っ!」
「うわっ!?」
藤咲くんの呟いた言葉がうまく聞こえなくて上を見上げると突然上から藤咲くんの大きな手で視界を塞がれてしまった。ペチッていった今、い、痛い
「とにかく、そういう事は今後周りの迷惑になるからやらないで」
「……はい」
そういうとスッと手が退けられて藤咲くんは再びそっぽを向いてしまった。
「本当に今日は迷惑をかけてすいませんでした…あの、いらないとは思うんですけど、これで最後にするのでタオルと、良ければお礼を受け取ってもらえると」
「ちょっと待って」
「え?」
まさかの制止をくらい私は完璧に固まりました。ていうか、やっぱりクッキーいらないってことかっ…そんなに嫌だったのかな
そんな事を考えてさらに落ち込んでいると少し焦ったような藤咲くんが話し出した
「なんか誤解してるみたいだから言うけど、その、お菓子がいらないだとか、迷惑だとか思ってないから」
「へ?」
思わず聞き返すと藤咲くんは、やっぱり…と息を吐きながら呟いた。
「そうじゃなくて…それのせいで寝不足とか、体調崩すのとかはやめてって…こと」
「え、は、はい」
…そっか、自分のせいで体調崩されても責任感じるしね。あぁ、やっぱりバカだ私は
と、下を向いて自己反省をしているとふいに手に乗っていた重みがなくなる
見上げると藤咲くんがそれを持っていた
「…クッキーも好き、ありがとう」
「っっ!はい!…はいっっ」
藤咲くんは優しい顔で笑ってくれた。
…よかった、受け取ってもらえないんじゃないかと思ったから
「え、ちょ?!なんで泣くの」
「え、…すっ、すいま、せん」
気づくと私の目からはポロポロと涙があふれていた。
ずっと申し訳なさや不安で張りつめられていたところ藤咲くんが笑ってありがとうと言ってくれて
「あ、安心…っ、したら、なぜか」
「……。」
すいません、と言って急いで涙を拭く。本当に何泣いてるんだろうか、子どもじゃあるまいし藤咲くんにまた呆れられるよ。
そんな事を考えながらゴシゴシと目をこすっていると突然ポンっと頭に
「…え?」
「…目、こすると腫れるからやめな」
「え、と。…はい」
藤咲くんの手が私の頭に乗せられていた。
…えーと、これは、聞いた方が、いいのかな
固まっているとその手が動いて私の髪の毛をわしゃわしゃとした
「へ?えっ!?」
さすがに驚いて、藤咲くん?!と藤咲くんを見ると彼はそっぽを向いて
「はやく泣き止んでくれる」
と言った。
まさか、これは…頭を…撫でてもらってる?
「っっ!!」
これが藤咲くんの優しさだと感じた瞬間私は自分の顔が一気に熱くなるのを感じた。
きっと照れているのだろうその手は頭を撫でるには少しだけ強いけれど、デコピンの時やタオルで拭いてもらった時感じた手の感触よりずっと暖かくて。
…もう少しだけ
私はさっき驚いて引っ込んでしまった涙をうつむいて隠して、藤咲くんに悪いなぁと思いながらもしばらくこの優しい手の温もりを感じて頬を緩めていました




